歯の神経を取る根管治療をすると歯科医師にいわれて、不安で怖いと感じる患者さんは少なくありません。
恐怖や不安のあまり体調にまで影響が出てしまう歯科恐怖症は、20人に1人程度はいるとされています。
特に根管治療は歯を奥まで削って神経を取る大がかりな治療であるため、怖くて歯科医院に行きたくないと感じる方も少なくないでしょう。
根管治療とはどのような治療で、なぜ必要なのか・痛みやリスクを軽減する方法はあるかを事前に知っておくだけでも、不安を軽減するのに役立つはずです。
そのためこの記事では、以下の内容を解説します。
- 根管治療が怖い理由
- 根管治療で痛みが出る理由
- 根管治療の痛みを軽減する方法
- 根管治療の成功率を高める方法
根管治療が怖いと感じる方が、正しい知識を持って落ち着いて治療に臨めるようになれば幸いです。
根管治療が怖い理由は?
根管治療に怖いイメージを持たれている患者さんは、どのような理由で怖いと感じるのでしょうか。根管治療は歯の神経を取って根元を掃除していく治療であるため、ほとんどの患者さんが多少なりとも怖いと感じるものです。
根管治療が怖いと思われる理由を解説しますので、ご自身に当てはまるかどうかチェックしてみてください。
麻酔注射
根管治療は歯の神経の治療をしていくために、麻酔注射が必要です。歯茎に注射して行う麻酔を浸潤麻酔といい、治療する歯を局所的に麻痺させて痛みの少ない治療が可能になります。
麻酔は根管治療の痛みをやわらげるためのものですが、麻酔の注射には痛みがあります。歯科麻酔の注射針は極めて細く刺激は少ないですが、麻酔注射がどうしても怖いという方は少なくありません。
神経を取ること
根管治療は、歯の神経(歯髄)が細菌に感染して壊死してしまった場合に行う歯科治療です。むし歯が歯の神経に近づいていくと痛みが増していき、歯髄炎となってしまったら神経を取るしかなくなります。
神経を取って根管内を掃除すれば、むし歯で抜歯になるリスクは大きく下げられますが、取った神経はもとには戻りません。歯の神経を取るには慎重な判断が必要で、その重圧から怖いと感じる方も少なくないでしょう。
歯を大きく削る可能性があること
根管治療は歯の神経まで進行したむし歯を治療するため、歯を大きく削る場合があります。歯は歯槽骨と歯肉に埋まっている歯根と、お口のなかに出ている歯冠の2つに分けられますが、根管治療は歯冠のほとんどを削るケースも少なくありません。
大きく削った歯は根管治療後に被せ物をすれば機能面では問題ありませんが、それまでの歯とは見た目が大きく変わることもあります。歯を大きく削ることそのものへの不安もあり、怖さを感じるのはおかしいことではありません。
治療中の痛み
歯科の治療に耐え難い恐怖を感じてしまう歯科恐怖症の患者さんは、日本では推定500万人といわれています。そのほとんどが歯科治療の痛みを原因としており、心理的なストレスで体調を崩してしまう方も少なくありません。
根管治療では、歯を大きく削って神経の治療をするため、まったく痛みのない治療はできません。麻酔をしても麻酔が切れたら痛みが出てくるため、歯医者の痛みが苦手な方にはどうしても負担になります。
治療回数が多いこと
根管治療はむし歯の原因菌に侵された神経を除去し、根管内を時間をかけて殺菌していくため、1回の治療では終わりません。症状によりますが、通常は4~8回の通院が必要になります。
歯科治療は途中で通わなくなってしまう方も少なくありませんが、根管治療の場合は神経を除去した根管が空洞の状態ですので、治療を完了しなければ歯がもろい状態になってしまいます。
1度はじめたら被せ物をのせるまで通わなくてはいけないため、治療回数の多さに不安や怖さを感じる方も少なくありません。
再治療になるケースがあること
日本歯内療法学会によると、根管治療の成功率は60~80%程度で、残念ながら再発して再治療になってしまうケースも少なくありません。
せっかく怖さに耐えて根管治療をしても、痛みが再発することもあると聞けばさらに怖さを感じるでしょう。
むし歯の痛みや歯を失う怖さはありますが、それを防ぐための根管治療にも怖さを感じるのは当然のことで、悩んでいる方は決して少数ではないと知っておいてください。
根管治療で痛みが出る原因
根管治療中や治療後に、歯の周辺に痛みが出るケースは少なくありません。痛みの原因を特定するのは簡単ではありませんが、多くの場合以下のような原因で痛みが生じます。
- 根管治療が不十分
- 根尖性歯周炎になっている
- 根っこに圧力がかかっている
- 治療器具が先端が根管奥の神経に当たる
歯の根管は直径1mm以下で複雑に枝分かれしているため、経験豊富な歯科医師であっても治療は簡単ではありません。
