妊娠中は口腔トラブルが起こりやすいとされています。妊娠中にお口の症状が悪化した場合、根管治療はできるのでしょうか?
根管治療により、母体や赤ちゃんに影響がないか心配になる方もいることでしょう。
本記事では、妊娠中の根管治療について詳しく解説します。妊娠中と普段の治療の違いや、治療を行うのに適切な時期と注意点などをまとめています。
妊娠中の根管治療について知りたい方は、ぜひチェックしてみてください。
妊娠中の根管治療について
- 根管治療は妊娠中でもできますか?
- 妊娠中に根管治療を受けることは可能です。
妊娠中も出産後もサポートしてもらえる、マタニティ歯科を受診することがおすすめです。妊娠初期(~15週)や妊娠後期(28週~39週頃)は赤ちゃんとお母さんの負担が大きいため、妊娠16週~27週頃の安定期に根管治療を受けるようにしましょう。
根管治療の際には、歯科医師に妊娠中であることや妊娠何週目かを伝えてください。根管治療中に体調の悪化や違和感を覚えた場合も、しっかりと伝えるようにしましょう。
- 妊娠中に薬を服用しても大丈夫ですか?
- 妊娠中に薬を服用するとお腹の赤ちゃんに悪影響を及ぼしそうで、ためらう方が少なくありません。しかし、妊娠中に服用しても問題のない薬は多いです。
妊娠安定期に入ると、赤ちゃんの器官形成が終わるため、薬の影響はほとんど受けなくなるとされています。しかし、薬の赤ちゃんへの影響は、妊娠の時期や薬の種類によって異なります。
例えば、塩酸ミノサイクリン・クラビット・ジェニナックなどの抗生物質やボルタレン・ロキソニンなどの鎮痛剤は、妊娠中には注意が必要で使用を控えた方がよいとされている薬です。自己判断は避け、必ず歯科医師に相談してください。
- 妊娠中は歯の状態が悪化しやすいですか?
- 妊娠中は、むし歯や歯周病のリスクが上がり、歯の状態が悪化しやすいとされています。つわりの症状が強いと、お口に歯ブラシを入れるだけで嘔気を催すため、適切に歯磨きができない場合があります。
つわりで吐いてしまうと、逆流した胃酸の影響で歯が溶けやすい状態となるため、普段よりむし歯や歯周病のリスクが高まるのです。妊娠中のホルモンバランスの乱れは、唾液の分泌量が低下したり粘性が上昇したりなどの影響があります。
これらの原因により、妊娠中はむし歯や歯周病になりやすいとされています。エストロゲンという女性ホルモンの上昇も歯周病のリスクが高くなる原因です。なお、妊娠中は痛みを感じにくい場合があるため、気付くのが遅れてしまい症状が悪化してしまうことがあります。
つわりで辛いときは無理に歯磨きをする必要はありません。しかしお口の健康のためにも、殺菌効果が期待できるマウスウォッシュなどでうがいをして、こまめにお口の予防ケアを心がけましょう。
妊娠中の根管治療の治療法
- 根管治療を妊娠中に行うときの治療法を教えてください。
- 妊娠中の根管治療も通常の治療方法と変わりませんが、赤ちゃんやお母さんの健康にできる限り配慮して行われます。
根管治療とは、むし歯や歯周病などが悪化し歯髄が感染したり壊死したりした場合に行われる治療です。根管内の細菌に感染した箇所を取り除き、薬剤を使用して洗浄や消毒を行います。根管充填後はかぶせものを装着する治療へと進みます。
痛いのを我慢すると、ストレスにより母体や赤ちゃんに悪影響を与える可能性があるため注意して下さい。我慢したり自己判断したりせずに、歯科医院に相談しましょう。
- 妊娠中の根管治療と普段の治療との違いはありますか?
- 妊娠中の根管治療と普段の治療の違いはありませんが、お母さんと赤ちゃんに配慮した治療が行われます。レントゲン撮影に関しては違いがほとんどありません。
しかし、撮影時防護用エプロンを着用し被ばく量を減らす対策がとられます。妊娠中の治療薬は、妊婦の身体に配慮された薬を使います。一般的に根管治療には組織刺激性の強い根管治療薬がほんの少量使われますが、妊娠中は組織為害性の少ない水酸化カルシウムペーストでの治療を行うのが一般的です。
ロキソニン・ボルタレン・バファリンなどの鎮痛剤は妊婦に禁忌とされているため、安全性の高いカロナールを使います。キノロン系の抗菌剤投与は妊婦に禁忌とされていますが、ペニシリン系やセフェム系抗生物質は短期間の服用が可能です。
- 妊娠中の根管治療に適切な時期はありますか?
