根管治療中に、うがいをして出血に驚いたという経験はありませんか。治療中なのに、なぜ歯や歯茎から出血するのかと不安に思うことでしょう。
根管治療は、炎症や感染を起こした歯髄(歯の内部の神経組織)の治療手法です。感染箇所を取り除き、消毒して薬剤を入れ、最後に根管に詰め物をしなければなりません。
歯の神経や血管が集まったデリケートな部分を治療するため、出血が起こりやすいのです。
そこで今回は、根管治療で出血する原因と対処方法について詳しく解説しましょう。これから根管治療を受ける方や現在治療中の方は、ぜひ最後までお読みください。
根管治療で出血する原因が歯茎からの場合
根管治療の出血の原因は、大きく分けて「歯茎から」と「歯の中から」の2種類があります。
歯茎からの出血は、細菌が歯の根の先で炎症を起こすために起こります。歯茎からの出血の原因は、以下の3つが考えられるので注意してください。
- 麻酔注射の傷
- ラバーダムのクランプでできた傷
- 歯茎の腫れ
それぞれ説明していきましょう。
麻酔注射の傷からの出血
歯茎からの出血は、麻酔の注射針で歯茎を傷つけてしまうことが主な原因です。
ただし、神経や血管がある歯髄にむし歯が達している場合は、麻酔をしないと激しい痛みがあって根管治療はできません。
通常は数日以内に傷は癒え、出血も止まるでしょう。出血は根の周囲の血流がよい証拠なので、止血後は安心して治療を続けてください。
ラバーダムのクランプでできた傷からの出血
根管治療の際には、歯の根っこに唾液が入って感染しないよう特別な器具を使います。ラバーダムは、歯の中に唾液が入ったり洗浄液が漏れたりするのを防ぎます。
クランプはラバーダムのゴムシートを歯に引っかける金属製の輪っかですが、治療中に歯茎に刺さって出血することがあるので注意しましょう。
しかし、これは歯茎にできた傷から起こる出血なので、特に治療の必要はありません。
出血自体は治療当日には止まり、歯茎の違和感も1~2日で治るでしょう。痛みがある場合は、鎮痛剤を飲んで経過を観察してください。
歯茎の腫れが原因による出血
根管治療が不十分でなかった場合は、歯の根の先で炎症が発生し、出血・膿などの症状を起こすことがあります。
また、前回の根管治療で被せた被せ物が十分にフィットしていない場合も、隙間から細菌が侵入して炎症を起こす原因になります。
出血の量に関わらず、すぐに歯科医師に相談してください。
根管治療で出血する原因が歯の中からの場合
根管治療での出血には、「歯の中から」出血する場合もあります。なぜ根管治療で出血するのでしょうか。
治療中の歯や歯茎に、以下のような問題がある場合が考えられます。
- 歯に穴が開いている
- 歯の根の先に炎症がある
- 歯の根が割れている
それぞれ順番に、原因と対処法をみていきましょう。
歯に穴が開いている
深いむし歯で穴が開いた状態を放置していると、その穴から出血が起こる場合があります。
また、炎症により歯の組織が吸収された場合にも歯に穴が開きます。ただし、このような歯に開いた穴からの血を止める治療法は、根管治療しかありません。
根管治療は歯の根の先の細菌をきれいに除去し、欠損部を補う詰め物・被せ物をして出血を止めます。
歯の根の先に炎症がある
むし歯などを放置しておくと、細菌が歯の根の中まで侵入してしまい、根っこの先で炎症が起こります。
炎症がひどくなると、根っこの中で増殖した細菌が膿となり、出血が起こります。
このように細菌が原因で出血している場合は、炎症を鎮めるため歯の根の中をきれいに除菌する根管治療が有効でしょう。
歯の根が割れている
歯の根が割れている場合、出血が起こることがあります。
原因はさまざまですが、特に多いのは神経を抜いた歯の歯質が脆くなってしまうことや奥歯の噛む力が強過ぎることだといわれています。
放置すると、割れた歯が感染源となって入院治療が必要な程の重篤症状を及ぼすこともあるので注意してください。
このように歯の根が割れている場合は、抜歯するしかないでしょう。
根管治療で出血する症状の治療法
根管治療中に出血がある状態のまま、薬を入れてもしっかり固まりません。
また、将来的に根の病気が再発するリスクが高まるため、きちんと止血した状態で最終的な薬を投与することが重要です。
