何回も通っているのに根管治療が終わらないことや、治ったと思ったらまた膿が出てきたということはありませんか。根管治療ではそうした悩みを抱えている人が非常に多いといわれています。そのため根管治療を途中でやめたいと考える人も少なくありません。
たしかに根管治療には日常的に経験することがないような痛みを伴ったり、治療期間が数ヶ月に及んだりすることがあります。そのため、途中でやめて楽になりたいという気持ちになることがあるかもしれませんが、そこは冷静になって一歩立ち止まることをおすすめします。根管治療を途中でやめるとさまざまなリスクをともなうからです。本記事ではそんな根管治療を途中で止めるリスクと再開すべき理由をわかりやすく解説をします。
根管治療とは
- 根管治療とはどのような治療ですか?
- 根管治療とは、歯の根っこの中を清掃する処置のことです。むし歯が進行すると、歯の神経まで細菌に侵されるため、それが収まっている歯の根の管(根管)をきれいに掃除しなければならないのです。根管内の感染は、通常のむし歯と同様に自然治癒しません。放置していると感染の範囲が広がり、やがては歯そのものを保存できなくなることから、根管治療が必須となります。
- 根管治療のメリットを教えてください。
- 根管治療を行うと、歯の保存が可能となります。歯は再生することがない組織なので、失うことは患者さんにとって大きなデメリットとなります。失った歯はブリッジや入れ歯、インプラントで補うことができますが、やはり天然歯には劣ります。また、失った歯を補う治療には高額な費用がかかることもあるため、根管治療でしっかりと治した方が経済面におけるメリットも大きくなることでしょう。
また、根管治療を行うことによって、それまで生じていた細菌感染による歯痛を取り除けます。ズキズキという不快な症状で眠りや仕事が妨げられていた人にとって、それがなくなることは何にも代えがたいメリットといえます。さらには、感染の範囲が広がったり、根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)や顎骨骨髄炎(がっこつこつずいえん)、歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)といったより深刻な病気が誘発したりするのを防ぐことにもつながります。
- 根管治療のデメリットを教えてください。
- 根管治療は、少なからず痛みをともないます。それは処置の最中だけでなく、仮蓋をして帰宅した後も続く場合があります。すべての処置が完了して、根管内に薬剤を充填した後もしばらくは痛みなどの不快な症状に悩まされるかもしれません。
そうした辛い思いをしても根管内の病巣を取り切れなかったり、根管に穴があいたりした場合は、根管治療の甲斐もなく、抜歯を余儀なくされることがあります。つまり、根管治療を行ったからといって、100%歯を保存できるわけではないのです。
根管治療が必要な症状
- 歯髄炎の症状について教えてください。
- 歯髄炎になると歯がズキズキと脈打つように痛みます。歯髄炎の痛みには波があり、交感神経が優位になっている日中は症状が軽くなりますが、副交感神経が優位になる夜間は逆に症状が重くなります。眠る前は、ベッドに横たわってリラックスしているため、歯髄炎による痛みも強くなりがちです。進行したむし歯で見られる歯髄炎では細菌感染が起こっています。そのため、自然に治ることはなく、放置していると症状も強くなっていくので早期に治療を受けた方がよいといえます。
- 根尖性歯周炎の症状について教えてください。
- 根尖性歯周炎は歯の根っこの先に膿の塊ができる病気で、むし歯による歯痛は生じません。なぜなら、根尖性歯周炎を患っている場合は、もうすでに歯の神経が死んでいることが多いからです。そのため、冷たいものや甘いものがしみたり、安静時にズキズキという自発痛が生じたりすることはなく、食べ物を噛んだときに歯が痛いと感じるケースが多いようです。また、根尖性歯周炎では歯の根元の部分の歯茎が腫れて、場合によっては膿の排出が認められます。
根管治療の種類と流れ
- 根管治療にはどのような種類がありますか?