感染している根管を見落としてしまったり、掃除が不十分だったりして感染が再発し、治療中や治療後に痛みを生じることがあります。
歯の根管は根尖というトンネルで顎とつながっており、根尖の周囲で細菌が繁殖して炎症を起こすことを根尖歯周炎といいます。
これは歯だけではなく歯肉や歯槽骨の炎症なので、根管治療だけでは痛みがなくならないことも少なくありません。
また、根管内を器具で掃除する際に神経を圧迫してしまったり、正常な神経を刺激してしまったりして痛みを感じることもあります。
治療中の一時的な痛みであればすぐに治まりますが、根管治療が原因で神経に慢性的な炎症が残ることもあり、痛みが続く場合は歯科医師に相談してください。
根管治療中の痛みを軽減する方法
根管治療には痛み・怖さがありますが、患者さんの負担を軽減する治療方法も進化しています。
歯科医師の技量や歯科医院の設備によってできる対応は異なりますが、多くの歯科医師が患者さんの負担を少しでも軽減するよう工夫しています。
根管治療の痛みを軽減する方法を患者さん自身でも知識として知っておけば、歯科医師と相談しやすく、歯科医院選びの参考になるでしょう。
麻酔をする
歯科治療の痛みを軽減するための基本的な方法が麻酔です。根管治療のように歯の奥まで治療する場合には、注射による浸潤麻酔が必要ですが、注射自体も痛みがあります。
注射の痛みを軽減するには、歯茎に塗って浸透させる表面麻酔が有効です。注射の前に表面麻酔をしたり、麻酔の温度管理をしたりして、注射の痛みは以前よりも大幅に軽減されています。
また、どうしても怖くて不安な方は、笑気吸入鎮静法を行っている歯科医院を選んでみてください。
安全性の高い笑気を吸うことでお酒に酔ったような感覚となり、リラックスして根管治療を受けられる歯科恐怖症の方に適した麻酔方法です。
唾液が歯に接触しないようにする
根管治療が失敗する原因の多くは、治療中の根管に唾液が接触してしまうことです。唾液には大量の細菌が含まれており、歯を削って無防備になった根管に細菌が侵入すれば感染のリスクが高まります。
根管治療中は唾液をこまめに吸引する・唾液を防ぐ器具を使用するなどして、唾液との接触を防ぐことが重要です。
根管治療の回数を少なくする
根管治療の痛みや怖さを軽減するには、単純に治療の回数を少なくするのが有効です。もちろん不十分な治療では意味がないので、少ない治療回数で適切に治療するのが重要になります。
患者さん自身ができることでは、むし歯が進行する前に治療を受けること・マイクロスコープなど高度な治療器具を使った根管治療を受けることで、治療回数を少なくできる場合があります。
マイクロスコープを使った根管治療は、自由診療の場合1本5~15万円(税込)程度が相場となりますが、どうしても治療回数を少なくしたい場合には検討してみてください。
途中で治療を放置しない
根管治療は、1度はじめたら完了まで通院し続けることが不可欠です。歯を大きく削って根管を露出させるため、根管治療中の歯は極めて無防備な状態になってしまいます。
根管治療中の仮蓋は次の治療までの簡易的なものですので、長期間の使用には耐えられません。根管治療中に細菌が侵入してしまうと、歯の根元で感染が拡大し抜歯せざるを得なくなってしまう可能性が高くなります。
根管治療は1~3週間に1度のペースで通院し、完了まで通えるようスケジュールを調整しておきましょう。
根管治療をするメリット
根管治療は怖い・不安と感じる方は少なくありませんが、それでも根管治療を受けた方が、長期的には多くのメリットがあります。
- 自分の歯を残せる
- 周囲の歯を守れる
- 失った歯を補う治療より安い
- 全身の病気のリスクを下げられる
- 歯を残した方が認知症リスクを下げられる
根管治療の成功率は100%ではないとはいえ、適切な根管治療を続ければ90%以上の確率で自分の歯を残せます。
また歯髄炎や根尖歯周炎を放置して進行すると、隣の歯にまで広がってしまい、失う歯が増えてしまうリスクもあるのです。
歯を失った本数が増える程認知症のリスクが高まり、失なった歯を補うにはインプラント治療やブリッジ治療など、より大がかりな治療が必要となります。
インプラント治療の費用は1本あたり30~50万円(税込)程度となり、経済的にも大きな負担となるでしょう。
歯の根元で増殖した細菌は、血流に乗って全身に広がっていき、動脈硬化など全身の疾患にも関連しています。
根管治療は怖いといっても、根管治療が必要な歯を治療せずに放置するともっと怖いことになると思えば、早めに治療するのが無難でしょう。
根管治療を失敗しないためのポイント
