10むし歯が神経にまで達している際には、根管治療が行われます。根管治療は、歯の神経を抜いて根管内を消毒し、再発しないように薬剤を入れて歯の維持を図る治療法です。
この治療の後に、被せ物のための型取りが行われます。本記事では、根管治療後の型取りや根管治療の流れ、型取り後の仮歯などを紹介します。
根管治療後の型取りとは?
根管治療後には、被せ物を作るために型取りが必要になります。根管治療後に行う型取りは、一般的な型取りと何が違うのでしょうか。以下で、詳しく紹介します。
型取りを行う理由
型取りを行う理由は、歯並びや噛み合わせを把握するためです。根管治療後も、その状態に合わせた被せ物を取り付ける目的で型取りを行います。
口腔内の状態が立体的に把握できるため、治療後の状態をイメージしやすいでしょう。根管治療では、治療部分に仮歯や人工歯を取り付けた後、治療前と同じように使える状態に仕上げます。
型取りは、根管治療後も治療前と同じように歯を使えるようにするために必要な行為です。
型取りの方法
根管治療後には、土台を立てて、その後に型取りを行います。型取り用の材料である印象材を練り、それを専用のトレーに入れます。印象材は、歯型を取るために使う材料のことです。トレーは、歯列に沿って作られており、歯型を取るための容器です。
歯型を採取したい側の顎にトレーを入れて、印象材が固まるまで待ちましょう。噛み合わせも重要なため、全体の型取りも併せて行われます。
根管治療後の型取りは通常の型取りと同様ですが、金属の土台を作る際はより手間がかかる場合があります。根管の形態が複雑で細かいためです。工夫や慣れが必要になります。
根管治療後の歯の状態によっては、ポストと呼ばれる補強材を入れるために細長い孔を作ります。そのため、型取りでは細いシリンジを使用して印象材を流し込むなどの工夫が必要になるでしょう。
細長い部分は、型取り後に石膏を流す際に変形する可能性があります。また、印象材が固まり引き抜く際にも変形する可能性が高いため、ひずみの少ない印象材が使われるでしょう。
根管治療の流れ
根管治療は根管内の細菌を除去して、根管内に細菌が繁殖しないように薬剤を入れる治療法です。では、どのような流れで根管治療が行われるのでしょうか。以下で、詳しくみていきましょう。
表面のむし歯や菌を取り除く
まず、視診やレントゲン検査などで、むし歯の状態や根管の感染状況を確認します。その後、表面のむし歯になっている部分を除去していきます。
根管治療は、歯髄を除去して根管内を無菌状態にする治療法です。歯髄が出てきそうな部位の除去を行うと、歯髄内に唾液中の細菌が入ったり出血したりする可能性があります。
そのため、まずは表面のむし歯をしっかりと除去していきます。
患部を削る
次に、麻酔をして患部を削り、歯のなかが見えやすいように穴を開けていきます。ある程度の大きさの穴を開けていないと、次に行う歯髄組織の除去で作業がしにくくなるでしょう。
根管は入り組んでおり、底にいくほど細くなります。そのため、歯のなかが見えやすい程度に患部を削る必要があるでしょう。
歯髄組織を取り除く
患部を削り、歯のなかが見えるようになると、歯髄を取り除いていきます。歯髄は、血管や神経が通っている組織です。歯髄までむし歯が達していると、強烈な痛みが生じるのが特徴です。
そのため、麻酔が効いているなかで歯髄組織の除去が行われます。
歯髄組織の除去には、リーマーやファイルと呼ばれる針のような道具を使用します。これらは、歯のなかから歯髄を掻き出し、根管の拡大や形を整えるための道具です。根管は真っ直ぐなものばかりではないため、歯髄の除去に時間がかかる場合があるでしょう。
根管内を薬剤で洗浄する
根管内の歯髄をきれいに除去したら、次は根管内を薬剤で洗浄していきます。洗浄は複数回行い、次亜塩素酸ナトリウムやEDTAでの交互洗浄が行われます。
次亜塩素酸ナトリウムに期待される役割は、有機質を溶かす作用と消毒作用です。これらの薬剤で清掃を何度か行うことで、根管内が無菌になっていきます。
根管内に細菌が残っていたり、洗浄が十分でなかったりした場合、再発する可能性が高くなるため丁寧な作業が必要になるでしょう。
削った患部に根管充填剤を入れる
根管内を洗浄したら、根管充填剤を入れていきます。この時点で、洗浄した歯のなかは空洞です。その空間に根管充填剤と呼ばれる薬剤を入れ、根管内を殺菌します。
