むし歯菌に侵されてしまって歯の奥の神経が死んでしまっているものの、自分自身の歯は残したい、そのような悩みを解決する治療方法が根管治療です。
根管治療は、傷んだ歯の内側を消毒し、その中に詰め物をすることで自分自身の歯を残しつつも再度の感染を防ぐ歯の治療方法です。
自分自身の歯を残せる魅力的な治療方法である根管治療ですが、その一方で治療方法が複雑であるため、通院回数や治療期間が長くなりやすい特徴もあります。
そこで、この記事では根管治療を行った際の治療期間・通院回数の目安・治療期間を左右する要因など、根管治療の治療期間に関する疑問に答えます。
根管治療の期間・通院回数の目安
根管治療は、歯の内部の病変に対処するためのもので、状況によって治療期間や通院回数が大きく異なります。
ここでは、一般的な期間の目安と、1回の治療で終わる可能性について解説します。
根管治療の期間の目安
根管治療にかかる期間は、1ヵ月半程度が目安です。
ただし、歯の部位などによって通院回数の目安は異なり、それによって治療期間も変わってきます。歯の部位による通院回数の目安は以下のとおりです。
- 前歯:2~3回
- 奥歯:3~4回
また、根管治療後に歯にクラウンを被せる期間が必要となるため、これらの通院期間に3~4回程度追加で通院する必要があります。
そのため、合計で6~7回程度の通院が必要となり、週一で通院すると治療期間は1ヵ月半程度となります。
もし、複数の歯に対して根管治療を行う場合には、その歯の本数に応じて1ヵ月半ずつ追加の治療期間が必要です。
例えば、2本の歯に対して根管治療を施した場合には2本×1ヵ月半の合計3ヵ月程度が治療に必要な期間となります。
1回で終わることはある?
根管治療を1回の通院で完了させることは可能です。ただし、これは根管の感染がないなどの単純な症例に限られます。
一般的には、歯1本につき1ヵ月半かかると考えた方がよいでしょう。
根管治療の適切な通院間隔
一般的に、根管治療の通院間隔は1週間から2週間が目安です。
治療した歯の状態を観察し、必要に応じて治療計画を調整するためには、この程度の通院期間がよいとされています。
特に、治療の初期段階では炎症の程度や感染の有無を定期的にチェックすることが重要です。そのため、この時期には短い間隔での通院が求められることがあります。
治療が進むにつれて、炎症が収まってくると、通院間隔が2週間程度となる可能性があります。
根管治療の期間が長くなる理由
根管治療は自分自身の歯を残せるメリットがあるものの、治療期間が長くなりやすいデメリットがあることも知られています。
治療期間が長くなる主な要因は以下のようなものがあります。
- 目視しながらの治療が難しい
- 根管の形状が複雑になっている
- 根管の形状が人によって異なる
- 根管内を徹底的に消毒する必要がある
- 症状が重い場合
ここでは根管治療の期間が長くなってしまう5つの要因を詳しく解説をしましょう。
目視しながらの治療が難しい
治療期間が長くなる1つ目の要因は、目視しながらの治療が困難であることです。
根管治療では、歯の内部、特に根管内部の状態を正確に把握する必要があります。しかし、歯の内部を直接見ることはできません。
そのため、治療は主にCTによって事前に把握した根管の形状や、マイクロスコープや手先の感覚に頼って根管内の清掃・消毒を行う必要があります。
このように歯の内部を直接見ることができないため、治療が複雑になり、治療期間が長引く原因となることがあります。
根管の形状が複雑になっている
根管治療の治療期間が長くなる2つ目の要因は、根管の形状が複雑であることです。
歯の根管が曲がったり分岐したり複雑な形状の場合には、薬剤の洗浄効果が得られにくいと報告されています。
そのため、根管が複雑な形状である場合、根管内の感染した組織や細菌を完全に除去することが難しくなってしまいます。
その結果として、治療期間が長くなることがあるのです。
根管の形状が人によって異なる
根管治療の治療期間が長くなる3つ目の要因は、根管の形状が人によって異なっていることです。
根管の形状や数は、人によって大きく異なります。多くの根管を持っている人もいれば、根管の場所なども通常とは異なる人もいます。
そのため、根管治療の計画を立てる際には、一人ひとりに合わせた治療方法を考える必要が生じるのです。
