むし歯の治療後に痛みが引かず、歯科医師に「根管治療が必要です」と言われたときに戸惑った経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか? 歯の神経を取り除く根管治療は、思わぬタイミングで必要となるとされていますが、どのくらいの頻度での治療が必要になるのか理解しておくことが大切です。 本記事では根管治療の治療頻度について以下の点を中心に紹介します。
- 根管治療を受ける頻度
- 再根管治療について
- 根管治療の治療頻度を抑えるために
根管治療の治療頻度について理解するためにも、ご参考いただけますと幸いです。 ぜひ最後までお読みください。
根管治療とは
根管治療は一体どんな治療なのか、どんな工程を経て行われるのか、分かりにくい部分があるかと思います。
以下では、根管治療と根管治療の流れについて初心者の方にもわかりやすく解説します。
根管治療とは
根管治療とは、歯の中心部にある歯髄(しずい)という神経と血管の束が細菌に感染し、激しい痛みを引き起こす問題を解決するための治療法です。歯髄がむし歯の進行などで感染すると、治療を行わない場合、歯髄が壊死してしまい、最終的には歯を失う恐れがあります。
この問題に対処するために行うのが根管治療です。この治療では、感染した歯髄を取り除き、歯の根の内部(根管)を丁寧に洗浄し、消毒します。根管は複雑に入り組んでいるため、このプロセスには高い技術が必要とされます。
根管治療を行うことで、歯の神経は失われますが、歯自体は救えます。抜歯は最後の手段として考えられますが、根管治療により痛みの原因を取り除き、自身の歯を健康に保つことが可能です。このため、根管治療は歯を救うために重要な選択肢といえます。
根管治療の流れ
根管治療は、8つの工程を経て行われます。
- 1.検査
まずは口の中の状態を目視で確認し、レントゲンやCTなどの検査機器で、根管内部の詳細を診断します。感染の広がりを見極め、治療計画を立てるための重要な段階です。 - 2.むし歯やかぶせものの除去
次に、歯の表面を一部削り、根管に到達できるようにします。健全な歯をできる限り残すよう細心の注意を払います。必要以上に削らず、大切な歯の組織を温存します。 - 3.神経や古い詰め物の除去
感染した神経や血管、以前の根管治療で入れた古い薬剤などを丁寧に取り除きます。根管内部の構造は複雑で入り組んでいるため、しっかり除去するのが肝心です。取り残しがあれば治療に支障をきたします。 - 4.根管内部の掃除・消毒
削り落とした歯の欠片などが根管内に残らないよう、洗浄・消毒を行います。この工程が不十分だと、細菌が残り、再び感染が広がる恐れがあります。 - 5.貼薬剤の投与
炎症や感染が疑われる場合は、根管内に消毒薬を詰め、しばらく経過を見ます。感染をしっかりと押さえるための処置です。状況に合わせて薬剤を使い分ける必要があります。 - 6.根管の充填・密封
根管内が清浄化されたら、歯科用のセメントなどで隙間なく充填し、外部からの細菌侵入を防ぎます。充填が不十分だと、次第に細菌が侵入し、再発のリスクにつながります。 - 7.支台やかぶせものの土台形成
充填が終わると、次はかぶせものを装着する準備に取り掛かります。むし歯で削った部分がある場合は、歯に強度を持たせる支台の形成も必要不可欠です。土台となる部分を丁寧に作らないと、後の段階でトラブルにつながる恐れがあります。 - 8.かぶせものの装着と調整
最後に、あらかじめ製作したかぶせものを装着し、噛み合わせを整えれば治療完了です。かぶせものの形状や装着の際の注意点など、細かい点にも気を配る必要があります。
根管治療を受ける頻度
根管治療は、どれくらいの頻度で治療を受けるべきなのでしょうか?以下では、根管治療の治療回数について、前歯の場合と奥歯の場合に分けて解説します。
根管治療の回数の目安
根管治療は、一回で完了するものでは稀であるとされます。歯の根っこに感染した細菌を除去するには、複数回の通院が必要となる傾向です。