症状によって治療法は異なるため、それぞれ説明しましょう。
歯茎の傷からの出血は様子を見る
血液には、根の周囲の骨を治癒させる成分が含まれています。歯茎の傷からの出血は、通常は1〜2日で治るので、そのまま様子を見ましょう。
痛みがある場合は、痛み止めを飲んでも構いません。
歯茎の腫れ・歯の根の炎症は根管治療
根管治療を受けた後に、歯茎が腫れることがあります。
これは、歯の内部に溜まっていた細菌が膿となり免疫反応によって放出されるためなので心配はないでしょう。
ただし、治療後に激しい痛みが続く場合は、神経が残っている可能性があるので歯科医院での再治療を受けてください。
精度の高い根管治療を受けることで、歯茎の腫れ・膿・痛みなど歯の根の炎症による症状は治まります。
歯根破折は抜歯
歯の根が割れる・亀裂が入る・折れるといった「歯根破折」が原因で、膿や出血が出ることがあります。
前述しましたが、歯の根が割れたような歯根破折は自然治癒はしません。現在のところ抜歯するしか出血を止める治療法はないでしょう。
根管治療の出血で痛みがある場合の対処法
根管治療では、むし歯の部分を除去するために機械で歯を削ります。そのうえで硬い歯質を削り、針のような器具で神経を取り除きます。
この間は局所麻酔をしていますが、術後に麻酔が切れ始めると痛みが生じるでしょう。歯の奥や頬にズキズキとした違和感を覚えるかもしれません。
このような根管治療の痛みは、通常なら1週間程で消失します。
ただし、「歯髄炎」と呼ばれる神経と血管が通っている歯の中心部に炎症が生じている場合は麻酔が効きにくいため、強い痛みを伴うことがあります。
根管治療後に、強い痛みが長く続く・歯茎が腫れるといった症状が出たときは、我慢せずに担当の歯科医師に連絡してください。
抗生物質・鎮静剤の内服で改善しない場合は、再治療が必要になることもあります。
根管治療以外で考えられる出血原因
根管治療以外にも歯や歯茎から出血する場合があります。痛みや症状もないのに、なぜ急に出血するのでしょうか。
ここからは、根管治療以外で歯や歯茎から出血する原因について説明します。
歯周病
健康な歯茎は適度なハリがあり、歯磨きで出血はしません。一方で、硬いものを噛むと歯茎から血が出る・何もしないのに歯茎が腫れてブヨブヨしているような場合は歯周病を疑ってください。
歯周病は「沈黙の病気」とも呼ばれ、自覚症状がないままに進行します。歯茎から出血がある場合、歯周病が原因のことが多いでしょう。
出血のほかにも、軽度から重症に移行する頃には「歯茎が赤く腫れる・膿が出る」といった明確な症状が現れます。
これらは、プラーク(歯垢)と呼ばれる細菌の塊によって歯茎に炎症が起こるためです。
過度な力での歯磨き
「しっかり歯を磨かないと歯周病になるのでは?」と、力を入れ過ぎて歯磨きしていませんか。
過度な歯磨き方法による外傷もまた、歯茎を傷める原因です。硬い毛の歯ブラシで、ゴシゴシ歯茎を擦るのもよくありません。
特に男性の方は力が強いので、硬めの歯ブラシを選ぶと歯茎を傷つけてしまう恐れがあります。そのような場合、歯ブラシの毛の硬さをやわらかめ~普通に変更してみましょう。
薬の副作用
歯茎の腫れや出血は、内科の薬も関係しています。副作用として「薬物性歯肉肥大」が起きやすい薬には、以下のようなものが知られています。
- けいれんを止める抗てんかん薬「フェニトイン」
- 高血圧の治療薬「カルシウム拮抗薬」
- 臓器移植や自己免疫の病気で用いられる「シクロスポリン」
個人差がありますが、年齢が若い方や服用量が多い方程重症化する傾向があります。歯面に歯垢(プラーク)が多いと重症化するケースもあるので注意しましょう。
また、抗凝固薬「ワルファリン」を服用している方は一般の止血法では血は止まりません。
歯茎から血が出て止まらない場合は、担当の歯科医師または内科の医師に連絡してください。
歯科疾患だけでなく、以下のような内科的な要因も歯茎からの出血と無関係ではありません。
- 糖尿病
- 妊娠
- 骨粗しょう症
- 関節リウマチ
- 白血病
前述したとおり、抗てんかん薬・カルシウム拮抗薬・免疫抑制の3つの薬は、薬物性歯肉増殖で有名です。