こうしたことから、根管治療の期間は長くなりやすいとされています。
根管内を徹底的に消毒する必要がある
根管治療の治療期間が長くなる4つ目の要因は、根管内を徹底的に消毒する必要があることです。
根管治療の主な目的の一つは、根管内の細菌を完全に除去し、再感染を防ぐことです。
そして、その細菌を除去して再感染を防ぐためには、根管内の徹底的な清掃と消毒が欠かせません。
一人ひとりの根管の形状やその複雑さが異なることも相まって、清掃と消毒に時間が必要となってしまいます。
症状が重い
根管治療の治療期間が長くなる最後の要因は、症状の重さです。
重度の感染や根尖性歯周炎などの場合、問題のないレベルにまで細菌の数が減るまでに時間がかかるため、根管治療の期間はより長くなります。
根管治療の通院回数を減らす方法
通院には時間も労力もかかるため、通院回数はできる限り抑えたいと思う人もいることでしょう。
その通院回数を抑えるためには、以下の2点を心がけることが必要です。
- 定期検診を受ける
- お口の異常を感じたら放置せずに歯科医院を受診する
ここでは、通院回数を抑えるために心がけるべき2つのアプローチを詳しく解説します。
定期検診を受ける
通院回数を抑えるための1つ目のアプローチが、定期検診を受けることです。
通院回数を少なくするために歯科検診を受けるのは矛盾しているように思われるかもしれません。
しかし、先述したように根管治療が長くなる要因の1つには症状の重さが挙げられます。
定期検診を受けて問題が小さいうちに治療を施すことが、結果として通院回数を減らすことにつながります。
そのため、定期検診を受けて、口腔内の状態を定期的に診察してもらうことがおすすめです。
異常を感じたら放置せずに歯科医院を受診する
通院回数を抑えるための2つ目のアプローチは、お口の異常を感じたら放置せずに歯科医院を受診することです。
お口の異常を感じた際に、治療をしなくても勝手に治るだろうと自分自身で判断するのは要注意です。
もちろん、ちょっとした歯の痛みなどはいつの間にかなくなってしまって、治療する程ではない場合もあります。
しかし、小さな痛みを放っておくと深刻な症状へと発展してしまうこともしばしばあります。
むし歯などが進行してしまうと、大がかりな治療が必要となり、通院回数も増えてしまいかねません。そのため、僅かな違和感でも放置せず、歯科医師に相談することが大切です。
初期の段階で問題に対処することは、より深刻な問題への進行を防ぐことができ、治療が簡単に済む可能性が高くなります。
早期治療は、根管治療が必要になる前に問題が解決でき、これにより治療にかかる通院回数を大幅に減らすことができます。
根管治療の流れ
根管治療は、感染したり炎症を起こしたりした歯髄(歯の神経)を取り除き、その後歯を保存することを指します。
この治療プロセスは患者さんの状態によって多少の違いはありますが、一般的な流れは以下のとおりです。
- 診断と計画
- 局所麻酔
- 歯の隔離
- 根の先までの治療
- 根管充填
- 再建
- フォローアップ
根管治療を行う場合、まず患者さんの口腔状態を詳しく調べて、治療計画を立てます。この際に、歯科用CTやマイクロスコープを使用して根管の形状を正確に把握する場合があります。
次のステップが、局所麻酔です。治療対象の歯とその周囲に局所麻酔を行い、患者さんが治療中に痛みを感じないようにします。
麻酔が効いてきたら本格的な治療の開始です。
治療を行う歯以外をラバーダムと呼ばれるゴム製のシートで覆い、歯を削る際に飛び散る唾液や歯の削りかすから守ります。
次に行うのが、むし歯菌に感染した組織や歯質を取り除く作業です。事前の検査で得られた根管の形状を参考に、レーザーなどを用いて汚染物質の除去を行います。
汚染物質の除去が完了すれば、次に行うのが根管充填作業です。根管内部の空洞に対して「根管充填剤」を詰め込むことで、細菌感染の再発を防ぐようにします。
根管充填材を詰め込んだら、歯の穴を防ぐ蓋(クラウン)をつける再建というステップです。最後に、治療後の経過を観察するために、定期的な通院を行います。
根管治療の期間を短くするのに役立つ精密治療
医学の進歩によって新たな治療方法が日々模索されており、根管治療の期間が短くなるような精密医療も行われています。
