歯を保存するために行われる根管治療では今ある歯を守り十分な機能を得るうえで、治療後に用いる被せ物・詰め物の素材をよく選ぶ必要があります。
その選択肢の1つがセラミックです。生活に身近な素材のセラミックは際立った特長があり、根管治療の分野でも広く用いられています。
そこでこの記事では、根管治療でセラミックを選ぶメリットを解説します。被せ物・詰め物の種類も取りあげているため、選択の参考にしてみてください。
根管治療でセラミックを選ぶメリット
なるべく歯を抜かずに守り、噛む機能を回復させるのに重要な根管治療の被せ物・詰め物は、主に以下の素材から選択して用いられます。
- 金属
- 歯科用プラスチック
- セラミック
それぞれの素材によって特性が異なるため、どの素材を選ぶかが治療後の生活に影響を与えます。セラミックを選ぶ4つのメリットをご紹介しましょう。
再感染しにくい
根管治療を行う歯は、むし歯が進行して歯の神経(歯髄)まで広がっている状態です。根管治療では拡大を阻止するために、感染部を除去し消毒・殺菌が行われます。
根管に詰め物をする根管充填は、殺菌された根管の状態を保つのに重要です。しかし、口腔内はさまざまな細菌が繁殖しやすく再感染が起こる可能性があります。
その点で、セラミックは再感染を引き起こしにくい素材です。なぜなら生体組織との親和性および安定性が高く、時間が経っても変形しにくいためです。
セラミックは辺縁まで精密な加工ができ、サイズの誤差が少なく患部にぴったりと収まります。接着剤との接合性にも優れており、細菌の侵入を防げます。
また変形しにくい特性により、長期間にわたって再感染を防げるのも利点です。なめらかな表面はプラークが付きにくく、むし歯リスクも軽減できます。
金属アレルギーのリスクが低い
根管治療には銀歯・ゴールドなどの金属素材も広く用いられています。しかし金属を用いる場合には、金属アレルギーへの注意が必要です。
歯科用金属アレルギーは直接接触している部位で生じる局所性接触皮膚炎と、抗原が血流で散布されるために遠隔の皮膚で生じる全身性接触皮膚炎に分けられます。
主な症状は、扁平苔癬(へんぺいたいせん)・口内炎・皮膚の湿疹などです。さらに、金属を取り除いても症状が改善されないケースもみられます。
一方でセラミック自体は陶材で金属を使用しないため、金属アレルギーのリスクが低いです。金属アレルギーをお持ちの方でも選択しやすいでしょう。
見た目が自然になる
歯髄組織の壊死あるいは抜髄により硫化水素・血液が象牙細管に侵入すると、硫化鉄となって歯質が黒変するため審美性を向上させる素材選びが大切です。
しかし金属では素材自体の色味が歯に合わず、影も生じやすいのが欠点です。歯科用プラスチックも着色・変色が起こりやすく、どちらも審美性の問題があります。
対してセラミックは天然歯に近い色調で透明感があり、見た目が自然です。時間が経過しても変色しにくい点でも優れています。
噛む機能を十分発揮するとともに審美性も重視したい方は、セラミックを選択するのがよいでしょう。生活の質の向上にもつながります。
寿命が長い
根管治療後は、一度充填して蓋をすれば永久に使い続けられるわけではありません。特に歯科用プラスチックはやわらかい材質で、摩耗しやすい傾向にあります。
摩耗したまま使い続けていると、変形・破損を起こし再感染のリスクが高まります。素材ごとの主な耐用年数は以下のとおりです。
- 歯科用プラスチックの詰め物:5.2年
- 金属の詰め物:5.4年
- 金属の被せ物:7.1年
噛み合わせの影響が大きい奥歯は摩耗しやすく、患者さんの噛み合わせ・歯ブラシの摩擦具合などによっても年数は変動するため、頻繁に交換が必要になります。
一方、セラミックは耐摩耗性に優れています。被せ物・詰め物の種類にもよりますが、適切なケアをしていれば平均して10年程度継続して利用可能です。
根管治療でセラミックを選ぶデメリット
