むし歯や外傷の影響で根管治療を受けた歯は、症状が再発したり治療をやり直したりすることは起こりえるのでしょうか。
歯の神経を抜く治療のため、一度受ければ同じ症状は発生しないと考える人がいるかもしれません。
しかし、根管治療は再治療が行われる確率の高い治療でもあります。では、なぜ根管治療はやり直しになるケースが多いのでしょうか。
本記事では根管治療がやり直しになるケースについて詳しく解説します。また、再発の原因や治療が成功するためのポイントも紹介します。
根管治療がやり直しになるケース
根管治療はむし歯の重症化や外傷などが原因で歯の神経を抜き、薬を詰め込み被せ物をするなど、細かな手順で治療が進められます。
歯の構造は複雑なため、治療にはどうしても時間がかかります。
時間がかかるから避けたいという理由だけでなく、一度治療を受けた歯はできれば再治療を避けたいと考える人は多いでしょう。
しかし、根管治療はやり直しが発生しやすい治療でもあります。そこでここからは、根管治療がやり直しになるケースについて紹介します。
根管治療時に細菌が侵入していた
根管治療は治療を行う際に、根管内の汚れや細菌の除去が行われます。治療には細心の注意が払われ慎重に進められます。
しかし、汚れの取り除きや消毒を徹底して行ったとしても、細菌を完全にゼロにするのは難しいでしょう。
これは治療時に細菌を見逃してしまったり、口腔内に存在する数々の細菌が治療中に侵入したりする可能性があるからです。
このような理由で根管治療後にも細菌が残った状態の場合、再度症状が発生する確率が高くなってしまいます。
根管内の感染部分を除去しきれていなかった
根管治療には、歯の神経を取り除く治療があり抜髄と呼ばれます。
重度のむし歯の場合は痛みや炎症などの症状を治療する目的だけでなく、歯を残すためにも、抜髄が行われることがほとんどです。
根管内に神経や感染部分が残っていると、細菌が増殖する原因となり、歯の周辺組織に炎症や痛みが発生します。
初回の根管治療の際に、神経をすべて取り除けていなかったり感染部分が除去できていなかったりすると、症状が再発し治療のやり直しにつながります。
根管内の薬剤充填が緊密に詰まっていなかった
根管治療では、汚れや感染部分を取り除いた後に薬剤を注入します。
根管治療において薬剤充填にはいくつか役割があります。その役割の中の1つが、空洞状態の根管内に細菌が侵入するのを防ぐことです。
細菌はスペースがあると増殖します。そのため、薬剤充填は根管内に隙間ができないよう、緊密に詰める必要があるのです。
根管内で薬剤が緊密に詰まっていないと、細菌が発生しやすくなります。
被せ物・詰め物が合っていない
根管治療では根管内の治療を終えた後に、被せ物や詰め物をして歯に蓋をします。
この被せ物や詰め物が古くなっていたり、歯の形に合っていなかったりすると、そこから細菌が侵入してしまいます。
被せ物や詰め物が合っていない場合は、根管治療をやり直す可能性が高くなりやすいです。
根管治療後にむし歯などの細菌が侵入した
根管治療を受けた後は、むし歯にかからないと考えるかもしれません。しかし、根管治療後でも、日々のデンタルケア不足からむし歯が発生します。
また、むし歯だけでなく口腔内に存在する細菌が根管治療を受けた歯に侵入すると、せっかく治療を受けても細菌によって再度症状が発生してしまうのです。
症状が再発する原因
根管治療後に症状が再発する主な原因は、細菌が根管内に侵入することです。
根管治療を受けた歯の根管は空洞です。細菌はスペースがある所で増殖しやすいため、根管治療では根管内を薬剤などでしっかりと補填します。
また、根管治療を行う際、根管内を無菌状態にするよう汚染物の除去や消毒が徹底されます。
しかし、根管は複雑な構造をしているため、注意深く治療を進めても汚染物や細菌が残ってしまうケースもあるでしょう。
根管内に汚染物などが残っていると、細菌のエサになり、増殖の原因につながります。
また、根管内に汚染物が残っていなくても、新たなむし歯の発生や被せ物の隙間から細菌が侵入することで症状は再発してしまうのです。
根管治療のやり直しは、次のような症状の発生が目安となります。
- 痛みや腫れがある
- 膿
- 歯茎にできものが発生
これらの症状が根管治療を受けた歯に見られる場合は、再治療の検討が必要なため、歯科医院を受診するとよいでしょう。
