むし歯がひどくなり、歯科医院で根管治療を受けた後に、痛みがずっと続いて不安をおぼえる患者さんは少なくありません。
根管治療後に続く痛みは正常なのでしょうか。またどのような痛みが出れば、歯科医院に相談すべきなのでしょうか。
根管治療後に現れる痛みについて理解を深めて不安を解消しましょう。
ある程度の痛みがあっても問題ないボーダーラインは1週間です。以下で根管治療の詳細や痛みへの対処法と一緒に詳しく解説します。
根管治療後もずっと痛い原因
そもそも歯の痛みはどのようにして起こるのでしょうか。まずは歯の痛みが起こる組織を確認しましょう。
- 象牙質
- 歯髄
- 歯の根本
- 歯肉など
口内への刺激で2〜3秒の鋭い深い痛みが走るのは、象牙質に生じている痛みです。
歯髄、いわゆる歯の神経に痛みが生じている場合は、ほかの組織で感じる痛みよりも特に強烈な痛みがあります。一度痛みが生じると数十分間は持続する点も特徴です。
根管治療では歯髄を除去するため、根管治療後も歯に痛みを感じた患者さんは「歯の神経がなくなったのに、歯が痛いのはなぜか」と疑問に感じるようです。
根管治療後も歯が痛い原因は、大きく以下のケースに分類されます。
- 根管治療に伴う刺激があった
- 根管治療が不十分だった
- 別の歯科疾患が生じている
以下で具体的に解説します。
治療による刺激
根管治療は患歯周辺の神経を刺激しながら行うためダメージが残り、治療後も歯が痛いと感じます。
まずは根管治療ではどのような処置を行うのか確認しましょう。
根管治療とは、むし歯が進行し歯の内部にある神経の通り道、根管にまで細菌が感染した際に行われる治療です。
治療では根管内部の細菌と、細菌感染で壊死した神経などを取り除き、きれいに洗浄した後に除菌するための薬を詰めます。
除菌が完了したら菌が再び侵入できないよう、根管を詰め物で満たし、自然な歯に見えるよう被せ物をして治療完了です。
根管治療では神経を除去する際、健康な神経から細菌感染した神経を切り取っていることがわかるでしょう。
傷ついたり刺激を受けたりした神経は過敏になり、数日~1週間程度は痛むことがあります。
嚙み合わせの問題
噛み合わせが合っておらず、根管治療中の仮蓋が圧迫されて痛みが出る場合もあります。
根管治療は細菌除去に時間を要するケースが少なくありません。
細菌除去のために歯科医院では根管内を洗浄した後、除菌する薬を根管内に入れて放置します。
これを除菌が完了するまで繰り返しますが、その間に根管内に細菌や異物が入り込むのを防ぐため、後で外せる簡単な蓋をしておきます。これが仮蓋です。
仮蓋の高さが合わなければ、患歯や周辺の歯の負担になりやがて痛みにもつながります。歯科医院で相談して、噛み合わせを調整してもらうと痛みが改善します。
薬剤による圧力
根管治療では根管内に根管充填剤を詰める圧力で、痛みが生じることがあります。
根管充填剤とは、消毒が終わった根管内に、細菌のえさとなる有機物や細菌が侵入しないように詰めておく薬剤です。
隙間なく緊密に詰められるよう、主にゴム状の充填剤ガッタパーチャを詰めるのが一般的です。
充填剤を根管内に詰める際は、隙間が残らないよう圧をかけながら詰めなければなりません。そのためこの圧力で患歯の周囲が圧迫され、痛みが出るケースがあります。
しかし充填剤の圧迫で生じる痛みは、根管の無菌状態が維持されれば自然と解消されるでしょう。
感染組織の残存
根管治療で根管内に感染組織の取り残しがあると、治療後も痛みが解消しません。
根管はとても細く、曲がっていたり、枝分かれしていたりと複雑な形状をしています。その内部に侵入した細菌をすべて取り除くのは大変難しい作業です。
そのため感染した組織が根管内に取り残されたまま、根管治療が終了してしまうケースがあります。
術後から長期的に痛みや違和感が続く場合は感染組織の残存を疑い、歯科医院に相談しましょう。
むし歯・歯周病
根管治療が終わっても、新たにむし歯や歯周病にかかって痛みが出るリスクがあります。
そもそも根管治療は、むし歯が進行して歯の神経まで到達することで必要になる治療です。患歯を治療しても、むし歯が再発して痛みが生じるケースもあります。
根管治療を受けると同時に、むし歯の原因となる細菌の塊(プラーク)が口内に溜まらないよう、歯磨き習慣を見直しましょう。