根管治療の価値を実感するには、その素材を選択した場合のメリット・デメリットを合わせて知ったうえで、自分に合ったものを検討するのが重要です。
口腔内の負担軽減および審美性の点で優れているセラミックにも、少なからずデメリットがあります。主に考えられる2つのデメリットをご紹介します。
治療費が高額になる
セラミック治療は保険適用外の自由診療です。さらにセラミック自体が金属・歯科用プラスチックよりも高価で、治療費が高額になりやすい傾向にあります。
セラミックの詰め物をする場合の費用相場は1本につき約40,000〜80,000円(税込)程度、被せ物の場合は約80,000〜150,000円(税込)程度です。
なお、歯科医院ならびに使用する種類ごとに価格帯は異なります。根管治療の費用も別途かかるうえに治療後の交換も必要なため、治療費が負担になるでしょう。
強度が低い
金属は力が加わった際に伸びて変形する延性破壊の特徴がある一方、セラミックはほぼ変形せずに壊れる脆性破壊の特徴を持ちます。
それにより咀嚼時の咬合力程度であれば長期間耐えられますが、陶器の皿を落とすと割れるように強い力に対し強度が低いのがデメリットです。
特に歯ぎしりが癖になっている方は無意識のうちに強い力が加わっており、セラミック歯が破損しやすいリスクがあるため注意しなければなりません。
セラミックの被せ物・詰め物の種類
根管治療に用いられるセラミックの被せ物・詰め物には種類があります。材料そのものの違いに加え、工程にも違いがあり費用もさまざまです。
そのため、セラミックを選択する場合でもさらにどの種類を用いるか検討が必要です。よく用いられている5種類の被せ物・詰め物をそれぞれ解説します。
CAD/CAM冠
CAD/CAM冠(キャドキャムかん)のCADはコンピュータを使用して設計するシステムを、CAMは作成されたデータをもとに部品を製作する技術を指します。
設計から製作までを機械で行うため、ほかの素材よりも安価に治療できるのが特徴です。2023年12月の改定により、すべての歯が保険適用となりました。
CAD/CAM冠は金属を使用しない白い素材で、次に紹介するハイブリッドセラミック(ハイブリッドレジン)により製作されます。
ハイブリッドセラミック
ハイブリッドセラミックは厳密にいえばセラミックではありません。歯科用プラスチックに少量のセラミックの粉を混ぜた素材です。
プラスチックのみよりも色調ならびに形状が自然に仕上がるとともに、セラミックのみよりも天然歯に近い硬さを実現できて対合歯へのダメージが少ないです。
材料のほとんどがプラスチックのため、やや費用を抑えられます。プラスチック・セラミックのいいとこ取りをしたい方に向いています。
セラミックインレー
セラミックインレーはセラミックを使用したインレー(詰め物)です。局所的な治療に適しており、面積の小さな根管治療で選択される傾向にあります。
セラミックなら歯との境目がなじみやすく、仕上がりが自然になります。歯を覆う被せ物とは違いセラミックの面積が小さい分、奥歯でも破損しにくいです。
周囲の歯の充填にほかの素材を使っていると見た目のバランスが悪くなる場合があるため、よく検討して選択しましょう。
二ケイ酸リチウムガラス・ハイブリッドセラミック・ジルコニアセラミックなど、セラミックを用いた詰め物を総じてセラミックインレーと呼びます。
二ケイ酸リチウムガラス(e-max)は光の透過率が高くより自然な見た目ですが、ガラスが原料のため割れやすいです。費用相場は44,000円(税込)程度です。
対するジルコニアセラミックは強度に優れている一方で、その硬さから加工がしにくく対抗歯への負担も大きくなります。費用相場は50,000円(税込)程度です。
メタルボンド
メタルボンドは金属のフレームにセラミックを焼き付けた被せ物です。内側に金属を使用しているため強度があり、ほとんどの歯に使用できます。