薬剤には、ガッタパーチャや水酸化カルシウム製剤などが使われます。ガッタパーチャは、ゴムの木から採れる樹脂です。根管充填剤として、150年以上前から使われているものです。水酸化カルシウムは人体への影響が少なく、消毒作用と治癒促進効果があります。
これらの薬剤を根管内に隙間なく詰めます。レントゲン撮影で根管に充填剤が緊密に入っていることが確認できたら、根管の処置は完了です。
根管治療が終わってからの治療の流れ
根管治療が終了しても人工歯ではないため、以前の歯と同じように使えるわけではありません。以下で、人工歯の被せ物ができるまでの流れを紹介します。
土台を立てる
欠損が大きい歯に対して行われる処置が、土台を立てることです。土台は、歯自体を補強するのが目的です。
失った歯の修復のために土台を作り、その上から被せ物を装着して、人工の歯となります。土台はポストと呼ばれる支柱部分と、コアと呼ばれる土台部分で構成されています。
ポストとコアは、歯根と被せ物をつなぐのが役割です。通常、歯根にレジンを少し流し込んだ上からポストを埋め込み、その上にコアを作ります。
残存している歯が少なくコアのみで保持できない場合には、歯の補強のためにポストを設置します。ただし、コアのみで保持できる場合には、ポストは設置せずに処置されるでしょう。
長いポストを設置すると、歯根から折れるリスクがあるためです。コアで使われる材料は、金属やレジンなどです。歯髄組織があった部分に金属やレジンなどの材料で土台を立てます。
金属やレジンのコアは保険適用ですが、保険が適用されないコアも存在します。詳細は歯科医師と選択して決めましょう。
被せ物を装着する
最後に、被せ物の装着です。土台ができたら、土台の周囲をきれいに削り、全体の歯型を取ります。歯型から石膏で模型を作り、その模型をもとに被せ物を作ります。
被せ物ができあがると、実際に付けてみて噛み合わせや高さなどの調整が行われるでしょう。調整が済むと被せ物を接着剤で土台に装着して、治療は終了です。
被せ物も、レジン・金属・セラミック・ジルコニア・ゴールドと素材は豊富です。各素材によって耐久性や見た目が変わります。
セラミックやジルコニア、ゴールドのように保険適用外のものもあるため、歯科医師と相談して自分に合った被せ物を選びましょう。
型取り後の仮歯について
被せ物の型取り後には、仮歯を付ける期間があります。以下では、仮歯のメリット・デメリットや装着期間などを紹介します。
型取り後に入れる仮歯とは
仮歯は、被せ物ができるまで一時的に付けておく歯のことです。多くは、コンポジットレジンと呼ばれる歯科用のプラスチックで作られています。
コンポジットレジンは、天然歯に似た形態や色で、摩耗に強いのが特徴です。仮歯に似たものに仮蓋や仮封があります。
仮蓋や仮封は、根管治療中に根管内への細菌の侵入を防ぐためのものです。治療ごとに付け替えます。水で固まる水硬性セメント・歯科用プラスチックのレジンタイプのもの・ストッピングと呼ばれるゴム状のものなどがあります。
アレルギーが出る場合もあるため、注意が必要です。仮蓋や仮封は、閉鎖性は保ちつつも必要な際に簡単に除去できるものが求められるでしょう。
仮歯のメリットとデメリット
仮歯のメリットは、支台歯の汚染や破折の防止・外部刺激からの保護・見た目の向上・歯の移動や歯肉の変化の防止などが挙げられます。
仮歯を付けることで、土台になっている部分の汚染や破折の防止につながるでしょう。根管治療を行うと、歯肉より先の歯が少なくなったり損失したりします。
その状態で開口すると、治療した箇所は隙間に見えるため、相手の印象が変わるでしょう。自身も人前での開口をためらいがちになります。仮歯が付いていると、気にせずに開口ができるでしょう。
また、歯間にスペースができると、その部分に隣の歯が傾いたり移動したりします。型取り時から時間が経つと、歯の位置や傾きが変わっており、被せ物が合わなくなる可能性がでてきます。そのため、被せ物ができるまで、傾きや移動が起きないようにするのも仮歯のメリットです。
一方で、デメリットは、取れやすく壊れやすい点です。仮歯に使われるレジンと呼ばれる素材は、成形や加工性に優れています。
しかし、セラミックに比べて、やわらかく咬耗による影響が大きいのが特徴です。また、仮歯は仮歯用の接着剤で土台とくっつけます。
仮歯用接着剤は、短期間の接着力を持つように設計されています。そのため、何かしらのきっかけで接着力よりも強い引っ張る力がかかると、仮歯が取れてしまう可能性があるでしょう。
