根尖性歯周炎を発症してしまったときにどのような症状が出現するのか、どのような治療が行われるのかをご存じでしょうか。
根尖性歯周炎では病変のある歯の根まで治療をする、根管治療が行われることがほとんどですが、この治療は必ず成功するわけではない難しい治療です。
この記事では、根尖性歯周炎とはどのような病気なのか・治療法・症状・予防法について解説します。根尖性歯周炎になってしまった方、疑わしいとお悩みの方のお役に立てれば幸いです。
根尖性歯周炎とは
根尖性歯周炎とは、歯根の尖端に炎症が発生し膿が溜まった状態のことです。膿が溜まる原因は、歯髄炎という歯がしみるなどの状態を放置することで、歯髄壊死の状態になります。
壊死すると細胞の血流が悪くなるので、白血球などの免疫機能の働きが弱まります。そのため歯の内部にある髄腔という部分が多数の細菌によって腐敗し、歯髄壊疽となり歯根周囲の組織に感染が拡大、膿が溜まり周囲の骨を溶かしていくのです。
根尖性歯周炎は慢性期と急性期にわけられます。慢性根尖性歯周炎とは、痛みが少ないので症状を自覚することが少ないです。なぜ症状を自覚できないかというと、嚢胞壁という膜ができ、感染が拡大しないよう膿を閉じ込めているからです。
この嚢胞壁が大きくなることで、歯がグラグラしたり、噛んだときに違和感を覚えたりするようになります。
急性根尖性歯周炎とは、慢性根尖性歯周炎が急性化したものです。体調不良などで免疫が低下したときに発症しやすくなります。急性期では強い痛みを感じるのが特徴で、特に咀嚼をすることが困難になります。
根尖性歯周炎の治療方法
根尖性歯周炎の治療法でよく行われるのは、歯の内部にある腐敗物や細菌を取り除く根管治療です。
その他にも、細菌の数を減らすため歯の根の部分を3mm程度除去し治癒に導く歯根端切除術方法や、歯を一度抜いて取り出し病巣を除去して埋め直す意図的再植術が行われることもあります。
根管は細くて複雑に入り組んだ構造のため治療が困難な場合もあります。治療の成功率は初回根管治療で80%程度、再根管治療で60%程度です。
根管治療で大切なのは、根管内の細菌をきれいに除去・消毒し、新しい細菌を侵入させないことです。周囲の歯を守るため、ラバーダムと呼ばれるゴムのマスクを装着し治療が行われます。
急性期のときには、抗生剤の投与を併用することもあります。以下では具体的に根管治療がどのように行われるのか解説していきます。
むし歯などの感染除去
まず最初に行われるのは、むし歯や歯の咬合面を削り、歯の根に溜まった膿や汚染された歯髄の除去です。
むし歯が大きいときには歯の神経をとる必要がありますし、神経が炎症を起こしているときにも神経も取り除く必要があります。過去に根管治療を行っている場合には、内部に詰まっている古い薬も一緒に取り除きます。
根管清掃
細菌や腐敗物を取り除いた後に行うのは、根管内部の壁の清掃です。細菌を少しも残さないよう消毒薬を使用し丁寧に行い、一度歯に仮の蓋をし、その状態で数週間様子を見ます。
炎症を起こしていた部分からは感染源がなくなっても膿が出ることがあるため、痛みが落ち着き歯の内部から膿がきれいになくなるまで、清掃と消毒を繰り返します。
根管治療は、数mm単位の細やかな作業が必要です。歯根部の湾曲が強い場合や、歯髄腔が枝分かれや吻合している場合には器具が奥まで届かず、感染病変をきれいに取りきることが難しくなります。
また歯髄腔が細すぎると隅々までに掃除ができなかったり、このあとの充填物を隙間なく詰めることが困難になったりすることがあるので、歯髄腔を少し広げる処置をすることもあります。
消毒液・薬剤注入
すべての症状が落ち着いたら最終的な薬剤を詰めます。根管充填の目的は、歯の根に細菌が侵入しないようにスペースを埋めて封鎖することです。
歯の根の中が空洞だと歯が破損しやすくなってしまいます。このときの詰め物はガッタパーチャと呼ばれるゴム状のものやMTAというセメント状のもの、シーラーと呼ばれるものを使用します。これらは保険で使用できるものと、自費でしか使用できないものがあります。
どの充填物を使用するかは歯科医院の取り扱いによっても変わってくるので、治療の際はメリットとデメリットを確かめるようにしましょう。