- 妊娠中の根管治療には、妊娠中期である16週~27週の安定期が適しています。妊娠15週までの妊娠初期はつわりでつらい場合が少なくありません。
妊娠28週以降の妊娠後期はお腹が大きくなってくるため、診療チェアに同じ姿勢で座るのがつらくなってきます。安定期は、胎児が胎盤により安定し、つわりが落ち着く時期です。
基本的には安定期が根管治療に適切な時期とされていますが、ご自身の体調や状況に応じて、根管治療を受けるようにしましょう。
妊娠中の根管治療の注意点
- 妊娠中の根管治療の注意点はありますか?
- 赤ちゃんへの影響を考慮し、安定期になってから根管治療を行うようにしましょう。
妊娠初期や妊娠後期に治療すると、お母さんと赤ちゃんの身体に負担となる可能性があります。根管治療を自己判断で中断してしまうと、歯周病を悪化させ、早産や低体重児出産のリスクが考えられます。
歯周病に罹患している妊婦の早産などの危険率は以下の通りです。- 早産:2.01倍
- 低体重児出産:2.20倍
- 早産および低体重児出産:4.68倍
妊娠後期に口腔トラブルがあった場合は、基本的に応急処置のみ行うとされています。
適切に治療を受けるためにも、定期的に歯科医院を受診し、必要があれば安定期に治療を受けるようにしましょう。妊娠中の根管治療に不安を覚える方は歯科医師に相談し、不安を取り除いてから治療に臨んでください。
- 妊娠中の定期的な通院は必要ですか?
- 妊娠中は歯の状態が悪化しやすいとされているため、定期的な通院は必要です。妊娠の週数やお母さんの身体の状態によっては治療がすぐにできない場合もありますが、応急処置は可能なため通院するようにしましょう。
治療の必要がない場合でも、できる限り妊娠初期に1回、安定期に1回定期的に通院することをおすすめします。赤ちゃんはお母さんのお口の健康に影響を受けます。お母さんにむし歯があると、赤ちゃんにも感染する恐れがあるのです。
妊娠中の歯科検診の受診率は、5.8%に過ぎないという実態があります。お母さんと赤ちゃんのお口の健康のために、歯科医院で定期的にチェックを受けるようにしましょう。
- 麻酔や痛み止めは妊娠中の身体に影響が出ますか?
- 根管治療では局所麻酔を使用します。仮に全身麻酔を行った場合でも、赤ちゃんへの影響は少ないとされています。しかし、赤ちゃんへの影響を考慮し、手術を待機できる場合は妊娠4〜10週の器官形成期以後に行うことが多いです。
赤ちゃんへの影響が心配で麻酔を使用したくないと考える方もいることでしょう。しかし、痛みを我慢するストレスの方が、悪影響を与える可能性があります。
また、鎮痛剤はお母さんと赤ちゃんを考慮したうえで歯科医師が適切に処方しています。不安なことがあれば、歯科医師に相談するようにしてください。また、これまで歯科麻酔薬でトラブルが起きた経験がある場合にも、歯科医師に相談しましょう。
- 根管治療のレントゲンは子どもに悪影響がでますか?
- 放射線の被ばく量を気にされる方は少なくありません。しかし、50mGy未満の被ばく線量では赤ちゃんへの影響はないとされています。歯科撮影における被ばく線量はパノラマ撮影が0.03mGy、歯科口内法撮影が0.01mGyです。
また、歯科治療でのレントゲンは、赤ちゃんがいるお腹から遠いお口を撮影します。撮影する面積も狭いため、被ばく線量をできる限り抑えることが可能です。またレントゲン撮影時には、レントゲンを遮蔽するための防護用エプロンを着用するため、胎児や母体への影響は少ないとされています。
編集部まとめ
妊娠中は赤ちゃんへの影響を考え、できる限りお薬の服用・麻酔・レントゲン撮影を避けた方がよいと考える方が少なくありません。
実際には、皆さんが思っているよりもお母さんや赤ちゃんへの影響は少ないとされています。
根管治療が必要な状態なのに、妊娠中であることから治療せずに我慢して過ごしてしまうと、お口の環境が悪化してしまう可能性があるため注意が必要です。
つわりが落ち着くことが多い安定期に、お母さんと赤ちゃんへ配慮して治療することができます。
出産後は赤ちゃんのお世話で時間が取りにくくなる可能性が考えられるため、体調に配慮しながら安定期に根管治療を受けるのがおすすめです。
妊娠中はむし歯や歯周病などの口腔内トラブルが起こりやすいため、定期的に歯科医院を受診し、お口のチェックを行ってもらいましょう。
参考文献