またセラミックの高い審美性を兼ね備えており、見た目が気になる前歯部にも向いています。また、セラミックのみよりも費用を抑えられるでしょう。
しかし見る角度によっては裏側から金属が見えてしまう点と、金属アレルギーになる可能性がある点が欠点となります。
なお金属部に貴金属を使用している場合は金属が溶け出しにくく、金属アレルギー・メタルタトゥーを避けられる可能性もあるため、事前に確認しましょう。
費用は使用する箇所・治療を受ける歯科医院によって異なりますが、80,000〜150,000円(税込)程となる見込みです。
オールセラミック
オールセラミックに使用されている材質は歯科用セラミックのみです。クラウン(被せ物)あるいはインレー(詰め物)から症例に応じて選択されます。
セラミック歯のなかでもより天然歯に近い色調かつ透明感を持ち、特に審美性が高いといわれています。混ぜ物がないため、劣化・アレルギーの心配も少ないです。
ただし被せ物・詰め物に厚みを持たせるために、ほかの種類よりも歯を削る量がやや増えるでしょう。短期間で欠損が生じるリスクも考慮すべきです。
とはいえ歯ぎしり・スポーツなど歯への負担が大きくなければ、ガラス・ポーセレンなどのオールセラミックが前歯部の見た目をよくするのに向いています。
費用相場は80,000〜120,000円(税込)程度です。なお、ジルコニアのオールセラミックの場合は150,000円(税込)程度まで費用が高くなる可能性があります。
セラミック歯の再治療の流れ
セラミックによる治療を行った後、定期的な交換だけでなくセラミックの破損・むし歯の発生などにより、再治療が必要になるケースがあるでしょう。
再治療を行う場合、まず使用中の古いセラミックを除去します。むし歯が発生しているなら、感染拡大を阻止するためのむし歯除去も重要です。
その後、新しいセラミック歯を装着するために歯の形を整えます。歯の表面を研磨してなめらかにし、セラミックをフィットしやすくする工程です。
むし歯除去および歯の研磨を行った後は、古いセラミック歯ではサイズが合いません。新しいセラミック歯の完成を待つ間にも使えるよう、仮歯を装着します。
新しいセラミック歯が完成したら歯に装着し、噛み合わせの確認および調整を行います。審美性・形状・使用感に問題がなければ再治療は終了です。
再感染のリスクを下げる方法
根管治療では、根管の治療不足だったり殺菌しきれていなかったりすると再感染するリスクが伴います。再感染してしまったら再治療が必要です。
リスクを下げる鍵は、治療を受ける歯科医院に必要な医療設備が揃っているかどうかにあります。3つの医療設備から再感染リスクを下げる方法を解説します。
ラバーダム
抜髄すると防御反応を示す血管・神経がないため、いったん細菌感染したら根管内は無防備です。つまり、再感染を防ぐには治療中の感染対策が重要となります。
再感染予防に用いられるラバーダムはゴム製のシートです。治療する歯以外をラバーダムで覆って隔離する治療方法を、ラバーダム防湿と呼びます。
ラバーダム防湿の主な役割は、唾液の侵入防止です。また口唇・頬粘膜・舌などの正常部を圧排するため、患部を明確にし効果的かつ能率的に処置が行えます。
さらに処置に応用する次亜塩素酸ナトリウム溶液からの保護、器具の誤嚥・誤飲防止の点でも歯科医師および患者さんの双方が治療に臨みやすい環境を作れます。
一方で、ゴムアレルギーの患者さんには使用できません。ほとんどが自由診療で100円程加算されますが、初・再診料に含まれている歯科医院もみられます。
マイクロスコープ
2000年より以前の根管治療は、X線写真をもとに手探りで進めていく処置でした。しかしその状況を変化させたのが歯科用マイクロスコープです。
2000年から日本の歯科に導入されたのをきっかけに根管治療にも用いられるようになり、治療の可視化・精密化が可能となりました。