型取り
根管治療を行うために歯の上部を外している状態ですので、その歯に被せる被せ物の型取りが必要です。少しでも隙間があるとそこから細菌が侵入し再度感染ということも考えられますので、ご自身の歯にあったものを作成、使用する必要があります。
被せもの装着
患者さんが希望する見た目の被せもの、耐久性のよい被せもので咬合面を修復し治療終了です。少しでも隙間があると、細菌が侵入し再発してしまう可能性があるので注意が必要な作業です。
根尖性歯周炎の原因
根尖性歯周炎の原因は以下のものが考えられます。どれもお口のなかのトラブルを長期間放置することで炎症による膿が発生し、根尖性歯周炎になります。原因について解説します。
むし歯での神経壊死によるもの
むし歯菌が歯の根の先で増殖すると、歯の神経の血流が減少し神経が壊死する歯髄壊死という状態になります。細菌は歯根周囲の組織にも影響を与え膿が溜まり根尖性歯周炎になります。この経過で歯髄壊死を起こしてしまうのはむし歯の細菌だけでなく、歯周病の細菌も考えられます。
複雑な根管治療によるもの
根管治療の治療歴がある患者さんは、過去の治療が根尖性歯周炎のリスクになります。一度根管治療を行った歯の内部には血管がないので血流がありません。血流がなければ免疫が働きませんので、少しでも細菌が侵入すると増殖しやすいのです。
根管に詰める根管の消毒薬や充填剤が、歯の根の先から漏れ出ることで歯周炎が発生します。この歯周炎により歯根内部に膿が溜まり根尖性歯周炎になることがあります。
歯根が割れたり折れたことによるもの
歯に強い力が加わり歯に亀裂が入ったり、ぶつけて歯が折れてしまったりした場合には歯や歯肉に細菌が侵入します。速やかに治療をしないと細菌は神経の働きを奪っていきます。これを放置することで、歯の血流が少なくなり細菌が増殖、膿が溜まり根尖性歯周炎になるのです。
根尖性歯周炎の症状
この項目では、一般的によく出現する症状をまとめました。ですが、必ずこの症状が出るとは限らないですし、一度根管治療をしていて神経がない場合などは症状を自覚しにくいです。
根尖性歯周炎を放置すると膿が目の下の空洞に入り込み眼の下が腫れたり、副鼻腔に膿が入り副鼻腔炎や頭痛を起こしたりすることもあります。
歯に違和感がある
歯の根がむし歯菌や歯周病菌によってダメージを受けます。歯の根が脆くなり、咀嚼時に歯が浮いたように感じることがあります。
歯茎の痛み
咀嚼時に痛みを感じることもあります。歯の根の先から出る毒素によって歯根膜炎という歯の周囲組織である歯根膜に炎症が起きているためです。歯茎が腫れる前が一番痛みが強いです。
歯茎の腫れ・膿が生じる
歯の根の先の病巣が化膿することで歯茎が腫れていき、病巣に膿が溜まることで歯茎は赤や黄色に腫れていきます。膿が大量に溜まるとその分痛みが強いです。
歯の根の中の膿が嚢胞壁と骨膜を破り歯肉にも細菌が侵入していくことで、歯肉が腫れる歯槽膿漏という状態になります。歯肉が腫れてくると痛みは軽減し、膿が出てくるようになると痛みを感じなくなることがほとんどです。
根尖性歯周炎の予防法
根尖性歯周炎の予防はお口のなかにトラブルがない状態が予防となります。具体的にどのようにトラブルを起こさないようにしていくか、解説していきます。
むし歯の早期発見
根尖性歯周炎の原因は歯髄炎を発症し放置してしまうことともいえます。歯髄炎の原因は、むし歯を放置することで、細菌や細菌の作る毒素が歯の内部にある神経にまで到達してしまうことです。
その歯髄炎をさらに放置すると根尖性歯周炎を発症してしまいます。ですので、むし歯を早期発見し治療することが大切です。むし歯を早期発見するためのセルフチェック項目をご紹介します。
- 歯に白い斑点ができる
- 歯が少し痛んだり、敏感だったりする
- 歯の変色
- 食後のお口の中のチェック
この4項目に当てはまらないか定期的にお口のなかのチェックをしましょう。上記項目についてなぜそのような症状が出現するのか、さらに詳しく解説していきます。
