進行したむし歯の治療である根管治療ですが、歯の根っこにある管を清掃する処置で、一般的なむし歯治療よりも長い期間がかかることが少なくありません。それだけに根管治療が必要と診断された方は大きな不安を抱えているのではないでしょうか。そもそも根管治療はなぜ長くなるのか。根管治療を長引かせない方法はあるのか。ここではそのような根管治療の期間が長い理由や治療期間の目安、根管治療を受けるうえでの注意点などを詳しく解説します。
根管治療の期間が長い理由と治療期間
はじめに、根管治療の期間が長くなる理由と一般的な治療期間を確認しておきましょう。
- 根管治療が長い理由を教えてください
- 根管治療が長い主な理由は以下のとおりです。
【理由1】根管は肉眼で確認できない根管は、歯の根っこの中心付近に存在している空洞です。髪の毛程度の細さしかなく、デンタルミラーを使ってのぞき込んでも内部を確認することは不可能です。保険診療の根管治療では、画像診断においてレントゲン撮影しか行えないこともあり、根管の構造の大半は歯科医師が想像しながら処置を進めて行かなければならないのです。しかも、根管の壁は薄く、繊細であることから、無暗に器具を出し入れすることもできません。そうした理由から根管治療は相応の時間と期間を要する処置となるのです。
【理由2】根管内は複雑に入り組んでいる
根管は細くて暗いだけでなく、複雑に入り組んでいることも多々あります。歯根の形態に沿って大きく彎曲していることもあれば、途中で分岐していることも珍しくありません。そのすべてをきれいに清掃しなければならないのが根管治療なので、自ずと治療期間も長くなります。【理由3】病変の除去に手間がかかる
通常のむし歯は、細菌に感染している歯質をドリルで削ることで完治が望めますが、根管ではその方法が使えません。仮に根管内でドリルを回転させると、歯根があっという間に崩壊します。そのため根管治療ではリーマーやファイルといった針のような器具を慎重に出し入れし、殺菌作用のある薬剤で洗浄しながら、少しずつ清掃を進めなければならないのです。しかもひとつの歯に存在する根管は1本ではなく、複数存在していることが多く、それらを1本ずつ清掃していく必要があるため、根管治療は長期に及ぶのです。【理由4】仮封をして経過を見る期間がある
保険診療の根管治療では、1回の診療が終わるたびに薬剤を入れて仮封し、1週間程度の時間をおきます。それを数週間に渡っていくのが通常の根管治療です。
- 根管治療にはどのくらいの治療期間が必要ですか?
- 根管治療にかかる期間は、治療する歯種や感染の重症度によって大きく変わります。前歯は根管の数が少なく、単純な構造をしているため、2〜3週間程度で根管充填を行えることも珍しくありません。一方、奥歯は根管の数が多く、構造も複雑になりやすいことから、1ヵ月から1ヵ月半程度の治療期間がかかるのが一般的です。重症例になると2〜3ヵ月、場合によっては半年程度、根管治療が続くこともあります。
- 根管治療の通院の間隔はどのくらいですか?