根管治療は、痛む歯の神経を抜き取る処置ですが、その後も感染した部分の消毒や細菌の除去作業が欠かせません。細菌が残っていると再び炎症を起こしてしまうからです。そのため、一回目の処置後、次回の治療で再度消毒を行い、しっかりと細菌を取り除く必要があります。
消毒作業を繰り返し、細菌が取り除けたことを確認してから、最後に歯の根っこの部分を詰めて治療を終了します。症状や感染の程度によっては、回数が増える場合もあります。 根管治療を受けるためには、複数回の通院が必要なことを理解しておくことが大切です。しっかりと通院して、丁寧な処置を受けることで、治療効果が期待できます。
前歯の根管治療
前歯はその構造から、奥歯より根管治療しやすいとされています。これは、前歯は根管が1本しかないため、治療期間や診療回数を減らせるからです。具体的には、前歯の根管治療は、異常がない場合、初回診療で完了することもあります。その後、必要に応じて2〜3回の通院で、かぶせものを装着し、治療を完了することが少なくないとされています。
しかし、前歯の再治療の場合は状況が異なります。再治療では、以前の詰め物を取り除く作業が必要になり、さらに神経を取り除いたことで歯が脆くなっているため、慎重な扱いが求められます。このため、再治療の際は5〜7回程度の通院が必要となります。
このように、前歯の根管治療は初回治療と再治療で大きく異なる点があり、再治療の場合はより多くの注意と手間が必要になります。
奥歯の根管治療
奥歯の根管治療は、前歯より難易度が高くなります。この主な理由は、奥歯が持つ複雑な構造にあります。具体的には、前歯が通常1本の歯根を持つのに対し、奥歯は2〜4本の歯根を持ち、これらが複雑に絡み合っています。そのため、奥歯には複数の根管が存在し、治療にはそれぞれの根管を丁寧に洗浄、消毒し、適切に薬剤を注入する必要があります。
それぞれの手順を正確に行わないと、治療漏れや再治療の原因となることもあります。
初回の根管治療では、奥歯には通常2〜3回の診療が必要とされ、その後のかぶせものを装着するための通院を含めると、合計で4〜6回の通院が必要になります。
再治療の場合はさらに複雑で、一度治療を行ったにもかかわらず細菌感染が再発した場合、既に詰められた薬剤を取り除き、各根管を再度洗浄・消毒する必要があります。このような奥歯の再治療では、根管治療自体に4〜5回程度の通院が必要となり、全体としては6〜8回程度の通院が見込まれます。
このように、奥歯の根管治療は患者さんだけでなく、歯科医師にとっても大きな挑戦であり、長期にわたる治療計画が必要となります。
再根管治療について
再根管治療は、一度完了したと思われた根管治療が再び必要になる状況を指します。 なぜ再治療が必要になるのでしょうか?
以下では、再根管治療の必要性とプロセスについて、詳しく解説します。
再根管治療が必要な症状
歯の根っこの部分に問題があると、その歯は再度根管治療が必要になる場合があります。主に以下のような症状がみられた際に、再根管治療の適応となります。
まず、以前に根管治療を受けた歯に、突発的な強い痛みや腫れが出た場合です。治療後も細菌が残っていたり、新たな細菌の侵入があったりすると、根尖周囲の組織に炎症が起きてこうした症状が現れます。
また、歯茎から膿が出る状態も要注意です。膿は細菌の増殖によりできるものなので、根管内に細菌が残存していることがうかがえます。
さらに、食事の際に根管治療した歯が違和感や痛みを感じる場合もあります。歯の根っこ周りに炎症などの異常があると、この部分に圧力がかかるため、不快症状が生じるのです。
一方で、症状がはっきりと現れないケースもあり得ます。レントゲン検査で、根尖付近に陰影が認められたり、歯根周囲に透過像があったりすれば、再治療の適応と判断されることがあります。
このように、根管治療後も経過観察が重要で、少しでも異常が見つかれば、再根管治療を検討する必要があります。自覚症状がない場合でも、定期検診で異常が見つかれば再治療につながることがあるため、症状の有無にかかわらず、根管治療の経過には注意が必要です。