正規の被せ物が装着されるまで、取れたり壊れたりしないように注意が必要です。
仮歯の期間
仮歯は、正規の被せ物ができるまで付けている歯です。短期間で取り外すことを前提にして作られています。そのため、1〜2週間ほどが仮歯の期間になるでしょう。
ただし、治療状況や口腔内の状態などによっては、それ以上の期間がかかる場合もあるでしょう。
仮歯の素材は、セラミックや金属に比べてやわらかく、咬耗の影響も受けやすいため長期間付けていることで削れていきます。
また、仮歯は水分を吸収しやすい特徴があります。そのため、色の変化や劣化が進みやすく、長期間付けるのには向いていません。
長期間付けていると、劣化した箇所から細菌が侵入する可能性が高くなります。歯科医師の指示を守って、期日どおりに治療を受けるようにしましょう。
型取り後の仮歯期間における注意点
仮歯は被せ物ができるまでの仮の歯のため、強度は強くありません。そのため、被せ物ができるまでは、日常生活でも注意が必要です。以下で、食事や生活で気をつけることを紹介します。
食事で気を付けること
仮歯は、壊れやすく取れやすいため、硬いものや歯に引っ付きやすい食べ物は避けるようにしましょう。
これまでに述べたように仮歯はやわらかいため、せんべい・フランスパン・ピーナッツなどの硬いものを食べると割れてしまう可能性があります。そのため、やわらかく煮た料理やうどんなど、歯への負担が少ない料理がおすすめです。
また、仮歯の接着剤は正規の被せ物ができるまでの弱い接着力のため、歯にくっつきやすいお餅・キャラメル・ガムなどで仮歯が取れる可能性があります。
粘着性のある食べ物には、砂糖が使われていることが多いため、食後の歯磨きは丁寧に行いましょう。根管治療で使う麻酔は、1〜3時間ほど効果が持続します。
治療直後の麻酔が効いている状態で食事を摂ると、口腔内の火傷やむせにつながる可能性があります。治療直後の食事は、歯科医師の指示にしたがって麻酔がきれてから摂るようにしましょう。
生活で気を付けること
生活では、強い噛みしめや歯磨きの強さに気をつけましょう。仮歯はやわらかく、噛んだ際に天然歯の影響を受けやすいです。そのため、歯ぎしりや強い噛みしめなど仮歯に強い力がかかると、破損する可能性があります。
仮歯の素材のレジンは、歯磨きや歯磨き粉の影響で歯の表面が粗くなりやすく、傷や汚れにつながります。歯磨きの際には、歯一本一本を磨くように細かく動かすようにしましょう。
また、歯ブラシを強く当てると、仮歯が外れてしまう可能性もあります。そのため、歯ブラシは仮歯になるべく優しく当てるようにしましょう。デンタルフロスを使う場合にも注意が必要です。
仮歯と隣の歯間が狭いとデンタルフロスを入れた際に引っかかってしまいます。この際に無理やり入れた方向に引き抜くと、その力で仮歯も抜けてしまう可能性があります。
そのため、デンタルフロスを使う際には入れた方向ではなく横方向に引くと、仮歯が外れる心配も減るでしょう。
まとめ
根管治療後の型取りは、土台を立てた後に行われます。型取り後、被せ物ができるまでは仮歯での生活になります。仮歯は、一時的な使用のために作られた歯です。
そのため、歯の強度も接着力も強くありません。食事・歯磨き・食いしばりなどで、割れたり外れたりする可能性があります。
被せ物ができるまでは、仮歯に注意して生活を送るようにしましょう。
参考文献
- 全部床義歯概形印象採得のポイント|日本臨床歯科補綴学会
- メタルコアの印象手順について教えてください。
- 根管壁洗浄の現状ー根管治療の成功率を上げるためにー
- 根管貼薬における水酸化カルシウムの応用について
- 歯科保存学系「根管治療薬剤の選択基準がよく分かりません。使い分けのマニュアルを教えてください。」
- テンポラリー・クラウンの保持力に関する研究
- 機械的特性と防汚性に優れる含フッ素ポリマーコンポジットー耐久性と審美性を備えた人工歯の開発
- PEMAとユージノールを基材とし た新しい仮着材の開発
- 象牙質と接着性レジンセメントの接着における仮着材の影響
- コンポジットレジンの歯ブラシ摩耗 に及ぼす組成の影響ー特に,フィラーの粒度と含有量の影響ー
- むし歯の治療の流れ|厚生労働省
- 失活前歯の前処置としての築造に関する基本的な考え方(保険診療に係わる適用として)
- 接着と合着を再考する―支台築造を中心に―