- 根管治療の種類には、抜髄(ばつずい)、感染根管治療、再根管治療、外科的歯内療法の4つがあります。
・抜髄
歯の神経と血管からなる歯髄を抜き取る処置です。むし歯がC3まで進行すると歯髄まで感染が及ぶため、抜髄が必要となります。抜髄はクレンザーと呼ばれる専用の器具を使って絡めとるように除去します。根管内に残った歯髄の断片は、根管治療を通して取り除いていきます。抜髄の際には必ず局所麻酔を施すことから、施術に痛みをともなうことはありません。・感染根管治療
文字通り感染した根管を清掃する治療で、過去に根管治療を受けたことのない歯が対象となります。むし歯菌に感染した根管を1本1本ていねいに清掃します。ファイルやリーマー、消毒薬など、さまざまな器具・薬剤を駆使して、根管内の病変を取り切ったら根管充填を行って再感染を防ぎます。・再根管治療
過去に根管治療を受けた歯が再感染した場合に必要となる処置です。前の治療で入れた被せ物、土台、充填物はすべて取り除いたうえで再び根管内を清掃します。再根管治療は、もうすでに根管の拡大や形成が行われているため、歯質が薄くなっています。歯全体も脆くなっていることから、初回の根管治療よりも成功率が低くなる点に注意が必要です。根管の状態が悪い場合は、抜歯を優先することもあります。・外科的歯内療法
通常の根管治療では十分な効果が得られないケースに適応される治療法です。基本的には根管外からアプローチして、細菌感染によって生じた病巣を取り除きます。最もポピュラーなのは歯根端切除術(しこんたんせつじょじゅつ)です。根尖病巣が生じていて、根管内のからのアプローチでは完治が難しい場合に、歯の根の先とその周囲の病変をまとめて外科的に取り除く方法です。外科的な処置である、歯茎の切開や骨の削合をともなうことから、外科的歯内療法に分類されています。
- 根管治療の流れを教えてください。
- 初めての根管治療では局所麻酔を施し、抜髄をして根管の拡大と形成を進めていきます。1回の治療で根管内の病変を取り切ることは難しいため、処置の終わりには消毒薬を入れて仮蓋で密閉します。2回目以降も同様の処置を繰り返し、根管内の汚れがなくなったら、ガッタパーチャという樹脂を充填し、土台を作って被せ物を装着します。
根管治療を途中でやめた場合のリスクと治療を再開すべき理由
- 根管治療を途中でやめた場合にどのようなリスクがありますか?
- むし歯が進行する、歯の保存が難しくなる、再根管治療が必要となる、といったリスクが生じます。まず、根管治療を途中で止めた場合は、当然ですが根管内に細菌が残っているため、むし歯は徐々に進行します。その結果、歯の保存が難しくなり、抜歯を余儀なくされるのです。 根管の清掃が完了して根管充填まで行った段階で通院をやめても再根管治療が必要となるため十分な注意が必要です。なぜなら根管治療後は、土台と被せ物を装着しなければ、再感染を防げないからです。根管充填が完了した状態では、すぐにまた再感染が起こっても何ら不思議ではありません。それどころか治療した歯で食べ物を噛むことができないことに加え、過剰な力がかかることで歯根が割れるリスクも出てきます。
- 根管治療を途中でやめた場合でも治療を再開すべきなのはなぜですか?
- 根管治療の成功率が下がるからです。上述したように、根管治療を途中でやめた状態は、歯が不安定となります。外からの刺激を受けやすく、細菌による汚染も進んでいくことでしょう。途中でやめた根管治療を再開すれば、少なくとも歯を残せる可能性が高まります。治療再開のタイミングは早ければ早いほどよいです。
編集部まとめ
根管治療は最後までやり遂げなければ、適切な効果が得られません。根管治療を途中でやめると、むし歯が進行して歯を失うリスクが高まります。仮に根管治療を中断してしまったとしても、早期に再開すれば歯を残せる可能性も高まりますので、あきらめずに歯科を受診しましょう。私たちの歯は再生することのない組織なので、可能な限り保存するのが望ましいです。
参考文献