歯に白い斑点ができるという状態は、歯のエナメル質が剥がれてきているサインです。エナメル質は歯の表面を覆い、細菌やウイルスから歯を守る堅い組織のことです。
歯に白い斑点がいつから出現しているか見分けがつきにくいので、定期的に歯を観察し変化に気付けるようにしておきましょう。そのときには前歯など見えやすい歯だけでなく、奥歯などの見えにくい歯も観察するように意識することが大切です。
歯がいつもより敏感なのはエナメル質が薄くなることで、歯の内部が敏感になり痛みや刺激に弱くなって出現する症状です。この症状はむし歯の初期サインである可能性があります。
冷たいものや熱いものを食べたときに違和感を覚えるようであれば注意が必要です。歯が茶色くなったのを発見し、むし歯を疑って歯科医院で受診する方もいるのではないでしょうか。
これは歯のエナメル質に穴があき、黒ずんで見えている状態です。この穴が深くなっていくことでより黒ずんで見え、むし歯の痛みを伴うようになります。
少しでも歯の色に変化を発見したときには、なるべく早く歯科医院で受診しましょう。
食後のお口のなかの観察では、食べ物が歯の間に詰まっていないかとその位置を確認することが大切です。食べ物が詰まりやすいということは、歯垢がつきやすいということです。該当部位の汚れを丁寧に落とせるような歯磨きを心がけましょう。
口腔衛生を保つ
お口のなかを清潔に保つためには、正しい歯磨き方法を習得することが必要です。歯科医院によっては、定期的な受診で、患者さんにあった歯磨き方法の指導をしてくれることもあるでしょう。
歯ブラシを使用して歯磨きをするだけでなく、フロスを使用し歯と歯の間の歯垢を丁寧に取り除くことが大切です。
マウスウォッシュは歯間ブラシの代わりにはなりません。お口のなかの細菌を除去するためには有効です。
むし歯になりやすい人の要因には、砂糖摂取量が多い・間食回数が多い・歯磨きの回数が少ない・磨き残しがある・唾液の量が少ないといったことが考えられます。これらの対策として、食事の後には歯磨きを必ずする・毎日歯間ブラシを使用することがよいでしょう。
唾液量を増やすために、日々よく噛んで食事をすることをおすすめします。歯磨きに使用する歯磨き粉では、フッ素入りのものを使用すると歯の質を強化してくれます。成分まで確認して、使用するとよいでしょう。
定期的な通院・メンテナンス
自分ではお口のなかの隅々まで確認するのは難しいでしょう。きちんとお口のなかのトラブルがないかを確認するには、定期的に歯科医院に通院することが大切です。
お口のなかにトラブルのない方であれば、年に2〜4回程度の受診が理想です。歯科医院に通院することで、お口のなかにトラブルがないことを確認してもらえますし、付着している歯垢や歯石を専門的な機械で除去してくれるのでむし歯予防にもなります。
歯科医院によっては、歯垢の着き方の特徴から患者さんに合った歯磨き方法を指導してくれるでしょう。
根尖性歯周炎で抜歯が必要になるケース
根尖性歯周炎は根管治療では治療できず、抜歯となる場合があります。根管治療を行うには、歯髄部以外は保たれており強度がしっかりしていることが必要です。
細菌によって歯の根や歯槽骨が溶けており歯がグラグラする、歯の根の破損によって歯の強度が保たれていない場合には抜歯が適応になります。また複数回の根管治療を行っても根尖性歯周炎を完治させることができなかった場合にも、抜歯が必要になることがあります。
抜歯が必要かの判断は歯科医師によって異なることも考えられます。納得できなかったときには、セカンドオピニオンを検討することもよいでしょう。
まとめ
根尖性歯周炎は、発症してしまうと症状が強く出現し、治療が難しい病気です。根尖性歯周炎を発症しないよう、お口のなかにトラブルが起きないようセルフチェックと正しい歯磨きを行うことが大切です。
自分でお口のなかを隅々まで観察することは難しいので、定期的にお口のなかのプロフェッショナルである歯科医院を受診し、専門家の眼で確認してもらうようにもしましょう。
根管治療が必要になったときには、歯科医院によって治療方法や使用する薬剤などが異なります。納得した治療を受けられるよう、不明点はきちんと確認するようにしましょう。
参考文献