根管治療は、歯科分野のなかでも複雑な治療のため失敗してしまう可能性もあります。
そこで、根管治療後にどのような症状が現れたら失敗なのか疑問に思う方も多いのではないでしょうか?
本記事では、以下の点を中心に根管治療の失敗について解説します。
- 根管治療が失敗する原因
- 根管治療が失敗したときに現れる症状
- 根管治療が失敗したときに行われる治療
根管治療の失敗について理解するためにもご参考いただけたら幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
根管治療が失敗する原因
どうして根管治療が失敗してしまうことがあるのでしょうか?
以下では、考えられる原因を3つご紹介します。
原因①細菌が多く残っていた
根管治療の主な目的は、感染した神経や血管を取り除き、根管を無菌に近い状態に保つことです。
治療後も細菌が根の中に残留することがあります。
この細菌の残留により失敗となり、再治療が必要になることが少なくありません。
このように細菌が残ってしまう原因は多岐にわたります。
たとえば、治療中に唾液が根管内に侵入すると、その唾液に含まれる多くの細菌が根の中に侵入し、残留することがあります。
また、感染している部分を見逃してしまうと、すべての細菌を取り除けず、感染が続いてしまいます。
さらに、感染した部分が取り除かれていない場合、残った細菌が繁殖し、根管内での炎症を引き起こすこともあります。
根の中が無菌状態に近いほど、細菌感染が再発するリスクは低くなりますが、根管治療では目に見えない細菌と戦うことになるため、無菌状態を実現することは困難とされています。
原因②根管充塡や被せ物に隙間があった
根管充塡は、根の中を洗浄した後に特殊な薬剤を詰め、根の内部を封鎖することを目的としています。
しかし、薬剤が根の先端まで詰められていない場合、細菌が残留する空間ができてしまい、その中で細菌が増殖しやすくなります。
このような状態は、根管治療の失敗につながり、炎症を引き起こす原因となり得ます。
さらに、根管充塡のうえの被せ物(クラウン)にも注意が必要です。
被せ物が歯の土台とピッタリ合わない場合、隙間ができてしまいます。
この隙間から細菌が侵入し、根の中や歯茎に感染を広げることがあります。
また、被せ物の隙間は食べ物の残りやすい場所となり、さらに細菌の増殖につながります。
原因③根管内に穴が空いた
根管治療中に根管内に誤って穴を開けてしまうことは、ときとして避けられないトラブルの一つです。
根管はとても狭く、複雑に折り重なっているため、治療を行う際に慎重さが求められます。
しかし、細菌感染した部分を取り除く過程で、不意に根管の壁に小さな穴を開けてしまうことがあります。
このような穴が開くと、根の内部と外部が繋がってしまい、治療後も未発見のままでは外部からの細菌が侵入しやすくなり、感染を招くリスクが高まります。
根管内に穴が開いてしまった場合は、その場で処置を受けることが重要です。
歯科医師が穴を直ちに発見し、塞げれば、その後の失敗のリスクは減少します。
しかし、治療中にこの穴を見逃してしまうと、根管内部は感染の温床となり、治療の失敗につながります。
穴から侵入した細菌は根管内で繁殖し、炎症や痛みを引き起こすだけでなく、歯の外側の骨が溶けるほどの深刻な感染症を引き起こすこともあります。
この問題に対処するためには、治療中の精密な観察と高い技術が必要です。
そのため歯科医師は、根管治療を行う際には、使用する器具の適切な管理と技術を常に磨き続けることが求められます。
根管治療が失敗したときに現れる症状
根管治療後に痛みや腫れが続き心配な方も多いのではないでしょうか?
