むし歯や外傷によって細菌感染した場合、歯がひどく痛んだり炎症を起こしたりします。
根管治療は、抜歯による治療ではなく歯を残す治療方法です。しかし根管治療を行った後に痛みが取れないことがあります。
ほとんどの場合、治療後の痛みは1週間程度で治まりますが、問題となるのは1週間以上たっても痛みが取れないケースです。
今回は、根管治療の痛みが取れない原因と対処法、痛みが取れない場合の受診の目安もあわせて解説します。
根管治療の痛みについて
- 根管治療の痛みにはどのようなものがありますか?
- むし歯や外傷によって歯髄(しずい、歯の中の神経や血管を含む組織)が感染や炎症を起こすと、歯髄を取り除く根管治療が必要になります。感染や炎症を起こした歯髄を除去し、根管と呼ばれる歯髄が通っている管を清掃、そして再度の感染を防ぐために歯根の内部に詰め物をします。以上が根管治療を行う流れです。根管治療の痛みは以下のとおりです。
- 治療前の慢性期・急性期の痛み
- 治療後の痛み
治療前の慢性期は我慢できる程度の鈍痛が慢性的に続く状態です。痛みは強くない場合が多いですが、歯根内の歯髄は壊死し、膿が溜まっている可能性があります。この期間が続くと、急性期に移行する場合があります。急性期はズキズキとした激しい痛みが出現する状態です。夜は眠れなくなることもあります。体温上昇や噛みしめにより痛みが悪化したり、歯茎や喉の奥の方まで腫れが広がり飲食が難しくなったりすることもあります。治療後の痛みは、3つです。
- 細菌と神経を取り除くとき
- 歯根内を清掃するとき
- 歯根に薬剤を詰めるとき
歯根の先の細菌や神経を取り除くとき、針のような器具を使用します。正常な神経から感染した神経を切り取ることによって神経に傷口ができます。傷口には痛みを伴いますが、神経が修復することで痛みは治まってくることがほとんどです。感染した歯髄を治療、清掃するときに出る痛みは、歯根の先に存在する正常な神経に器具が触れることによる痛みです。
また、再感染を防ぐためにもしっかりと薬剤を詰めなければなりません。その際に圧力がかかり痛みを伴うことがあります。
- 根管治療後に痛みが続く期間はどのくらいですか?
- 根管治療を受けた後は痛みが出ます。しかし、処方された抗生剤や痛み止めを服用し数日で治まることがほとんどです。長い場合で1週間程続く場合もあります。その後も痛みが取れない場合は、治療した歯科医師に再度診てもらってください。
根管治療の痛みが取れない原因
- 根管治療後に痛みが取れない原因を教えてください。
- 根管治療後の痛みの原因は、大きく分けて次の2点です。
- 薬による痛み
- 歯髄の感染が強い場合の痛み
根管治療では、歯髄を除去した後に洗浄剤・消毒剤・消毒完了後は根管充填剤の薬剤を使用します。痛みが出やすいのは消毒剤使用時です。消毒剤が歯根の先端から漏れ出た場合に痛みが出ます。消毒剤には殺菌の役割がありますが、歯根周辺には強すぎる刺激となることもあります。歯根の先まで細菌が増殖している場合、根の先まで清掃・消毒することが必要です。このとき、歯根の先の組織に細菌が押し出されてしまうことがあります。体に入ってきてしまった細菌に対して免疫反応が生じて、歯が痛くなったり歯肉が腫れたり浮いた感じになることがあります。この症状が出る確率は軽いもので3〜4割程度です。場合によっては、押し出された細菌が原因でズキズキした強い痛みや腫れが出ることをフレアアップといいます。この場合、再度の洗浄や抗生剤、鎮痛剤の服用が必要になります。
- 根管治療後に痛みが取れない場合は失敗が考えられますか?
