むし歯が歯の内部にまで進行した場合に行われる治療の一つである根管治療は、保険適用での診療だけではなく、歯科医院によっては自費診療での治療も提供されています。
この記事では、こうした自費診療での根管治療が、一般的に保険適用で行われている治療とどのような違いがあるのかについてや、自費診療の場合の費用の相場をはじめ、自費診療の根管治療について解説します。
根管治療とは
根管治療とは、一般的にはむし歯が神経まで進行してしまった場合に行われる治療で、歯の神経などを取り除き、むし歯による強い痛みなどを改善するための治療を指します。
根管とは歯の根っこの部分のことで、歯槽骨という歯をささえる骨に突き刺さった細長い部分を指します。歯の根っこ部分は神経や血管が通る細い管状となっていることから、根管と呼ばれます。 根管治療の流れはまず、しっかりと麻酔をかけて痛みを抑えたうえで、専用の器具を使用して歯の内部から神経を除去していきます。
この際、根管はとても細い形状なので、そのままでは十分な治療を行うことが難しく、根管治療を行う際には、根管拡大といって根管の内部を広げる対応が行われます。
根管の数は、前歯は通常1本、小臼歯は通常1~2本、大臼歯は通常2~4本で、1本の歯に対して複数の根管があり、それぞれに治療が行われます。
神経を除去した後は、再感染を防ぐために根管内部に詰め物が行われ、ここまでの流れが根管治療と呼ばれます。
なお、根管治療の後は一定期間をおいてから経過の観察が行われますが、この際に治療部位での再感染や炎症が出ている場合は、根管治療をやり直すこともあります。 根管治療が終わり、歯の内部の感染が解消された後は、土台を作って被せ物の治療が行われます。
根管治療の費用相場について
根管治療は、むし歯の治療として保険適用で受けることができる治療です。
しかし、保険適用での根管治療は使用する器具などに制限があることから、歯科医院によっては自費診療での根管治療を提供しているケースもあります。
まずは保険適用の根管治療と、自費診療の根管治療、そして根管治療後の被せ物の治療について、それぞれの費用相場を紹介します。
保険適用の場合の費用相場
保険適用の治療でかかる費用は、歯科診療報酬点数という形で全国一律で定められています。
根管治療は、むし歯の除去と神経の処置、その後の根管内の洗浄と仮詰め、最終的な根管充填と処置という段階にわかれ、それぞれ治療を行う歯の根管の数によって費用が異なります。 2024年の改定では、3割負担の場合の費用は下記のようになっています。
- むし歯を削る処置…歯1本あたり約50円(18点)
- 神経を除去する処置…単根管:約700円(234点)、2根管:約1,280円(426点)、3根管以上:約1,800円(600点)
- 根管の掃除…単根管:約480円(160点)、2根管:約930円(310点)、3根管以上:約1,350円(450点)
- 再感染を防ぐ薬剤の仮詰め…単根管:約100円(33点)、2根管:約120円(41点)、3根管以上:約170円(57点)
- 最終処置…単根管:約220円(72点)、2根管:約280円(94点)、3根管以上:約370円(122点)
※カッコ内は診療報酬点数 最終的な費用として、根管治療には1,500円から4,000円程度がかかり、これ以外に診察料やX線の画像診断費用、そして根管治療後の被せ物の治療費用などがかかります。
また、根管治療は仮詰めを行った後で再感染が確認された場合に再治療が必要となることがあり、その場合には追加での治療費用が必要です。
治療が一回で終わらないで繰り返されてしまうと、保険適用の治療であっても治療費用がかさんでしまう可能性があります。
自費診療の場合の費用相場
自費診療とは、歯科医院が自由に治療にかかる料金を設定できる治療のことで、健康保険による負担がなく、治療の費用の全額を患者さん自身が支払うものです。
自費診療は特に治療費用の制限もないため、根管治療の場合、歯科医院によって5万から15万円程度と幅があります。
また、同じ歯科医院であっても、根管治療の際に使用する器具や治療を行う歯の種類などによって費用が異なるため、どの程度の費用がかかるかについては、直接診療を受けてみる必要があります。
自費診療の被せ物の費用相場
根管治療の後には、再感染の防止と歯の噛み合わせの回復を目的として、被せ物の治療が行われます。