歯ブラシ以外にも以下のようなデンタルグッズを活用することもおすすめです。
- ワンタフトブラシ
- デンタルフロス
- 歯間ブラシなど
歯を支える歯茎や骨がむしばまれる歯周病も、プラークの増殖が大きな原因のひとつです。口内環境を清潔に保ち、病気のリスクを抑えましょう。
歯根破折
根管治療後は歯の根が割れて痛くなる歯根破折(しこんはせつ)になるリスクが上がります。
歯根破折は根管治療で神経を失い、栄養供給がされなくなった歯によく起こる疾患です。歯根破折が起きると、以下のような初期症状が現れます。
- 患歯に違和感がある・むずむずする
- 歯が響くような感覚・浮いた様な感覚がする
- 歯茎に白いできものができる
- 被せ物が取れやすくなる
これらの症状を放置すると、患歯の割れ目から細菌が侵入し激しい痛みを引き起こします。
その後は周囲の歯や骨にも影響が広がるため、初期症状のうちに歯科医院を受診することが重要です。
破損したリーマーの取り残し
根管治療では治療器具の一部が根管内に残ってしまうケースがあり、治療後の痛みを引き起こす原因になることがあります。なぜそのような事態が発生するのでしょうか。
根管治療で根管内部を洗浄する際、リーマーと呼ばれる器具で根管内部を削り取りながら清掃します。
しかし根管内部は複雑な形状をしているため、リーマーが途中で折れて根管内に残ってしまうことがあります。
リーマーの素材は一般的に、根管内に残っても溶けたり腐蝕したりしないステンレスかニッケルチタンです。
リーマーが残っているために、身体や治療成績に悪影響を与えることはありません。
そのためリーマーの一部を除去することで、患歯にかえって負担がかかりそうな場合はそのまま歯内に残すこともあります。
リーマーはこのような流れで歯のなかに残されており、医療的なミスではありません。
しかし根管内にリーマーの一部が残っていることで痛みがある場合は、再治療で取り出す必要があります。
根管治療後の痛みが続く期間は?
根管治療後、治療に伴う痛みは数日~1週間で治るのが一般的です。1週間以上続く痛みや、不自然に程度の強い痛みがある場合は歯科医院に相談してください。
根管治療後に痛みがある場合の対処法
根管治療で現れる痛みには、以下のような痛みが挙げられます。
- 急激に強い痛みが出る
- だんだんと痛みが強くなる
- むずむずするような痛みがある
- 熱く膨れ上がって痛む
このような根管治療後の痛みは患者さんのQOLを低下させ、急な通院は日常生活を妨げます。根管治療後の痛みにはどのように対処すればよいでしょうか。
以下で代表的な方法を紹介します。
痛み止めを服用する
根管治療後に生じる痛みをやわらげるため、多くの歯科医院では痛み止めや抗菌薬を処方します。それぞれどのような薬が処方されているのでしょうか。
痛み止めは手術後に起こる痛みをやわらげる目的で処方されます。痛み止めとしては以下のような薬がよく処方されます。
- ロキソニン
- カロナールなど
特にロキソニンには炎症を抑える効果があります。
また抗菌薬(抗生物質)は手術後の感染を予防する目的で処方されます。抗菌薬としては以下のような薬がよく処方されます。
- メイアクト
- レボフロキサシンなど
根管治療後には痒痛にも効果があるメイアクトを処方されるのが一般的です。
ただし、メイアクトは妊娠中・授乳中の女性や、肝臓・腎臓の機能が低下している患者さんは医師の指導のもとで慎重に使用されるべきです。服用に際しては必ず医師に相談してください。
患部を冷やす
急に激しい痛みが出ている場合は、患部を氷で冷やす処置も有効です。
ただし歯茎や頬がはれている際、冷やすと症状が悪化するケースもあることも知っておきましょう。
細菌感染によって歯が腫れているケースでは、患歯周辺を冷やすと血流が悪くなり、細菌と戦う免疫機能が低下する可能性があります。
そうなれば細菌の侵食が進み、患歯の状態はますます悪くなってしまいます。
単純な腫れか、細菌感染による腫れかを患者さん自身で判断することは難しいでしょう。やむを得ない激しい痛みではないかぎり、むやみに冷やさないことをおすすめします。
いずれにせよ急性の痛みが出ている場合は、早急に歯科医院を受診して診断を受けてください。
熱いお風呂・激しい運動を避ける
血行を促進する行為を避けると痛みが生じにくいです。根管治療後の痛みが出やすい期間は、以下のような行動を避けましょう。