以下では、根管治療が失敗したときに現れる主な症状について解説します。
症状①痛み
根管治療が失敗した場合に多く現れる症状の一つが痛みです。
痛みは、根管内の細菌感染が原因で発生することが多く、治療中に細菌が除去しきれなかったこと、根管内の充填が不十分であったこと、または再感染が起こったことなどが考えられます。
これらの状態は、根の先端で細菌が活発に繁殖し、周囲の組織に炎症を引き起こすため、患部が敏感になり、痛みを感じやすくなります。
さらに、痛みは単に感染によるものだけでなく、治療後に歯にヒビが入るなど物理的な損傷が加わることで悪化することもあります。
これは噛む力が強い人に見られる症状で、歯の構造が弱まっている場合には、小さな圧力でさえも痛みとして感じることがあります。
また、痛みが何もしなくても感じられる場合や、食事の際に、冷たいものや温かいものに触れたときに激しい痛みが走る場合は、根管治療の失敗が疑われます。
このような症状が現れた場合は、速やかに歯科医院を訪れ、診察を受けることが重要です。
治療が適切に行われなければ、痛みは長引くばかりか、感染が広がり、歯を失う可能性もあります。
症状②腫れる
根管治療が失敗した際に顔や歯茎が腫れることがあります。
この腫れは、感染が広がり、周囲の組織に炎症が生じていることを示しています。
なかでも顔が目に見えて腫れている場合、状態は深刻であり、速やかに歯科医院を訪れる必要があります。
顔の腫れが激しいと、蜂窩織炎(ほうかしきえん)という危険な状態に進行する恐れがあります。
この状態は、口が開けられなくなる、ときには呼吸困難を引き起こし、命に関わることもあります。
また、一般の歯科医院で対応できない場合があり、病院の救急外来で抗生剤の点滴を受けることが指示されることもあります。
一方で、歯茎が腫れているだけで痛みがない場合、あまり緊急性は高くないかもしれませんが、それでも翌日までには歯科医院で診てもらうべきです。
また、自宅にある抗生物質を勝手に使用することは、抗生物質耐性を生じさせる可能性があり、将来的にほかの病気の治療が困難になる恐れがあるため、避けるべきです。
このように腫れを放置することは、さらなる合併症を引き起こすリスクを高め、治療がより複雑で困難なものになるため、速やかに専門の歯科医師の診断を受けることが重要です。
症状③膿が出てくる
根管治療が不十分だった場合、歯や歯茎から膿が出るという症状が見られます。
膿が出ている状態は、内部で細菌が活動し、体がこれに対抗している証拠です。
一見、痛みが少ないかもしれませんが、これは膿が内部の圧力を下げているためです。
しかし、このような状態が続くと、感染がさらに広がり、より重大な健康問題へと進行する可能性があります。
もし、膿が見られたら、約1〜2週間以内に歯科医院を受診しましょう。
早期に治療を受けることで、感染を根本から解消し、さらなる健康リスクを防ぐことが期待できます。
この治療には、感染した部分の再清掃、感染物質の除去、そして必要に応じて薬物治療が行われます。
また、場合によっては抗生物質を用いて、感染の拡大を抑える処置が行われることもあります。
膿が出ている状態を放置することは、問題をさらに悪化させるだけでなく、治療の困難さを増すため、発見次第、歯科医師の診断を受けることが重要です。
症状④出来物ができる
根管治療が不十分であった場合、歯茎に出来物ができることがあります。
出来物自体に痛みがない場合、緊急性は低いとされます。 このような出来物は「サイナストラクト」とも呼ばれ、歯の根の先端で細菌が増殖し、膿を形成していることが多いとされています。
通常、根管治療を受けた歯の周囲に形成されますが、まれに原因の歯から離れた場所に現れることもあります。
出来物ができた場合は、約2週間以内に歯科医院を受診することがおすすめです。
このような早期の対応は、症状の進行を防ぎ、より深刻な問題へと発展するのを避けるために必要です。
症状⑤違和感を感じる
根管治療がうまく行われなかった場合、一部の患者さんには歯が浮いているような違和感を感じることがあります。
違和感は、歯の根の先に膿が溜まることや、炎症が生じた結果として現れることが多いようです。
症状としては、歯が不安定に感じられ、時には噛むときに軽い痛みを伴うこともありますが、生活に支障を来さないことが多いようです。
このような違和感を感じるという場合は、「すぐに歯医者に行く必要はない」とされていますが、根管治療が不十分である可能性も考えられるため、無視すべきではありません。
そのため、症状が表れた場合、歯科医による再評価が必要です。なかでも、歯茎の腫れや出来物が伴っている場合は、炎症が広がる前に早めの治療が推奨されます。
一方で、違和感だけでなく、歯茎の腫れや時折の痛みがある場合、これらは根管内の問題が慢性化している可能性があり、放置することでより複雑な問題に発展する恐れがあります。
したがって、違和感を感じたら、約2週間以内に歯科医を訪れ、必要な場合は治療を受けましょう。
根管治療が失敗したときに行われる治療
では、根管治療が失敗した場合はどのような治療が行われるのでしょうか?