被せ物も保険適用の治療と自費診療の治療がありますが、自費診療で治療を行う場合、使用する被せ物の材質などによって大きく費用が異なります。
使用する素材別の費用相場は下記のようになっています。
- セラミック:8万円~20万円
- ジルコニア:10万円~25万円
- ハイブリッドセラミック:5万円~10万円
- メタルボンド:8万円~15万円
- ゴールド:10万円~15万円
同じ素材でも、作成する歯の種類や、どのように作るかなどによって費用が異なりますので、詳細な費用については治療を受ける歯科医院に相談してみましょう。
自費診療の根管治療の特徴
根管治療は保険適用で受けることができるのに、全額を自分で負担する必要がある自費診療が行われているのはなぜなのでしょうか。
自費診療で行われる根管治療の特徴を紹介します。
使用できる医療機器や器具の違い
保険適用の治療には、治療費用だけではなく、治療に使用できる機材や、治療方法についても詳しい決まりごとがあります。これは、全国どの歯科医院でも同じ水準の治療を提供できるようにするためで、しっかりとした決まりが用意されているため、どこでも一定水準の治療を受けることができるのです。 一方で、医療の世界は日々進化を続けているため、歯科医院によってはより精度の高い治療を行うための医療機器や器具が導入されています。保険適用の治療では、こうした先進的な医療機器や器具を使用することができないことから、自費診療での提供が行われています。 根管治療の場合、マイクロスコープを使用した治療や歯科用CTによる検査を行える点が、自費診療の特徴です。 マイクロスコープは視野を肉眼の数十倍に拡大しながら治療を行うための装置で、保険適用の根管治療の場合は肉眼か拡大鏡を使用して治療が行われますが、マイクロスコープを使用すると、最近の感染部位をより詳細に見わけやすくなり、精度の高い治療が期待しやすくなります。 歯科用CTは、お口の周囲を立体的に撮影可能な画像診断装置です。保険適用の治療ではX線による平面的な撮影しか行えませんが、歯科用CTで撮影をすることで、歯やその周囲の組織の状態をより鮮明に確認できるため、安全性の高い治療が行いやすくなります。 また、抜髄や歯の内部の清掃を行う際にも、自費診療ではニッケルチタンファイルという上部でやわらかくしなる性質の器具を使用することができるため、より効率よく治療を進めやすいと言われています。 その他にも、根管治療では唾液が治療部位に入ってしまうと、唾液に含まれる細菌によって再感染が引き起こされる可能性があり、これを防ぐためにラバーダムという器具が使用されます。
歯科医院によっては保険適用の治療でもラバーダムが使用されることがありますが、自費診療ではラバーダムの使用が基本になっていることが多く、安心感のある治療を受けやすいといえます。
使用できる薬剤の違い
根管治療では、歯の内部を清掃した後、根管の空洞を充填する、根管充填と呼ばれる処置を行います。
保険適用の治療では、ガッタパーチャというゴム素材を詰めることが一般的ですが、この素材には殺菌作用がなく、また密閉力が低いため、隙間に細菌が繁殖してしまう可能性があります。
一方、自費診療ではMTAセメントという殺菌力のある薬剤を根管充填で使用することが多く、これにより治療後の再感染を予防しやすくなります。
被せ物の材質の違い
根管治療の後は、歯の噛み合わせを回復させるために被せ物の治療を行います。
保険適用の治療では、被せ物の素材に制限があり、最近はハイブリッドセラミックなどの審美性に配慮された素材を使用できるようになっているものの、天然の歯と比べると違和感が生じやすい結果となります。
自費診療であれば、利用できる素材の制限などがないため、オールセラミックなどによる、より自然な見た目の被せ物を作ることが可能です。
治療期間や通院回数の違い
根管治療は、歯科診療のなかでも難易度が高い治療の一つです。治療を行っても細菌の取り残しがあったり、治療部位に細菌が付着してしまい再感染が生じると、治療をやり直さなくてはいけない可能性があります。
そのため、1回の根管治療にかかる期間は数週間程度であるものの、根管治療が完全に終わるまでには場合によって数ヶ月がかかることもあります。
特に、保険適用の治療の場合、使用する器具などの違いからどうしても細菌を除去しきることが難しく、再治療を繰り返し、治療期間や通院回数が増加しやすいという特徴があります。