その代表的な治療方法が以下の4つです。
- マイクロスコープを用いた治療
- CTを用いた治療
- ラバーダムを用いた治療
- レーザーを用いた治療
ここでは、これら4つの精密治療を詳しく解説します。
マイクロスコープを用いた治療
根管治療の短縮に貢献する精密治療の1つ目は、マイクロスコープを用いた治療です。
歯科用マイクロスコープは、最大で20倍程度まで拡大できる歯科用顕微鏡を指します。
高倍率で歯の内部構造を詳細に確認できるため、肉眼では見過ごされがちな微細な根管や異常を識別できるようになりました。
これにより治療の正確性が向上し、高い治療効果が期待できます。
その結果として、治療回数の削減につながり、治療期間の短縮化にも貢献しています。
CTを用いた治療
根管治療の短縮に貢献する精密治療の2つ目は、CTを用いた治療です。
通常の歯のエックス線写真では、2次元の画像情報しか得られないため、歯や周囲の骨の構造を十分に確認することには限界がありました。
そうした問題を解決したのがコーンビームCT(CBCT)です。
歯科用CTでは、3次元イメージングによって患者さんの口腔内構造を立体的に詳細に把握できるため、根管の位置・形状・潜在的な問題点を正確に把握できるようになっています。
また、歯科用CTには、医科用CTと比べて被ばく線量が少なく、解像度が高いメリットがあります。
このように、CTを用いた治療は正確で安全性の高い治療を可能とし、根管治療の期間短縮に貢献する治療方法です。
ラバーダムを用いた治療
3つ目の精密治療はラバーダムを用いた治療です。
ラバーダムは、ゴム製のシートを金属のバネを用いて歯に装着し、治療対象の歯だけをシートの上に出して治療を行えるようにする装置です。
このラバーダムを用いることで、治療対象の歯を周囲の組織から隔離でき、唾液が根管内に入ることを防げます。
根管治療は、根管内にある細菌を除去する治療であるため、治療中にその根管内に唾液が入らないようにすることは大変重要でした。
ラバーダムの開発によって、治療中の感染リスクが減少し、根管内の消毒がより効果的に行えるようになっています。
このように、ラバーダムを用いた治療が行われることによって、根管治療の期間がより短く済むようになっています。
レーザーを用いた治療
根管治療の期間短縮に貢献する4つ目の精密治療は、レーザーを用いた治療です。
これまで根管治療で根管内の清掃・消毒を行う際には、機械的清掃と化学的清掃の2つの清掃方法を組み合わせて行われてきました。
機械的清掃とは、細かい道具で根管内の汚れをこそぎ取る作業を指します。また、化学的清掃とは洗浄液を用いて汚れを洗い流す作業です。
しかし、この清掃・消毒作業を行う際に、歯の内側を削りすぎて歯や根っこが割れてしまうことがあります。
そうなってしまうと、歯を抜かないための根管治療であったにも関わらず、結局歯を抜かなければならなくなってしまうことがしばしば起きていました。
こうした問題を解決するために、利用されるようになっているのがレーザーによる根管洗浄です。
機械的清掃を最小限にすることで歯の内側が削られすぎるのを防ぎつつ、レーザーの力で洗浄液を先端にまで浸透させ、根管内の清掃・消毒を行います。
このようにレーザーによる治療を併用して根管治療の難しさを改善し、根管治療がより簡単にできるようになりました。
まとめ
根管治療は、患者さん自身の歯を残しつつ歯の治療が可能となる治療方法です。
ただし、多くの通院が必要になったり、治療期間が長くなったりと治療に時間がかかりやすい治療方法でもあります。
治療に時間がかかるというデメリットを克服するために、マイクロスコープ・CT・ラバーダム・レーザーなどの治療期間を短期化させる治療も行われています。
これらの精密治療は医院によっては実施できない場合があるため、事前に確認をすることをおすすめします。
また、その根管治療の通院回数の減少や治療期間の短期化のためには、普段から歯のケアを怠らないことが重要です。
この記事のなかでも紹介したように、定期検診による歯のメンテナンスを怠らないようにするとともに、口腔内に異常を感じた場合にはすぐに歯科医師の診察を受けるようにしましょう。
それによって、軽度な治療で済むようにしたり、そもそも根管治療の必要性を減らしたりできます。
参考文献