歯科治療には、痛みや不快感を伴うものが多いため、苦手意識を持っている人も少なくありません。虫歯治療や抜歯などでは、処置から2〜3日は強い痛みを伴います。根管治療に関しては、治療期間が長くなると同時に、痛み止めが効かないほど強い症状が現れることもあるため、注意が必要です。ここではそんな根管治療で痛み止めが効かない原因と対処法を治療のフェーズごとに解説します。今現在、根管治療の痛みに悩まされている人は参考にしてみてください。
根管治療とは
- 根管治療について教えてください。
- 根管治療とは、歯の中に存在している根管という空洞をきれいに清掃する処置です。根管の中には、歯の神経と血管の束である歯髄(しずい)が存在しており、細菌によって汚染されている場合は取り除く必要があります。いわゆる抜髄を行った後も、根管内には依然として病変が残っているため、さまざまな器具や薬剤を使って無菌化しなければなりません。歯の神経まで細菌に侵された症例で根管治療を行わない場合は、抜歯を余儀なくされます。
- 根管治療の一般的な流れはどのようなものですか?
- 根管治療は、次のような流れで進行します。
- STEP1:歯の神経を抜く処置(抜髄)
- STEP2:根管の拡大・形成
- STEP3:根管内の洗浄・消毒
- STEP4:根管充填
- STEP5:土台の築造・被せ物の装着
これは初めての根管治療で、歯髄が残っているケースの流れとなります。STEP3まではスムーズに進めることができますが、STEP4の根管充填に至るまでには、複数回の通院が必要となります。
- 根管治療の種類について教えてください
- 根管治療の種類は、抜髄、感染根管治療、再根管治療、外科的歯内療法の4つに大きく分けられます。
・抜髄
歯髄を抜き取る処置です。虫歯などで歯髄が感染し、保存が不可能になった時に適応されます。局所麻酔で感覚を麻痺させた上で、クレンザーなどの専用の器具を用いて抜き取ります。抜髄後は、虫歯によるジンジンとした自発痛は消失します。・感染根管治療
虫歯の進行によって感染した根管内をきれいに清掃する治療です。一般的なケースでは、抜髄とセットになっている処置で、根管内に残った神経の断片を完全に取り除くことも目的としています。複数ある根管を1本1本、清掃し、すべての根管が無菌化されたら薬剤を充填します。・再根管治療
過去に抜髄および感染根管治療を行ったケースで、虫歯が再発した場合に適応されます。被せ物と土台、充填物を撤去してから、根管の拡大・形成・清掃を改めて行います。・外科的歯内療法(げかてきしないりょうほう)
通常の根管治療では十分な効果が得られない場合に適応される外科処置です。歯の根の先を外科的に取り除く歯根端切除術(しこんたんせつじょじゅつ)や歯を抜いた状態で根管治療を行う再植術(さいしょくじゅつ)などが標準的な外科的歯内療法です。外科処置が主体となるため、患者さんの心身には比較的大きな負担がかかります。
- 根管治療のメリット・デメリットを教えてください
- 根管治療には、次に挙げるようなメリットとデメリットを伴います。
【メリット】
- 成功すれば歯を抜かずに保存できる
- 虫歯による痛みを取り除ける
- 感染が広がるのを抑えられる
- 歯の機能や審美性を回復できる
【デメリット】
- 治療期間が長い
- 治療中、治療後に痛みを伴うことがある
- 治療をしても治らないことがある
- 歯が脆くなる
根管治療で使われる痛み止めについて
- 根管治療で一般的に使用される痛み止めは何ですか?
- ロキソニンやボルタレン、カロナールといった鎮痛薬です。根管治療だからといって特別な痛み止めを使用しているわけでなく、どれも薬局で手に入るものばかりなので、処方薬がなくなった場合は自分で購入することが可能です。
- 痛み止めの種類とその効果にはどのような違いがありますか?