- 根管治療は、1週間に1回の間隔で通院するのが一般的です。また、通院の間隔が極端に開くと、根管治療に支障をきたす場合があるため、可能な限り1~2週間に1回くらいの間隔で通うようにしてください。もちろん、患者さんのお口や体の状態によっては、根管治療の通院の間隔が大きく変わることもあります。
根管治療の流れと治療の注意点
次に、根管治療の基本的な流れと治療期間中の注意点について解説します。
- 根管治療の基本的な治療の流れを教えてください
- 一般的な根管治療は、次の流れで進行します。
【STEP1】検査・診断口腔内診査、レントゲン撮影などを行って、患歯の状態を正確に把握します。そのうえで診断を下し、治療計画を立てます。根管治療にかかる期間や費用の目安は、この段階で提示されます。
【STEP2】抜髄・根管の清掃
歯の神経を抜き、根管内をリーマーやファイルを使って清掃します。【STEP3】洗浄・消毒
根管内を専用の薬剤で洗浄・消毒します。【STEP4】根管充填
根管内の清掃および消毒が完了したら、充填材を詰めて細菌が再び侵入するのを防ぎます。根管治療自体はここで終了です。【STEP5】土台の築造・被せ物の装着
コアと呼ばれる土台を作り、そのうえに被せ物を装着します。
- 治療中の過ごし方で気をつけることを教えてください。
- 根管治療中は、仮封している状態で日常生活を送ることになるため、食事や歯磨きには配慮が必要となります。まず、仮封材が剥がれるような粘着性の高い食べ物は避けるようにしましょう。治療中の歯で硬い食べ物を噛むと、歯が割れる恐れがあるため、軟らかい食べ物を選ぶことが大切です。また、患歯はザラザラとした仮封材のせいで汚れが付着しやすくなっているので、普段以上にケアを徹底する必要があります。ただし、仮封材が取れないよう気を付ける必要もあります。その他、患歯を刺激する様な行為は極力避けて過ごすことが大切です。
根管治療の治療期間を長引かせないポイント
ここでは、根管治療を長引かせないために知っておくべきことやすべきことを解説します。
- 治療期間が人によって変わる理由を教えてください。
- 治療する歯の種類や感染の重症度、通院する間隔などが人によって変わるからです。また、保険診療ではなく自費診療を選択すると、根管治療の期間を大幅に短縮することが可能です。なぜなら自費診療では、1回の診療で行える処置に制限がかかっていない、歯科用CTやマイクロスコープ、ニッケルチタンファイルといった先進的な医療機器を活用できるからです。そのため仕事で時間がなかったり、根管治療に伴うストレスや痛みをできる限り抑えたい方は、1〜2日で完結する自費診療のプランを選択するケースもあります。近年は、こうした自費の根管治療に特化した歯科医院も増えてきています。
- どのような場合に治療が長引きますか?
- 感染の重症度が高い場合、根管の数が多く、構造も複雑である場合、根管治療中のケアが不適切な場合、定期的な通院が困難な場合に治療が長引きます。これらはすべて患者さんの歯の構造やむし歯の進行度、生活習慣などに起因する理由ですが、歯科医院側に根管治療を長引かせる原因がある場合も少なからず存在しています。なぜなら根管治療は難易度の高い歯科治療なので、歯科医師の知識・技術・経験によって結果が大きく変わるからです。誤解を恐れずにいうと、根管治療がうまい歯科医師が担当すれば2~3週間で終わるケースを経験不足の歯科医師が担当すると1〜2ヵ月かかるということも十分にありえます。こうした不幸を避けるためには、事前のリサーチが重要となります。根管治療は、かけがえのない歯を残すための手段です。根管治療の経験が豊富で、この先生なら自分の大切な歯をしっかりと治してくれると思える歯科医院を探すことが重要となります。
- 治療が長引いている場合、セカンドオピニオンは必要ですか?
- ケースによってはセカンドオピニオンが必要となることもあります。例えば、根管治療を始めて3〜4ヵ月経過しているのに終わりが見えない。再感染を繰り返している。そんな場合は、根管治療を得意とする歯科医院にセカンドオピニオンを求めた方がよいかもしれません。セカンドオピニオンはすべての患者さんが持っている権利なので、それを使うことに疑問や不快感を抱く歯科医師はいません。自分の大切な歯を守るためにも、よりよい選択肢をとりましょう。
編集部まとめ
今回は、根管治療の期間が長い理由や治療期間の目安、治療期間を長引かせないためのポイントを解説しました。根管は細くて暗く、複雑に入り組んだ構造をしており、清掃するには相応の時間がかかります。軽症なケースでも2~3週間、重症例では2~3ヵ月の期間を要することも珍しくありません。また、根管治療が長引くかどうかは、患者さんの生活習慣や選択した歯科医院の設備などによっても変わってくることも正しく理解しておく必要があります。