根管治療の成功率
根管治療の成功率は治療前の歯の状態によって若干の違いがあるものの、日本では大体30〜50%です。一方、欧米では70〜80%の成功率です。
根管治療は難易度が高いとはいえ、なぜここまで成功率に違いが現れるのでしょうか。
根管治療の成功を左右するのは、細菌をいかに残さないか侵入させないかという点です。
根管治療は細かな部分の治療になるため、時間をかけて丁寧に行う必要があります。加えて、細菌の除去や侵入を防ぐための処置にも時間がかかります。
これは本記事でも説明したように、根管が複雑な形をしていることや、歯科医師が目視で治療をしにくい部位だからです。
根管は治療のしにくい部位のため、歯科医院ではさまざまな機器や薬剤を使用して、根管治療の再発が起きないよう治療が進められます。
しかし、使用する機器や薬剤は保険適用か自由診療かによって、使用できるものや回数が異なってきます。
日本で根管治療を保険適用内で行おうとすると、使用できる機器や薬剤に制限があり、この制限が成功率の低さの原因です。
さらに、保険適用では治療にかけられる時間も決められているため、根管治療を丁寧に行う場合には不向きなケースもあるでしょう。
根管治療の成功率を上げるためには、治療に適切な機器や薬剤を使用し、時間をしっかりとかけて治療を行うことが必要です。
根管治療の成功のためのポイント
根管治療の成功のためのポイントは、根管内をしっかりと観察でき、汚染物と細菌を徹底的に除去することです。
治療を行いにくい箇所でもあるので、根管治療に適した機器の使用が重要です。
受診する歯科医院が根管治療のための設備が整っているかどうかも、治療成功の鍵といえるでしょう。
ここからは、根管治療の成功のために欠かせない治療機器を紹介します。
診断に歯科用CTを使用する
歯科治療では歯の状態を画像診断する際に、X線を使用する歯科医院が多いでしょう。ただ、根管の状態を立体的に確認するにはX線での画像診断は不向きとされています。
これはX線が二次元の画像になるため、歯・骨などを含めた総合的な診断が難しくなるからです。
歯科用CTでは、歯の根や根管の状態だけでなく、病変や周囲の骨などを立体的に観察できます。
CTでの画像診断はX線画像で見落とされたことも発見しやすく、根管治療の成功につながります。
治療にマイクロスコープを使用する
治療時にマイクロスコープを使用すると、肉眼よりも詳細に観察できます。特に根管内は暗く複雑な構造のため、どうしても肉眼ではとらえきれない部分が出てきやすいです。
治療できなかった部分が残っていると、そこから細菌は増殖し、根管治療のやり直しにつながります。
マイクロスコープの使用は鮮明に根管内を観察できるため、より精密な治療が行えます。
治療にラバーダムを使用する
根管治療ではラバーダムの使用が治療の成功を左右するでしょう。
根管治療がやり直しになる原因の1つに、治療時に口腔内の細菌が侵入することが挙げられます。特に唾液の中に含まれる細菌が侵入しないよう注意が必要です。
治療している歯に、唾液からの細菌が入らないようにするために使用するのが、ラバーダムです。
ラバーダムとは薄いゴムやシリコン製のシートで、このシートで治療する歯以外を覆うため、唾液やほかからの細菌の侵入を防げます。
治療にレーザーを使用する
根管内を洗浄する際にレーザーを使用すると、細かい部分まで洗浄が行えます。これは、レーザー使用時に細かな泡が発生し、その泡の力でより洗浄効果が増すためです。
また、複雑で狭い根管内はレーザーを使用すると、効果的に汚れが取り除けます。
レーザーは痛みを感じるのではないかと、不安を覚えるかもしれません。しかし、根管治療を受ける歯は神経が壊死していることがほとんどなため、痛みを感じないでしょう。
再根管治療の流れ
根管治療がやり直しになった場合は、どのような治療の流れになるのでしょうか。初回に行った治療と違いが生じるのか、気になるかもしれません。
初めて根管治療を行う際は、一般的に次のような治療内容です。
- むし歯の治療や抜髄
- 根管の洗浄・消毒
- 薬剤を詰める
- 被せ物で蓋をする
再根管治療も大きな流れは変わらないものの、若干治療内容が変わってきます。そこでここからは、再根管治療の流れを具体的に説明します。