- 熱いお風呂
- サウナ
- 激しい運動
- 飲酒など
根管治療後は入浴をシャワーに置き換えるなど、工夫して過ごしましょう。
歯科医院を受診する
手術後1週間を超えても痛みが続く場合は、歯科的な治療が必要だと考えられます。以下のような状態にあることが予想されます。
- むし歯が再発している
- 歯周病を発症している
- 歯根破折が起きている
- リーマーの取り残しがあるなど
痛みが長く続く場合は、歯科医院に相談しましょう。根管治療は根気が必要な治療です。信頼できる歯科医と二人三脚で進めましょう。
根管治療が長引く理由
根管治療は根管内部がきれいになるまで継続しなければならないため、患者さんの根管内の状態によって長引くケースがあります。
標準的な根管治療では、根管内をきれいする治療に通院約2〜3回、期間でいえば約1ヵ月〜1ヵ月半を要します。
根管治療を受ける患者さんの約90%はこのスケジュールで治療を進めることが可能です。
しかし以下のようなケースだと、根管内をきれいにすることに時間がかかり、治療期間が長引きます。
- 神経を抜いた後の予後が悪い
- 細菌感染がひどい
- 歯の根本に膿が溜まっている
これらのケースに該当すると、治療には数ヵ月〜半年以上かかることがあります。
長い通院を避けたいならば、むし歯を放置せず早めの治療を受けるようにしましょう。
根管治療の歯科医院選びのポイント
根管治療後に痛みが出るリスクを抑えたいならば、歯科医院選びにこだわりましょう。
歯科医院選びのポイントは、信頼できる歯科医師がいるか、除菌に必要な治療法を実施しているかです。以下で詳しく解説します。
経験が豊富な歯科医師が所属しているか
歯科医院に信頼できる歯科医師は所属しているでしょうか。
根管治療は長引くと半年以上も通院が必要な治療であるため、治療方針に不信感があると患者さんは不安なまま歯科医院に通うことになります。
また根管治療は複雑な根管内を適切に洗浄しなければならない、難しい治療です。
根管治療全体の成功率は91%ですが、症状が進む程成功率は下がり歯の根本まで細菌が侵食している場合(根尖病変のある歯髄壊死)の成功率は86%です。
豊富な経験と、高度な技術を持つ歯科医師がいる歯科医院を受診して、信頼できる治療を受けましょう。
ラバーダム防湿を使用しているか
根管治療の成功率を上げるために、ラバーダム防湿の使用が推奨されています。
ラバーダム防湿とは、ゴムのシートから患歯のみ露出させて処置を行う治療法です。口内の細菌や唾液などに触れずに処置をすることを可能にします。
根管治療で重要になるのは、根管内の細菌を可能な限り取り除く無菌的治療の実践です。
無菌的治療では治療時に細菌が入り込まない工夫も大切で、ラバーダム防湿の使用は大変役立ちます。
ラバーダム防湿は普及途中の治療法であるため、検討している歯科医院でもラバーダム防湿を使用しているか確認しましょう。
マイクロスコープを使用しているか
マイクロスコープ(実体顕微鏡)の使用は、根管治療の成功率を上げると考えられています。
マイクロスコープを用いると、治療時に拡大された明るい視野が得られるため、小さく複雑な根管の処置には不可欠なものになりつつあります。
肉眼では見落としてしまう感染源も、取りこぼすことなく除去できるようになるためです。
検討している歯科医院で、マイクロスコープを使用しているかをチェックしてみましょう。
根管治療後の注意点
根管治療が完了した後、再び細菌感染を起こして根管治療をすることを再根管治療といいます。
再根管治療は、根管治療よりも難易度が高い治療です。再根管治療の成功率は98%、根尖病変がある再根管治療の成功率は62%です。
再根管治療の原因は、初回根管治療の質にあるとされています。適切な治療法を高い技術で提供してくれる歯科医院を選び、再発を防止しましょう。
まとめ
根管治療後に現れる痛みには治療に伴う痛み、治療が不適切だったときの痛み、ほかの病気を併発している痛みがあります。
治療に伴う痛みは、1週間以内に治ることが一般的です。痛みが1週間以上続く場合は治療の修正、病気の治療が必要になるため、歯科医院で相談しましょう。
根管治療の痛みを予防するためには、適切な歯科医院選びが重要です。経験豊富な医師が、適切な治療法を実施している歯科医院を探しましょう。
参考文献