根管治療の成功率を高めるためには、歯科医師の経験と技量だけでなく、適切な設備や器材の使用が重要です。患者さんが根管治療を受ける歯科医院を選ぶ際には、根管治療を失敗しないためにどのような器材を導入しているかをチェックするとよいでしょう。
歯科用CTによる診断
歯科用CTは、レントゲンと違って3次元的に歯の根元の様子を確認できる設備です。歯の根管は複雑に入り組んでおり、歯を削らなければ目視できないため、CTやレントゲンを用いて治療前に症状を確認することが重要となります。
2次元的な画像しか得られないレントゲンと比較して、歯科用CTによる診断は精度が高く根管の見落としリスクを下げられます。しかし、CTにはレントゲンと同じく被爆のリスクがあるため、ベネフィットと比較して慎重に行う必要があるでしょう。
ラバーダムを使用
ラバーダムは治療する歯をゴムシートで囲い、唾液との接触を防ぐために有効な治療器具です。
ラバーダムは唾液の侵入を防ぐだけでなく、呼気による湿気を防いで接着剤が固まりやすくしたり、治療器具を誤飲するのを防いだりと多くのメリットがあります。
根管治療にラバーダムを使用することで予後が良好となり、成功率に影響することが論文でも報告されていますが、手間や費用面の問題から導入している歯科医院は多くありません。
ラバーダムを積極的に使用しているかどうかは、根管治療を受ける歯科医院選びの重要なチェックポイントになるでしょう。
マイクロスコープを使用
マイクロスコープは歯科治療用の顕微鏡で、肉眼では発見が難しい小さな根管の見落としリスクを下げられます。
上顎第一大臼歯の根管治療で、マイクロスコープを使用しない場合の根管発見率が74%だったのに対し、マイクロスコープの使用で93%となったと報告されています。
マイクロスコープは大変高価な器材であるため、導入している歯科医院は多くありません。また、すべての根管治療でマイクロスコープが保険適用になるわけではないため、自由診療のみとしている歯科医院もあります。
歯根尖切除術が必要な場合、大臼歯の根管治療が必要な場合、上記の条件であればマイクロスコープによる根管治療が保険適用となる場合があるため、ご自身に当てはまるか歯科医院に相談してみてください。
ニッケルファイルを使用
根管治療の際に、根管内に挿入して掃除するための器具をファイルといいます。従来はステンレス製のファイルが主でしたが、より強靭で柔軟性の高い素材がニッケルファイルです。
根管はまっすぐとは限らず、大きく湾曲している場合もあるため、柔軟性の低いステンレス製ファイルでは奥まで届かない場合があります。
ニッケルファイルは柔軟性が高いため湾曲している根管でも奥まで挿入でき、根管内で折れてしまう事故のリスクも下げられます。ファイルが根管内で折れると除去が難しく、そのままになってしまうケースも少なくありません。
根管治療後の痛みの対処法
根管治療が終わった後に痛みが出てきた場合、考えられる原因は以下の3つです。
- 根管治療で神経が刺激を受けた
- 根管治療が不十分で再発している
- 歯根破折している
根管治療は神経を取り除く際に正常な神経から切断するため、強い刺激を与えてしまう場合があります。
治療自体の刺激で痛みを感じている場合、数日で治まることがほとんどなので、しばらく様子を見ましょう。
根管治療を受けてから数週間以上経っても痛みが引かない・痛みが再発した場合は、治療が不十分で再発している可能性があります。
この場合には再度の根管治療が必要となるため、早めに歯科医院を受診しましょう。
また、根管治療を受けて神経を取った歯は、どうしても割れやすくなっています。歯が根元から割れてしまうことを歯根破折といい、割れた歯は抜歯せざるを得ないケースが多くなります。
歯は歯槽骨で支えられているため、根元が割れてもすぐには抜けません。割れた部分がむし歯で溶ける前なら接着剤で付けられる可能性もあるため、痛みがある場合は早めに歯科医院を受診してください。
まとめ
根管治療が怖いと感じる方に向けて、根管治療の流れやリスクを解説してきました。
根管治療は歯の神経にまで進行したむし歯の治療であり、治療せずに放置すると抜歯や全身の病気にもつながるリスクがあります。
根管治療の成功率は100%ではないため怖いと感じるのは当然ですが、統計では90%以上の確率で抜歯を避けられる治療です。
麻酔注射の前に表面麻酔をしたり、ラバーダムやマイクロスコープなどの器材を使用したりして、根管治療の痛みや失敗率を減らせるように歯科治療は進化しています。
根管治療の不安や怖さを軽減するには、患者さんと歯科医師のコミュニケーションが大切です。
怖い気持ちを素直に伝えて、信頼できる医師のもとで根管治療に臨むのがよいでしょう。
参考文献