根管治療は数週間、場合によっては数ヵ月の通院が必要となることも珍しくありません。その間、根管治療特有の痛みに悩まされるため、憂鬱な日々を送っている人もいることでしょう。そうしてようやく根管治療を乗り越えたとしても依然として痛みがなくならない、むしろ痛みが強くなっていると感じる場合もあります。本記事では、根管治療後の痛みが続く原因と対処法を詳しく解説します。
根管治療とは
はじめに、根管治療の概要と流れ、治療期間などを簡単に説明します。
根管治療の基本事項
根管治療とは、歯の根の中をきれいに清掃する処置です。進行したむし歯で必要となる治療で、歯髄を抜き取る必要性があります。歯髄は根管の入り口から出口まで広く分布している組織なので、抜髄した後も根管内全体を清掃する必要があります。
根管治療では、クレンザーやリーマー、ファイルといった細くて硬い器具を根管内に出し入れするため、歯に対して負担がかかります。比較的作用の強い消毒薬・殺菌薬も使用することから、根管治療中や根管治療後には痛みなどの不快症状を伴うことも少なくないのです。 根管治療が成功すれば、歯をそのまま保存することが可能となりますが、失敗した場合は再根管治療を行うか、歯根端切除術(しこんたんせつじょじゅつ)や再植術、ケースによっては抜歯を実施しなければなりません。
根管治療の流れ
一般的な根管治療は、次の流れで進行します。
・根管内を洗浄・消毒する
リーマーやファイルといった専用の器具を使って、根管内を拡大・形成・洗浄しながら、消毒を進めていきます。根管治療ではこの処置に最も長い時間がかかります。
・薬剤を充填する
根管内の清掃が終わったら、ガッタパーチャという樹脂と消毒薬を充填します。根管内を緊密に充填することで、細菌が入り込むすき間をなくします。根管充填が正常に行われたかどうかは、レントゲン撮影を行うことで確認できます。
・被せ物を取り付ける
根管充填後には、土台を築造して被せ物を取り付けます。こうすることで初めて歯の審美性や機能性を回復できます。被せ物の精度や適合が悪いと、歯とのすき間が生まれて再感染が起こりやすくなる点に注意が必要です。
・メンテナンスを行う
根管治療が完了し、被せ物を装着した後はメンテナンスを受けるようにしましょう。歯科医師によるチェックを定期的に受けることで、被せ物の異常やむし歯の再発を早期に発見できます。それらを予防するための口内環境も作りやすくなります。
根管治療にかかる期間
根管治療にかかる期間は、むし歯の進行度や歯の状態によって大きく変わります。初めての根管治療で比較的歯の状態が良ければ、2〜4週間程度で処置が完了します。再根管治療の場合は4~8週間程度、歯の状態が悪ければそれ以上の期間を要することも珍しくありません。また、根管治療にかかる期間は、保険診療と自費診療でも違いが見られる点に注意が必要です。保険診療には細かいルールが設定されていることから、1回の処置にかけられる時間や使用できる器具・薬剤にも制限がかかっています。そのため自費診療よりも根管治療にかかる期間が長くなるのが一般的です。
根管治療後の痛みの原因
根管治療後に痛みが生じる原因としては、以下の5つが挙げられます。
薬を詰めたことによる痛み
根管治療中は、毎回の処置の終わりに消毒薬を詰めます。根管内の清掃がすべて完了した後は、ガッタパーチャや殺菌作用のある薬剤を充填します。どちらも薬による刺激で、違和感や痛みが生じます。とくに根管充填による痛みは、比較的強く現れやすいですが、あくまで一時的な症状なので、過剰に心配する必要はありません。
膿による痛み
根管内や歯の根の先に膿が存在している状態では、痛みなどの不快症状が続きます。膿が生じるということは、現在進行形で細菌が活動していることを意味します。膿を完全に除去できれば、痛みも消えていきます。
炎症による痛み