- 根管治療後に痛みがある場合が失敗とは限りません。治療後に出る痛みは、鎮痛剤を適正に服用することで通常は1週間程度で治まってきます。しかし、治療が奏功せず痛みが続く場合があります。主な原因は次のとおりです。
- 細菌を取り除けなかったことにより再び炎症が起こる
- 消毒が不十分である
- 歯が割れている
根管はまっすぐな管ではなく、曲がっていたり枝分かれしていたりするため、一度細菌に感染してしまった根管を完全に無菌化することはとても困難です。さまざまな要因で、一度症状が治まっても再発する場合もあります。根の先に細菌感染がある場合、根管治療の成功率は60〜80%程度とされています。根管治療では、根管内の細菌をできるだけ消毒し、新たに細菌を侵入させないことが重要です。そのためにラバーダムと呼ばれるゴムのマスクを歯につけて治療することが必要となります。これを無菌的治療法といいます。根管治療を失敗させないため、ラバーダムの使用を希望する患者さんも少なくありません。しかし一般の歯科医院ではラバーダムを使用しない医院もあります。このため根管治療を専門とする歯科医院で治療することが重要となります。
根管治療の痛みが取れない場合の対処法
- 根管治療の痛みが取れない場合の対処法を教えてください。
- 痛みが取れない場合は、鎮痛剤を服用します。鎮痛剤は、歯科医院で処方してもらえますが、受診まで我慢できない場合は、ドラッグストアなどでも購入できます。腫れ・膿・噛んだときの痛みがなければ、鎮痛剤で様子を見てもかまいません。1週間程度様子を見ても痛みが続く場合には、歯科医院で受診してください。噛み合わせにより痛みが出ている場合は、噛み合わせを調整することにより痛みが軽減する場合があります。また、腫れを伴う場合は、根管内を清浄することで痛み・腫れを軽減できる可能性があります。
- 市販の鎮痛剤を飲んでも問題ありませんか?
- 鎮痛剤は歯科医院で処方してもらえますが、受診まで我慢できない場合は市販の鎮痛剤を服用することで、一時的に痛みを取り除くことができます。痛みが続く場合は歯科医院を受診してください。代表的な痛み止めは、ロキソプロフェンやイブプロフェン、アセトアミノフェンです。商品名は以下のとおりです。
- ロキソニン(ロキソプロフェン)
- イブ(イブプロフェン)
- カロナール・タイレノール(アセトアミノフェン)
- バファリン(イブプロフェン・アセトアミノフェン合剤など)
代表的な商品名をあげましたが、種類が豊富なため購入時には薬剤師に相談してください。一般的にロキソニンが鎮痛効果は高いといわれていますが、体質的にほかの薬剤の方が合う人も少なくありません。カロナールは鎮痛効果が弱めですが胃腸症状などの副作用が少ないのが特徴です。
- 痛みが取れない場合の再受診の目安を教えてください。
- 根管治療を受けた直後は痛みが出ますが、処方された抗生剤や痛み止めを服用し数日で治まることがほとんどです。長い場合で1週間程続く場合もあります。1週間以上たっても痛みが取れない場合は再受診してください。治療からしばらくたった後に痛みが出る場合もあります。再度のむし歯で細菌感染し歯の内部に膿が溜まり痛みが出ることや、噛む力が強く歯が割れたりヒビが入ったりすることで痛みが出ることがあります。神経を取った歯の場合、痛みを感じにくくなるので気になる症状があれば再受診してください。痛みの状態別に、再受診の目安を紹介します。
- 何もしなくても痛い……すぐに受診
- 噛むと痛い……2~3日中に受診
- 歯茎を指で押すと痛い……なるべく早く受診
- なんとなく痛い……1~2週間以内に受診
ほかにも、外から見ても顔が明らかに腫れている場合は、すぐに受診してください。蜂窩織炎(ほうかしきえん)という生命に関わる重篤な疾患の可能性があります。
編集部まとめ
根管治療で痛みが取れない場合の原因と対処法について解説しました。
鎮痛剤の服用により一時的に痛みは改善しますが、1週間以上痛みが続く場合や痛みが増してくる場合は、再受診する必要があります。
また根管治療が不完全であったり新たな感染が起こったりする場合は再治療が必要となりますが、その場合でも歯を残すことができる可能性もあるでしょう。
根管治療に関する技術は進歩しています。根管治療(歯内療法)に精通した歯科医院で治療することが重要です。
抜歯せず自分の歯を残す方法として根管治療があります。むし歯にならないよう、日々の歯磨きや食事管理、定期検診などもしっかり行いましょう。
参考文献