再根管治療の原因
なぜ再根管治療が必要になるのでしょうか? 再根管治療が必要となる主な原因は以下の通りです。
- 不完全な根管治療:根管治療では、歯の根の複雑な枝分かれ構造を完全に洗浄・消毒することが求められますが、これが不十分な場合があります。治療の際に細菌や感染組織が一部残ってしまうと、再発の原因となるとされています。
- 充填問題:根管内の充填が適切でない場合も再治療が必要になる原因となります。充填剤の量が不十分だったり、充填技術が未熟だったりすると、細菌が侵入する隙間ができ、感染が再発するリスクが生じます。
- 被せ物の問題:根管治療後に装着される被せ物の施工や管理が不適切な場合、被せ物から細菌が入り込むことがあります。迅速に適切な被せ物を装着しなかったり、長期使用により被せ物に隙間が生じたりすると、再感染のリスクが増します。
- 歯根の異常:歯根自体に異常がある場合も再根管治療の原因となります。歯根が老朽化して割れてしまう、治療中に歯根が破折するなど、根管治療だけでは解決できない問題が発生すると、最終的に抜歯を余儀なくされることがあります。
これらの原因を理解し、適切な対応をとることが、再根管治療を減らす鍵となります。
再根管治療の治療頻度の目安
再根管治療の治療頻度は、感染の度合いや処置内容によって異なりますが、初回の治療よりも多くなる傾向にあります。
再根管治療では、まずすでに入っているかぶせ物などを取り除き、根管内の充填剤を除去します。次に、感染が疑われる周囲を切削し、消毒のための薬剤を詰めていきます。根管内が清潔になったことを確認した後に、新しい充填剤を詰め、かぶせ物を装着するための土台(コア)を作成します。
治療の間、膿が出たり出血があったりする場合は、更に治療回数が増える可能性があります。
根管治療後は、定期的なメンテナンスが重要なため、プラークコントロールや噛み合わせの確認をします。このメンテナンスでは、再発を防ぎ、長期的な口腔健康を保つことが目指されます。
根管治療の治療頻度を抑えるためにできること
根管治療の回数を減らすためには、以下のような取り組みが挙げられます。
- 早期発見・早期治療:定期的な歯科検診により、むし歯や歯のトラブルを早期に発見し、治療しましょう。根管治療の必要性そのものを減らせる可能性が期待できます。
- 口腔衛生の徹底:毎日の歯磨きやフロスを使ったお手入れを怠らず、歯垢の蓄積を防ぎましょう。歯と歯茎の健康を保ち、根管治療のリスクを抑えられるでしょう。
- 食生活の改善:砂糖が入ってる食品や飲料の摂取を控えることで、むし歯のリスクを減らし、結果として根管治療の必要性を抑えられます。
- 適切な治療法の選択:歯科医師による適切な治療の選択も大切です。マイクロスコープやCTを使った精密な治療を受けられると、治療の効果を高められ、根管治療の回数を減らせる可能性があります。
また、歯科医師との良好なコミュニケーションを保ち、自身の口腔状態のアドバイスを受けることも重要です。
まとめ
ここまで根管治療の治療頻度についてお伝えしてきました。 根管治療の治療頻度について、要点をまとめると以下の通りです。
- 根管治療は、感染の程度や歯の位置により治療回数が異なり、前歯は1〜7回、奥歯は4〜8回の治療が必要で、再治療にはさらに通院が必要となることが多く、慎重な処置が求められるため、定期的な検診と適切なケアが重要
- 再根管治療は初回治療で解決しなかった根の問題を再度処理し、感染部分を除去し、再び根管を封鎖する治療法である。初回の治療よりも回数が多くなる傾向がある
- 根管治療の回数を減らすには、定期的な歯科検診での早期発見・治療、毎日の徹底した口腔衛生、砂糖が入っている食品の摂取制限、そして精密な治療法を選択することが大切
根管治療では、小さな問題を見逃さずに対処することで、治療が必要になる前に問題を解決できる可能性が高まります。定期的なケアと適切な治療で、笑顔あふれる毎日を送りましょう。
この情報が、健康な歯を長期にわたって維持するお手伝いができれば幸いです。