患部で炎症反応が続いている場合も痛みが生じます。炎症反応は体からのSOSのサインであり、病変や異常が残存している証拠でもあるからです。根管治療後は通常でもしばらくは炎症反応が消失しませんが、その状態が1週間以上続くようなら、主治医に相談した方が良いでしょう。炎症による痛みが2〜3日程度でなくなった場合は、根管処置の影響が治療後も少し残っていただけと判断できます。
歯髄の感染が強いことによる痛み
初めての根管治療では、歯の神経と血管で構成される歯髄を抜き取る処置を行います。専門的には抜髄(ばつずい)と呼ばれる処置で、専用の器具で抜き取るのですが、1回の処置で完全に除去できるわけではありません。根管内には感染した歯髄の断片が残るため、それをリーマーやファイルなどで時間をかけて除去する必要があります。歯髄の感染が強いケースでは、その分だけ根管の清掃に時間がかかると同時に、根管壁の状態も悪くなっていることから、痛みも強く現れます。
むし歯の再発などによる痛み
根管治療が終わってしばらく経過してから痛みが出てきた場合は、むし歯の再発が考えられます。被せ物のすき間から細菌が侵入したり、取り残した細菌が繁殖したりすることでむし歯が再発し、痛みが生じます。こうしたトラブルは、保険診療の根管治療の場合に見られます。自費診療の根管治療では、適合性の高い被せ物を装着できるだけでなく、マイクロスコープを活用した精密な根管処置が可能となるため、病変を取り残すリスクも低下するからです。
根管治療後の痛みへの対処法
根管治療後に痛みが生じた場合は、次の方法で対処しましょう。これらはあくまで対症療法であり、痛みが生じている原因を根本から取り除けるわけではありませんので、その点はご注意ください。
患部を冷やす
根本治療後の痛みの原因が炎症反応である場合は、患部を冷やすことでその症状を一時的に和らげることができます。それはほぼすべての炎症性の疾患・異常に共通していえることです。ただし、患部の冷やし方には十分な注意が必要といえます。 例えば、根管治療後の痛みが強くて今すぐにでも改善したい場合は、氷を直接、患歯やその周囲に当ててしまいがちですが、それはかえって悪い結果を招くため推奨できません。
氷を患部に直接当てると血流が悪くなって生体防御の機能も極端に低下してしまうからです。歯や歯茎の感覚が一時的に麻痺することは確かであるものの、結果として細菌の働きが活発になり、より強い痛みが引き起こされる可能性が高まります。 ですから、根管治療後の痛みで患部を冷やす場合は、間接的に処置することが大切です。具体的には、水で濡れたタオルを患部に近い顎に当てて、緩やかに冷やします。歯に直接、氷を当てた時ほどの即効性は期待できませんが、根管治療後の痛みが徐々に緩和されていくことでしょう。そうした対処の仕方でも冷やし過ぎには注意してください。
痛み止めを服用する
根管治療後の痛みに対しては、痛み止めを服用することが効果的です。服用することで、根管治療後の不快症状を抑えられることが多いです。もちろん、歯科医院から処方された鎮痛剤がある場合は、それを優先して服用してください。根管内の状態が悪いケースでは、痛み止めでも十分な効果が得られないこともあります。その場合は歯科医院での治療で、痛みの原因を取り除く必要があります。
殺菌効果のあるうがい薬を使う
市販のうがい薬には、殺菌効果が期待できるものもあります。それを使ってうがいをすることで、口腔内の細菌の数が減り、痛みの原因となっている根管内のむし歯菌の活動が抑制されます。同時に、口腔ケアもしっかり行うようにしましょう。歯垢は、うがい薬で取り除くことはできません。正しい方法でブラッシングして、プラークフリーな状態を作り、細菌が繁殖しにくい環境を維持することが大切です。
根管治療後の痛みが続く期間
上述したように、根管治療は必ずといってよいほど痛みや不快症状を伴います。それは避けることができません。ただ、その期間が標準よりも長い場合は、何らかの異常が疑われるため、適切に対処する必要性がでてきます。そこで是非とも知っておいてもらいたいのが根管治療後の痛みが持続する期間です。
一般的な根管治療後の痛みが続く期間
