歯の神経を取る治療として知られる根管治療は、歯科治療の中でも難しい治療のひとつです。根管は細くて複雑な形をしており、目で見られないため、器具や薬剤を使って細菌を完全に除去することは困難です。本記事では、根管治療が難しい理由について以下の点を中心にご紹介します!
- 根管治療が難しいといわれる理由
- 根管治療の失敗
- 根管治療が失敗した場合の治療法
根管治療が難しい理由について理解するためにもご参考いただけると幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
根管治療が難しいといわれる理由
- 無菌状態で治療するのは難しいですか?
- 根管治療が難しいとされる主な理由は、治療を無菌状態で行うことの難しさにあります。口内は常に唾液や微生物が存在し、完全な無菌状態を実現することは困難です。さらに、歯の内部構造は複雑で、細かい枝分かれや狭い部分が存在します。これらの部分に細菌が残存していると、根管治療後も感染のリスクがあり、治療の成功率を下げる要因となります。
根管治療の成功を左右する重要な要素として、根管内の清掃および洗浄、消毒の難しさが挙げられます。これらのプロセスを適切に行うことで、治療後の感染リスクを抑え、根管治療の成功率を高めます。
- 根管が複雑な形をしているため、成功率が低いのですか?
- 先に述べたように、根管の形状は複雑であるため、治療器具が届きにくい場所が存在し、これが治療の成功率を下げる要因となっています。根管は歯の根にある細長い管で、歯髄(神経や血管が含まれる部分)が通っています。この管は一本の歯に対して複数存在することがあり、それぞれが異なる方向に曲がっていたり、分岐していたりと複雑な形状を呈します。
そのため、根管内の細菌を除去し、根管を無菌化すること、さらには根管を適切に充填することが技術的に難しく、これが根管治療の成功率を左右する大きな要因となっています。
- 病巣を直接治療できないのですか?
- 根管治療が難しいとされる理由の一つに、病巣を直接治療できない点があります。
根尖性歯周炎は、むし歯や外傷によって歯髄に細菌が侵入し、歯髄内で増殖した細菌が歯の根の先から出て、歯の根の周囲に炎症を引き起こす病気です。この病気の治療法である感染根管治療は、細菌が感染した歯髄組織や細菌が入り込んだ根管の壁の一部を取り除き、根管内部を消毒して無菌化することで、病気の治癒を目指します。
しかし、根管内部が無菌化できたかどうかの判断が難しく、無菌化できたかの正確な検査方法も確立していません。さらに、根の周囲の病巣はレントゲン写真で確認できても、直接目で見られず、直接治療することもできません。
根管内を無菌化することでしか周囲の病巣を治せないため、感染根管治療は難しく、痛みや腫れを繰り返すことが多い傾向にあります。
- 根管治療が成功する確率を教えてください
- 根管治療の成功率は、治療を行う医院や使用される技術によって異なりますが、30%から50%程度とされています。根管治療は、歯の神経が通っている根管内の細菌を除去し、炎症を治療するプロセスです。この治療が難しい主な理由は、これまでに述べてきたように、根管内が狭く、複雑な形状をしているため、全ての細菌を除去し、根管を完全に無菌状態にすることが困難な点にあります。
さらに、治療後に根管内に細菌が残ってしまうと、再感染のリスクがあり、これが治療の失敗につながることがあります。
根管治療が失敗するとどうなるのか
- 根管治療が失敗した場合、痛みや腫れなどの症状が生じますか?
- 根管治療が失敗すると、痛みや腫れなどの症状が生じることがあります。根管治療は、歯の神経が通る根管内の感染を取り除き、その後根管を清掃して消毒し、最終的に充填することで歯を保存しようとする治療です。治療が不完全であったり、根管内の細菌が除去されなかったりした場合、残った細菌が原因で根尖部に炎症が再発し、痛みや腫れを引き起こすことがあります。
根管治療後に痛みや腫れが持続する場合は、治療が不成功であった可能性が高く、再根管治療や他の治療法の検討が必要になることがあります。
したがって、根管治療を受けた後に痛みや腫れが生じた場合は、速やかに歯科医師に相談することが重要です。
- 根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)はどのような状態ですか?
- 根尖性歯周炎は、根管治療が失敗した場合に生じる状態で、歯の根の先端部分に位置する歯周組織が炎症を起こす病気です。
この炎症は、根管内の細菌感染が原因で発生し、治療が不十分であったり、根管内に細菌が残っていたりすることで、根尖部で病巣を形成し、炎症が進行します。根尖性歯周炎には急性と慢性の二つの形態があり、急性の場合は強い痛みを伴い、慢性の場合は自覚症状がほとんどないこともありますが、刺激を加えると違和感を感じることがあります。
この状態が放置されると、周囲の骨まで炎症が進行し、歯がグラグラするなどの重篤な症状を引き起こす可能性があります。根尖性歯周炎は、根管治療の失敗により再発することがあり、適切な治療が必要となります。
- 歯根嚢胞(しこんのうほう)はどのような病気ですか?