内服中は、歯と歯の間の歯茎が腫れて出血が止まらないといったケースもあるので注意してください。
根管治療を受ける際は、内服している薬の有無・内科的な持病なども歯科医師に伝えましょう。
ホルモンバランスの変化
ホルモンバランスが乱れると、血流にも変化が生じ、歯茎の腫れ・出血が起こりやすくなります。
女性は特に、月経のたびに女性ホルモンのバランスが乱れるため注意が必要でしょう。さらに妊娠中は特に、女性ホルモンの増加が顕著です。
妊娠性歯肉炎や妊娠性エプーリスなど、 ホルモンバランスによる歯のトラブルが増えるかもしれません。
また、更年期以降は女性・男性を問わずホルモンの量は減少傾向にあります。そのため、ドライマウスなどの症状が出やすく、歯周病のリスクも高まるので注意してください。
出血があるときに気を付けること
ここからは、歯茎から出血したときにやってはいけないこと・気を付けることを説明します。その際の正しい処置についても紹介しますので、参考にしてください。
出血の量が多い場合は、以下のことを避けましょう。
- 飲酒
- 運動
- 入浴
- サウナ
これらは、体の血行を促す行為です。血の巡りを活発化させるので出血が落ち着くまで控えましょう。
特に、アルコールなど刺激物の摂取は出血している部分を余計に刺激してしまいます。運動もなるべく控え、出血が落ち着くまでは体を安静に保ってください。
入浴は必ず禁止というわけではありませんが、血の巡りがよくなると、出血の量が増えて止まりにくくなってしまいます。
どうしても入浴しないと気持ちが悪い場合は、温度を低くしたぬるま湯に浸かるか、さっとシャワーを浴びて済ませるようにしましょう。
サウナや熱い湯に10分以上浸かることは厳禁です。入浴時間も5分以内に留めてください。
出血しているときでも口内ケアは必要ですが、歯磨き粉・洗口液・デンタルリンスなど刺激のあるものの使用は控えてください。
歯茎から出血している場合は、歯ブラシのあて方や方法にも注意が必要です。
また、出血が落ち着くまでは、出血している歯茎に歯ブラシをあてないよう注意してください。
出血しているところを歯ブラシで擦ると強い刺激が加わり、出血が止まらなくなります。出血していない部分であっても、なるべくやわらかいブラシで優しく磨きましょう。
歯茎から出血する場合に考えられる病気・疾患には、歯周病のほかにも以下のようなものがあります。もし心当たりがあれば、併せて歯科医師に相談してください。
- 口の中の外傷
- 合わない被せ物や入れ歯
- インプラント周囲炎
- 歯ぎしり・食いしばり
- 顎関節症
寝ている間に歯茎から出血する場合は、夜間の食いしばり・歯ぎしりも関係しています。
睡眠中に起きていることは無意識の行動なので、自分ではコントロールできません。
歯周病の大きな原因は歯垢(プラーク)ですが、そこに嚙む力(咬合力)が加われば進行は加速します。悪化すると顎関節症の原因にもなってしまいます。
ナイトガードと呼ばれる夜間用のマウスピースを装着し、寝ている間の出血を防いでください。保険適用内で製作できますので、歯科医師に相談してみましょう。
口の中の出血は、唾液に血液が少し混じる程度であれば問題ありません。
唾液で薄まっているため量が多いように見えますが、実際は少ないので心配する必要はありません。気になる場合は、頬を冷やして安静を保ちます。
血は無理に洗い流そうとしないで、唾液と一緒に吐き出す程度に留めておきましょう。
清潔なガーゼを束ねて噛みっぱなしにする圧迫止血も有効です。それでも出血が止まらない場合は、早めに歯科医師に連絡してください。
まとめ
今回は、根管治療などで考えられる歯と歯茎からの出血の原因と対処法について解説しました。
根管治療は複数のプロセスがあるため、中・長期的な治療が必要です。治療期間が長引く程、時間や費用もかかることになるでしょう。
そのため、日頃から口内ケアに注意してむし歯や歯周病を予防することが大切です。
歯周病の防止のため、歯茎にダメージを与えている方はフロスの正しい使い方を歯科衛生士から指導してもらいましょう。
歯ブラシの硬さや、歯間ブラシのサイズの見直しも必要かもしれません。定期的に歯科医院へ通い、早期発見・早期治療に努めてください。
参考文献