一般的なケースでは、根管治療が終わってから2〜3日程度で痛みなどの不快感は軽くなっていきます。それまでは根管治療による物理的・化学的刺激によって、ある程度は痛みが続くため、我慢する必要があります。ただ、重症度の高い症例では、根管治療後も4〜5日くらいは痛みが続くこともありますので、その点は主治医に確認しておくことが大切です。
痛みが長引く際は歯科医院を受診する
一般的な根管治療を行った後、1週間くらい経過しても痛みが治まらない場合は、歯科医院に相談してみましょう。通常であれば、歯科医師からできるだけ早いタイミングでの受診がすすめられます。仕事や学校などで予定が埋まっていたとしても、歯科医院への受診を最優先にスケジュールを組み直すことが推奨されます。痛みが強くて日常生活に支障をきたすほどであれば、急患扱いで即日、対応してもらうという選択肢もあります。
◎痛みが長引く場合の治療法
根管治療後も痛みが長引く場合は、もう一度、根管治療を行うのが一般的です。いわゆる再根管治療と呼ばれるもので、根管内の病変などを取り除きます。もうすでに根管充填が終わり、土台と被せ物を装着している場合は、それらを完全に撤去しなければ再根管治療を行うことはできません。
根管治療後に再発を防ぐための治療方法
上述したように、根管治療後の痛みは5つの原因によって引き起こされることがあります。その中でもむし歯の再発に関しては、次の方法で防止しやすくなるため、これから根管治療を受ける人は積極的に選択してみてはいかがでしょうか。
歯科用CTによる精密診断
肉眼とレントゲン撮影では、根管の数や形態、彎曲度などを正確に把握することは不可能に近いです。保険診療の根管治療で根管の見落としや彎曲部での器具の穿孔が起こりやすいのはそのためです。歯科用CTによる精密診断を行えば、歯の根をあらゆる角度から観察できることから、根管治療の精度を高めることが可能になります。
マイクロスコープ
マイクロスコープとは、歯科用に改良された顕微鏡です。マイクロスコープは、歯科医師がイスに座った状態で覗くことができる装置で、治療中の視野を肉眼の数十倍まで拡大できます。強力な光源によって根管の深部まで明視することができ、病変を取り残す可能性を低減できるのです。そのため従来の肉眼による根管治療とは比較にならないほど、精度の高い根管への処置が可能となります。これまで勘や経験に頼っていた治療を目で見て確認しながら進められることは、術者はもちろんのこと、患者さんにとっても極めて大きなメリットとなることでしょう。その結果として、根管治療後の再発も防止しやすくなります。
ラバーダム防湿法
再発リスクの少ない根管治療を実施する上では、ラバーダム防湿も欠かせません。ラバーダムというゴム製のシートで患歯以外を覆う方法で、治療する部位への唾液の侵入を防ぐことができます。 皆さんもよく知っているように、私たちの唾液には無数の細菌が含まれています。それが1滴でも根管内に入り込んでしまったら、再び細菌感染が起こります。
ちなみに、ラバーダム防湿には保険が適用されないため、保険診療の根管治療では唾液の侵入が容易に起こり得ます。これが保険診療における根管治療の成功率が極端に低い理由のひとつでもあります。 ラバーダム防湿には、無菌的な治療環境を確立できること以外にも、器具の誤飲を防いだり、口腔粘膜の損傷を防止したりする効果も期待できます。それだけに根管治療を受ける際には、ラバーダム防湿を積極的に選択したいものです。
まとめ
このように、一般的な根管治療後の痛みは、2~3日経過すると軽くなっていきます。重症例でも4~5日で消失していくことでしょう。それが通常よりも長引く場合は、病変の取り残しやむし歯の再発などが疑われるため、まずは主治医に相談しましょう。そうした根管治療後の痛みをできる限り予防したい、むし歯の再発は避けたいという人は、マイクロスコープやラバーダム防湿を活用した精密根管治療を選択しましょう。保険適用外の治療とはなりますが、治療中や治療後の痛み・腫れなどを抑制することにもつながります。
参考文献