被せ物・土台を外して根管内の薬剤を除去
被せ物や根管内に詰められている土台があれば、そちらも外します。被せ物や土台を外す際は歯にひびが入らないように、また割れてしまう可能性もあるので慎重に行われます。
次は薬剤の除去です。以前治療した際の古くなった薬剤が残っていることがほとんどなので、すべて取り除かれます。
むし歯などの治療
むし歯などが発生している場合は、この段階で治療を行います。
根管内の消毒を終えた後に、むし歯やその他の症状の治療を行っても、治療時に再びむし歯などの細菌で汚染されてしまうからです。
なお、根管治療を受けている歯は神経が抜かれていて痛みを感じにくいので、むし歯が発生しても気がつかないケースが多いでしょう。
デンタルケアが不十分な場合は、むし歯や細菌が発生しやすく、再根管治療の原因になります。
根管内の掃除・消毒
むし歯などの治療が終わった後に、根管内の掃除と消毒を行います。ここで汚染物をすべて取り除き、しっかりと消毒することが重要です。
根管治療と同様に再根管治療を成功させるためには、根管内の掃除と消毒が可能な限り完璧に行われる必要があります。
根管への薬剤充填
薬剤充填も初回の根管治療と同様の治療内容です。薬剤充填の目的は次のとおりです。
- 細菌の侵入を防ぐこと
- 細菌が増殖する隙間をなくすこと
- 歯の根の破損を防ぐこと
使用される薬剤は受診する歯科医院によって異なり、保険適用か自由診療かによっても違いが生じます。
保険適用ではガッタパーチャがよく使用されます。ガッタパーチャの利点は、体内に吸収されにくいので、安定して歯の根を支えられることです。
いずれの薬剤であっても、一番重要なのは根管内を隙間なく埋め、細菌の侵入を防ぐことです。
土台・被せ物を装着
薬剤の充填後に再度土台を入れ、被せ物を装着します。根管治療を受けた歯は、中が空洞の状態です。
治療後に被せ物のみで蓋をしても、歯が割れやすくなってしまいます。土台を入れることで安定性が増し、しっかりと食べ物を噛めるのです。
また、被せ物は型取りをして、歯に合うものを装着します。歯に合わない被せ物は細菌の侵入につながるので、注意してください。
再根管治療を繰り返すリスク
根管治療は一度治療を受けても、細菌の侵入で再治療になりやすいです。やり直しがきくとはいえ、再根管治療を繰り返すことはリスクが生じます。
根管治療を受けた時点で、もともとの歯の面積は小さくなっています。再根管治療時にむし歯があれば治療が行われ、根管内の空洞も広げられる場合は、さらに面積が小さくなるでしょう。
また、被せ物や土台を取り除く際に、歯が割れるリスクも高くなりやすいです。
再根管治療は根管治療とほぼ同じ治療内容とはいえ、繰り返すごとに歯を失う可能性が高くなるのです。
歯が割れやすくなるため、治療もより慎重に行われ、治療時間もかかるでしょう。
再度症状が発生しても治療を受ければよいと考えずに、再根管治療を受けずに済むよう、患者さん自身のセルフケアも大切になってきます。
また、再根管治療が必要にも関わらず、痛みを感じにくいため治療をすぐに開始しないケースもあるでしょう。
ただ、リスクを不安に思うあまり、治療を後伸ばしするのは避けてください。
再根管治療が必要な症状は次のとおりです。受診の目安にしてみてください。
- 痛みや腫れがある
- 膿が出る
- 歯茎に吹き出物ができる
- 歯や歯茎に違和感が生じる
再根管治療が必要な症状が現れたら、すぐに歯科医院を受診することをおすすめします。
まとめ
根管治療は、むし歯や外傷などの影響で壊死した神経を根管から取り除き、歯を守ることを目指す治療です。
初回に根管治療を受けた際には、再治療しなくて済むよう心がける人がほとんどでしょう。
本記事で説明したように、根管治療はやり直しのきく治療です。また、症状も再発しやすい治療ともいえます。
ただ、再根管治療の繰り返しは歯に負担がかかり、歯が割れたり失ったりするリスクが高くなります。
本来歯を守るために受けた根管治療であるにも関わらず、再治療の回数が増えることで、歯を失いかねません。
根管治療を何度もやり直さないためには、初回から根管治療が成功しやすい治療を行っている歯科医院を選択してみてはいかがでしょうか。
また、再治療の回数が増えないよう、セルフケアを丁寧に行うことを心がけてみてください。
参考文献