以下で詳しく解説します。
対処法①再根管治療
再根管治療は、一度目の根管治療が不十分だった場合に行われる処置であり、元々の根管治療よりも技術的に複雑で難易度が高いとされています。
再根管治療の必要性が生じる主な理由としては、治療後に再び細菌感染が発生したり、以前の治療で根管の形が変形してしまったりすることなどが挙げられます。
再根管治療は、通常の保険診療範囲を超える精密な処置が必要とされるため、自由診療を選択するケースが増えています。
自由診療では、より高度な医療機器や治療器具が使用でき、根管内部を詳細に観察しやすくなります。
なかでも、根管治療の際には視野が狭く暗いため、拡大鏡や照明を用いて行う精密根管治療がおすすめです。
また、歯科用CTスキャンを利用して事前に複雑な根管の構造が把握できます。
治療中は、歯周囲をラバーダムというゴム製のシートで覆うことで、唾液による新たな感染を防ぎます。
使用する治療器具は、従来のものより柔軟性の高いニッケルチタンファイルが選ばれることが多いようです。
このように再治療を行う際の成功率は初回の治療よりも低いとされますが、適切な技術と機器を用いることで成功率の向上が期待できます。
対処法②歯根端切除術
歯根端切除術は、従来の根管治療だけでは解決できない複雑な症状を持つ患者さんに対して行われる手術です。
この手術は、根管の形が複雑で精密な根管治療が困難である、または以前の根管治療後も症状が改善されない場合に行われます。
手術の目的は、炎症や感染が残る歯の根端部分を切除し、できる限り歯を残すことです。
手術は以下の手順で行われます。
まず局所麻酔を施し、次に顎の骨を削ります。
この過程で、根の先端や周辺の炎症組織が取り除かれ、必要に応じて歯根嚢胞も摘出されます。
最終的に、根の切断された部分は歯科用のセメントで封鎖し、手術は完了します。
この手術には、根の先端を切除することで再発のリスクを減らし、感染を根本から取り除くというメリットがあります。
対処法③抜歯
何度もの根管治療を経ても改善が見られない場合や、治療によって歯がもろくなっている状態では、抜歯が避けられない場合があります。
根管治療は通常、約1〜2ヶ月の期間と複数回の通院が必要となり、患者さんにとっては時間的、経済的な負担が大きいものです。
そのため、症状が根管治療やほかの外科的処置によっても改善しない場合、抜歯が必要となります。
抜歯を行う際は、患者さんの健康状態や口内環境を考慮に入れ、適切な時期と方法で行われます。
抜歯が必要と判断された場合、担当医と相談し、その後の復元計画についても十分に検討しましょう。
復元方法としては、インプラントやブリッジ、義歯などが挙げられます。
根管治療の失敗を防ぐためには
根管治療の失敗を防ぐためには、根管治療における高い技術力を持つ医師や以下のような設備が整っている歯科医院を選びましょう。
まず、ラバーダムを使用して治療部位を唾液や細菌から隔離し、治療中の無菌状態を保ちます。
その後、CTを活用して根管の状態を詳細に把握します。
これにより、根管の微細な構造や病変の位置を歯科医師が認識し、適切な治療方針を立てられます。
さらに、マイクロスコープを利用することで、根管内の狭小な空間でも治療が行えます。
高解像度の視覚サポートは、根管治療の成功において重要な役割を果たします。
また、治療に用いる器具も大切で、NiTiファイルなどの柔軟で耐久性の高い材料を使った器具を使用することで、根管内の細かい操作ができ、根管の損傷リスクを抑えられるのだといいます。
薬剤についても、発がん性のリスクがより低い水酸化カルシウムやMTAセメントを選ぶことがおすすめです。
まとめ
ここまで根管治療の失敗についてお伝えしてきました。
根管治療の失敗についての要点をまとめると以下の通りです。
- 根管治療の失敗原因としては、細菌が多く残っていることや根管充塡や被せ物に隙間があること、根管内に穴が空いていることなどが挙げられる
- 何もしなくても痛みが感じられる場合や、食事の際に、冷たいものや温かいものに触れたときに激しい痛みが走る場合は、根管治療の失敗が疑われる
- 一度目の根管治療が不十分だった場合は、再根管治療が行われる
再根管治療は、1度目よりも治療が複雑になり難易度が上がります。
なので根管治療後に気になる症状が続く場合は早めに歯科医院を受診しましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。