- 鎮痛薬の種類は、局所に作用するものと中枢に作用するものの2つに大きく分けられます。上段で取り上げたロキソニンやボルタレンは前者に当たり、主に抗炎症作用を発揮します。カロナールは脳の体温中枢に作用して解熱作用を発揮します。その後に痛みを感じる視床と大脳皮質に作用して、痛みを軽減するのです。このように、痛み止めにはいくつかの種類があり、それぞれで作用する部位や効果に違いが見られるのですが、痛みを軽くするという点においては共通しています。
痛み止めが効かない時の原因
- 根管治療中に痛み止めが効かない場合、どのような原因が考えられますか?
- 一般的には「フレアーアップ」という現象が考えられます。これは根管処置による刺激で根尖部に急性の炎症反応が生じる現象で、すべてのケースにそのリスクを伴います。具体的には、ファイルやリーマーなどの根尖孔外への突き出しや次亜塩素酸ナトリウムなどの洗浄剤が根尖の外へと漏れ出ることが原因となります。急性の根尖性歯周炎ともいえるフレアーアップが生じると、極めて強い炎症反応が生じることから、痛み止めの効果が薄れてしまいます。
- 痛み止めが効かない場合の対処法はありますか?
- フレアーアップの症状は、根管治療を適切に進めていくことで改善できますが、応急的な処置としては患部を冷やすこと、患部を刺激しないこと、口腔内を清潔に保つこと、などが挙げられます。痛み止めの効果が十分に得られないからといって、用法・用量を守らない形で鎮静剤を追加するのはよくありません。痛みが強くてどうしても我慢できない、日常生活に支障をきたす、といった場合は、急患に対応してくれる歯科医院を受診しましょう。
- 根管治療後に痛みが続く場合、何が原因ですか?
- 根管治療後も2〜3日は痛みが続きます。それは根管処置による刺激や充填物による圧迫、化学的刺激が加わっているからです。それが根管治療から1週間以上経っても改善せず、かえって痛みが強くなるような場合は、病変の取り残しが考えられます。根尖部に膿の塊が出来ている可能性も否定できません。ケースによっては、根管の壁に穴があいていたり、歯根が折れていたりする場合もあります。いずれも自然治癒が望めないものなので、改めて歯科医院での処置が必要となります。
- 効果的な対処法はありますか?
- 根管治療後に続く痛みへの対処法は、原因によって異なります。
・病変の取り残しがある
根管内に残っている病変をきれいに取り除く必要があります。その際、ラバーダム防湿やマイクロスコープ、ニッケルチタンファイルなどを活用した精密根管治療を選択するのが望ましいです。ラバーダム防湿で無菌的な治療環境を確立し、マイクロスコープで視野を肉眼の数十倍程度まで拡大できれば、病変を取り残すリスクも減らせます。根管が大きく彎曲した症例では、しなやかに追従するニッケルチタンファイルが有効です。・根尖部に膿の塊が出来ている
いわゆる根尖性歯周炎を発症していると、根管治療後も痛みが継続するため、その症状を根管治療で改善しなければなりません。難治性の場合は、歯根の先端と根尖部の病巣をまとめて取り除く歯根端切除術(しこんたんせつじょじゅつ)や再植術が適応されます。・根管壁の穿孔や歯根の破折
根管の穴や歯根の破折部位をMTAセメントなどで塞ぎます。セメントによる修復が難しい場合は、該当する歯根のみを切除する場合もあります。それでも改善が見込めないケースでは、抜歯を余儀なくされます。
編集部まとめ
このように、根管治療ではいくつかの理由で痛み止めが効かないことがあります。それは治療のフェーズごとで原因と対処法が異なりますので、自分のケースがどれに当てはまるのかを冷静に見極めることが大切です。根管治療中に起こるフレアーアップは、主に根管処置による刺激が原因となります。 根管治療後も痛みが続く場合は、さまざまな原因が考えられることから、まずは精密検査を受けることをおすすめします。痛み止めが効かない、痛みが治まらない原因を突き止めた上で、適切な処置を施すことが大切です。こうした診断および治療は歯科医師でなければ行うことができませんので、決して自己判断はせず、専門家の意見を求めるようにしてください。
参考文献