ルーペよりも照明が奥まで届くため、過剰切削・天蓋の取り残しを防ぐとともに、歯周組織炎の原因となる歯冠部・根部の亀裂を発見しやすいのも特徴です。
しかしマイクロスコープ治療は自由診療で、通常より費用がかかるでしょう。費用相場は、根管の本数に応じ50,000〜70,000円(税込)程です。
CTスキャンによる診断・治療計画
ここまでは治療中に欠かせない医療設備を取り上げましたが、治療前の診断および治療計画が丁寧に行われているかどうかも再感染のリスクに影響を与えます。
従来用いられているX線検査も、目に見えない歯髄の状態を知るのに有効です。とはいえ、X線検査は一方向からの撮影となり、2次元的にしか表示できません。
この点で3次元的に画像化できる歯科用CTは複雑な歯根・根管の形態を十分に把握でき、より綿密に診断し治療計画を立てるのに役立ちます。
また病変の大きさ・原因も正しく把握でき、根管治療の精度も上がります。マイクロスコープと併用すると、より再感染を防ぎやすくなるでしょう。
デメリットは保険適用にならない場合がある点です。保険適用外の場合にかかる費用は、1回の撮影につき15,000円程です。
セラミック治療のやり直しを防ぐ方法
セラミック治療のやり直しを防ぐためには、第一にセラミックを入れる前に担当の歯科医師とよく相談する必要があります。
患者さん自身が納得して治療を受けられるよう、歯科医師に希望も不安も前もって話して十分にコミュニケーションを取るべきです。
また綿密な治療計画に基づきセラミック治療を行っても、治療後のケアを怠っているとまたむし歯になってやり直しをしなくてはならなくなります。
ケアの基本は歯磨きです。口腔内に雑菌を繁殖させないように、デンタルフロス・歯間ブラシなどを併用し、磨きにくい部分もしっかりと磨いてください。
ただし力を入れて歯磨きをするとかえってプラーク除去率は下がり、セラミック歯および周辺組織を傷付けてしまうため、弱い力で小刻みに磨きましょう。
睡眠時の歯ぎしりは患者さん自身も制御できません。歯ぎしりによる歯への負担を軽減するためにナイトガードの使用を検討するのもおすすめです。
加えて、歯科医院で定期健診を受けるのも効果的です。セラミック歯を含め口腔全体の状態を定期的にチェックすると、お口の健康を維持しやすくなります。
まとめ
この記事では根管治療でセラミックを選ぶメリット・デメリットを中心に、根管治療を成功させるためのポイントを取りあげました。
セラミックを用いるなら、再感染への不安を軽減しつつ自然な見た目を手に入れられます。そして治療前よりももっと生活を楽しめるはずです。
自分自身に合った治療を行うためには、治療前に患者さん自身が十分に検討する必要があります。歯科医師とよく相談して根管治療を受けてください。
参考文献
- 歯内療法とバイオセラミックス系材料
- 歯科金属アレルギーの現状と展望
- 変色歯治療の過去,現在,未来
- 審美補綴を考慮して支台歯形成と補綴装置の選択を行った一症例
- 国立大学法人東京医科歯科大学病院諸料金規則の一部改正
- オーラルセラミックスレストレーションを実現するためのジルコニアの材料特性
- CAD/CAM用歯科材料の進化
- 特定保険医療材料及びその材料価格(材料価格基準)の一部改正に伴う特定保険医療材料(使用歯科材料料)の算定について
- 歯科臨床で利用される審美修復物
- セレックインレー修復
- 臼歯における焼成法セラミックインレーの予後に関する研究
- 歯科修復物における接合
- オールセラミックス クラウンについて
- 二ケイ酸リチウム含有ガラスセラミックスの臨床を考える
- 歯内療法におけるラバーダム防湿に関する調査
- マイクロスコープを使用した根管治療
- 歯科医師3万8千人からのお願い
- 根管治療を再考する
- お口の健康のためのブラッシングポイント
- ナイトガード使用に関する検討
- 口腔健康管理に向けてのオーラルフレイル