自費診療の場合、一回の治療費用は高くなりやすいものの、再治療が必要になるリスクを下げやすいので、結果的に治療期間や通院回数が少なくなり、費用も抑えられる可能性もあります。
自費診療での根管治療のメリットとデメリット
自費診療で根管治療を行う場合のメリットとデメリットについて解説します。
自費診療での根管治療のメリット
自費診療での根管治療のメリットは、精度の高い治療が期待しやすく、むし歯の再発を抑えやすい点です。
一度の治療でしっかりと治療を終わらせやすいので、治療を短い期間で終わらせやすくなりますし、通院の手間も抑えられます。
また、治療回数が少ないため、歯の内部を削る量も抑えやすく、長期的に良好な予後を期待しやすいといえます。
自費診療での根管治療のデメリット
自費診療による治療のデメリットは、費用面です。
自費診療は健康保険による負担がないことや、より精密な治療を行うために治療に時間がかかったり、先進的な医療機器が利用されるため、どうしても一回の治療費用は保険適用の治療と比べて高額になります。
しかし、保険適用の治療でも、何度も繰り返すとその分治療費用や通院費用がかさんでしまう可能性があり、場合によってはほかの治療が必要な状況になってしまうこともあるため、結果として自費診療の方が、負担を抑えられることもあります。
自費診療による根管治療の成功率
日本における保険診療での根管治療の成功率は30%から50%程度とも言われています。
これは、保険診療ではマイクロスコープなどの治療機器を使用することができないため、治療後に再感染が生じ、再治療が必要になるケースが多いためです。
一方、自費診療による治療では、その成功率は90%以上になるといわれ、大幅に治療の成功率を向上させられる可能性があります。
自費診療での根管治療の治療費用を抑える方法
自費診療による根管治療に興味はあるけれど、なるべく費用を抑えて治療を受けたいという方は、下記のような方法を取り入れてみてください。
定期的な歯のメンテナンスを受けて早めに治療する
根管治療に限りませんが、歯の治療はなるべく病状が進行していないうちに治療を受けることが、必要な治療内容を少なくして、治療費用を抑えるための重要なポイントです。
むし歯は症状が進行するまで自覚症状が出にくく、痛みなどが出始めたときにはすでに症状がかなり進行してしまっているという状況になることもあります。歯科医院で定期的な歯のメンテナンスを受けるようにしていると、むし歯を初期段階で見つけることが可能となり、そもそも根管治療のような大がかりな治療を行わずに済む可能性が高くなりますので、治療費用を抑えたいという方は、しっかりと定期的な歯科検診を受けるようにしましょう。
医療費控除を利用する
自費診療であっても、根管治療にかかった費用は医療費控除の対象となります。
医療費控除とは、年間にかかった医療費が10万円を超えた場合、その分を所得税や住民税の計算を行うための所得から控除できるという制度です。
自費診療による根管治療を含め、年間にかかった医療費が高額になった場合は、年末調整や確定申告で所得税からの還付を受けたり、翌年の住民税を抑えられる可能性があります。
高額療養費を利用できる?
高額療養費とは、月ごとにかかった医療費が一定の金額を超えた場合に、その分の還付を受けることができるという制度です。
ただし、高額療養費の対象となるのは保険適用の診療のみであるため、自費診療での根管治療は対象となりません。
保険適用の診療で根管治療を受け、ほかの医療費と合わせて一定金額を超えたような場合であれば、高額医療費の対象となる可能性があります。
まとめ
自費診療の根管治療の相場料金は5万から15万円程度で、治療内容や対象の歯によって差はあるものの、一回の治療費用だけみれば保険診療よりも高額です。
しかし、自費診療の場合は先進的な診療機器などが利用できるため、治療の成功率が向上し、場合によっては治療にかかる費用を抑えられたり、より口腔環境を健康に保ちやすい治療につながる可能性もあります。 現在では医療技術の進歩により高精度の根管治療が受けられるようになってきました。根管治療は1つの歯に対して何度も行える治療ではありませんので、自分の歯を守るために歯の状態や難易度によっては自費診療の治療を検討することも大きなメリットがある場合があります。
気になる方は、まずは一度歯科医院で相談してみてはいかがでしょうか。
参考文献