- 歯根嚢胞は、根管治療が失敗した場合に生じる可能性のある病気です。
これは、歯の根の先端に位置する歯周組織の炎症が原因で発生する膿の袋です。根管内の細菌感染が原因で、歯の根の先端部分で病巣を形成し、その結果、嚢胞が形成されます。
嚢胞は、周囲の骨を溶かすことによって徐々に大きくなり、場合によっては顎の骨に損傷を与えることもあります。歯根嚢胞は、しばしば無症状で進行し、大きくなった時に初めて発見されます。
治療には、嚢胞の摘出や根尖部の切除、場合によっては歯を抜くことが必要になることもあります。この病気は、根管治療の精度が低い、または治療後に再感染が起こった場合に発生するリスクがあり、根管治療の重要性を示しています。
根管治療が失敗した場合の治療法
- 精密根管治療について教えてください
- 精密根管治療は、根管治療専門の歯科医師がマイクロスコープ(顕微鏡)や歯科用CTを使用して行う、高度な根管治療のことです。この治療法は、根管内の細菌を徹底的に除去し、再発を防ぐことを目的としています。根管は細く、複雑な構造をしているため、肉眼だけでは確認が難しく、治療が困難です。しかし、マイクロスコープを使用することで、根管内部を詳細に観察し、細菌感染した部分を正確に特定します。
精密根管治療は自由診療に該当し、高度な治療が可能といわれていますが、その分費用がかかります。保険診療では使用できる器具や薬剤に制限がありますが、精密根管治療ではより高品質な材料や先進的な技術を用いられます。これにより、治療の精度が向上し、成功率が高まります。
精密根管治療の目的は、できる限り自分の歯を残し、再治療の必要性を減らすことにあります。むし歯が大きく進行して歯の神経を取る必要がある場合や、何度も治療を繰り返しているが痛みや腫れが改善しない場合には、精密根管治療が有効な選択肢となります。この治療法を選択することで、長期的に健康な歯を維持することが期待できます。
- 根管治療で症状が改善されないときは歯根端切除術が適応されますか?
- 根管治療が失敗した場合の治療法として、歯根端切除術が適応されることがあります。この手術は、根管治療で症状が改善されない場合や、根尖部に病巣が残っている場合に行われます。歯根端切除術は、歯の根の先端部分を外科的に切除し、病巣を除去する治療法です。この処置により、感染源を直接取り除き、根尖性歯周炎や歯根嚢胞などの病変を治療します。
歯根端切除術は、局所麻酔下で行われ、歯肉を切開して根尖部にアクセスし、感染した根尖部分や病巣を切除します。その後、根管内を清掃し、必要に応じて根管充填を行い、最後に歯肉を縫合します。この手術は、根管治療だけでは解決できない根尖部の問題に対して有効な治療法であり、歯を抜歯せずに保存するための選択肢の一つです。
- 精密根管治療や外科的処置をしても症状が改善しない場合は抜歯が必要ですか?
- 根管治療が失敗し、精密根管治療や外科的処置をしても症状が改善しない場合、抜歯が必要になることがあります。根管治療中の歯の抜歯を検討する基準には、歯が根の先まで割れて細菌感染を起こしている場合や、外科的根管治療をしても良くならない場合が含まれます。
抜歯をすることのメリットとしては、感染源を取り除き炎症をストップさせられる点や、歯を支えている周りの骨を守る点が挙げられます。しかし、抜歯にはデメリットもあり、一定期間の痛みを伴うこと、術中・術後に一定程度の合併症が生じる可能性があること、そして自身の歯を失うことになり、その後の治療方法を考えなければならないことがあります。
抜歯をせずに歯を残せる方法としては、精密根管治療や外科処置(歯冠長延長術、歯根端切除術、意図的再殖、矯正を用いた治療方法など)があります。これらの治療法は、抜歯を回避し、歯を保存する可能性を広げるために役立ちます。
しかし、これらの治療法を試しても症状が改善しない場合は、抜歯が避けられない選択となることがあります。重要なのは、抜歯を宣告された場合でも、すぐに諦めずに、歯を残せる可能性を探求し、自身に合った歯科医師を選ぶことです。
編集部まとめ
ここまで根管治療が難しい理由についてお伝えしてきました。
根管治療が難しい理由の要点をまとめると以下の通りです。
- 根管治療が難しいといわれる理由として、治療を無菌状態で行うことの難しさ、根管が複雑な形状であること、病巣を直接治療できないことが挙げられる
- 根管治療が失敗した場合、痛みや腫れなどの症状、また根尖性歯周炎や歯根嚢胞を引き起こす
- 根管治療が失敗した場合、精密根管治療や歯根端切除術、抜歯をする可能性がある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。