根管治療をした歯に疼くような痛みが続く場合は、何が原因でしょうか?
せっかく治療をしたのに痛みが取れない・治療後のほうが痛みが続くなどの場合は、治療への信頼感も揺らいでしまうでしょう。
しかし根管治療後に疼痛が生じるのは珍しいことではなく、自然に治まるケースもよくあります。
この記事では根管治療後に痛みが生じる原因と対処法を解説するので、疼痛が続いて辛い方の参考になれば幸いです。
根管治療後に疼く原因は?
歯の神経を取る根管治療後に、疼くような痛みを感じるケースは少なくありません。
治療をしたのに痛みが出るのは治療失敗ではないかと心配になりますが、一時的な痛みの可能性もあるため、過度な心配は不要です。
根管治療をした後に、患部が疼く主な原因を解説します。
麻酔が切れたことによる痛み
根管治療は歯を深く削って根元の治療をするために、局所麻酔をして行います。
麻酔は治療終了後2~3時間で切れるため、徐々に疼くような痛みを感じるでしょう。
これは歯の根管を削って治療する以上避けられない痛みで、多くの場合数時間で消失していきます。
根管治療後には鎮痛剤を処方されるため、痛みが強い場合は無理に我慢をせずに鎮痛剤を使用してください。
治療の刺激による痛み
根管治療は細菌に感染した歯の神経(歯髄)を除去し、歯髄の通っていた空洞(根管)を埋めていく治療です。
細菌に感染して壊死した神経が痛みを感じることはありませんが、正常な神経とつながっている部分を切断するため、治療によって強い刺激を受ける場合があります。
治療のためにやむを得ない刺激によって正常な神経に痛みが残り、根管治療後に疼く場合も少なくありません。
また根管治療が必要な歯は根元が細菌に感染していますが、治療によって感染部を酸素に暴露することで細菌が異常増殖する場合があります。
これはフレアーアップと呼ばれる現象で、根管治療の最中に強い痛みや歯茎の腫れが生じるものです。
フレアーアップは経験豊富な歯科医師の治療であっても一定数起こってしまうもので、十分に対応可能な症状です。
ほとんどの場合、この痛みは数日から数週間で自然に消失しますので、様子を見ながら慎重に処置していきます。
薬剤充填の圧力による痛み
細菌に感染して壊死した神経を除去した後に、再び細菌が侵入しないように根管を隙間なく封鎖するのは極めて重要な工程です。
細く入り組んだ根管にガッタパーチャというゴム状の材料を充填するため、適切な圧力をかけながら注入しなければいけません。
この際に圧力をかけすぎて過剰充填となってしまうと、充填剤が神経を圧迫したり、細かい根管を破損したりするケースも報告されています。
この場合は根管治療後にも疼痛が慢性的に続くため、充填剤を除去して適切な治療のやり直しが必要です。
また充填剤で封印する前には、根管内を殺菌するための薬剤を注入する工程があります。
この薬剤が根管の先端である根尖から体内に侵入し、神経を刺激して痛みを生じることも少なくありません。
薬剤は期間を過ぎたらきれいに除去して次の工程に進んでいくため、薬剤を注入した後は次の治療予約をキャンセルしないよう注意してください。
神経の取り残しによる痛み
根管治療後に症状が再発して再治療になる原因は、神経の取り残しであるケースが大半です。
歯の根管は1本のまっすぐな管ではなく、複数に枝分かれしており、経験豊富な歯科医師であっても見落とす可能性をゼロにはできません。
感染した神経をすべて取り除かないまま治療終了してしまうと、残った感染源から再び細菌が増殖して炎症を生じて痛みも再発します。
根管治療後に疼痛が続く・歯茎が腫れる・むし歯のような強い痛みがある場合は再発の可能性があるため、早めに歯科医院を受診しましょう。
根管治療後の痛みはいつまで?
根管治療後に疼痛を感じる場合、その原因によって痛みの続く期間は大きく違います。
治療そのものの痛みが麻酔が切れた後に出てくる場合では、数時間から数日で自然に消失するのがほとんどです。
神経の取り残しや過剰充填など、不適切な根管治療が原因である場合は、その原因を再治療によって除去しない限り痛みが続くでしょう。
根管治療後から1週間以上経っても疼痛が続く場合や、根管治療をした歯がしばらくしてから再び痛みだした場合は、歯科医院を受診してください。
日本歯内療法学会によると根管治療の成功率は60~80%で、治療後に痛みが再発するケースは少なくありません。
治療が不十分で症状が再発している場合は、放置する程に症状が進行して再治療が困難になるので、早めの治療が大切です。
根管治療後の痛みへの対処法
根管治療後に痛みが生じるのは珍しいことではなく、適切に対処すれば治療可能です。
治療当日の痛みはほとんどの場合数日で落ち着きますが、なかには慢性的に続くケースもあるので油断はできません。
根管治療後に痛みが出た場合に、患者さんができる対処法を解説します。
様子をみる
根管治療の当日や翌日に疼痛が出てきた場合は、治療の刺激による一時的なものの場合もあるので、まずは様子を見ます。
血流がよくなりすぎないように安静にして、食事は痛い歯の反対側で噛むようにしましょう。
熱いもの・冷たいもの・硬いものなどは神経を刺激して痛みが出やすいので、なるべく控えると痛みが落ち着くのも早くなります。
患部を冷やす
根管治療をした歯が熱をもっていたり腫れたりしている場合は、患部を氷などで冷やすと炎症が治りやすくなります。
冷たすぎる氷は皮膚に貼り付く危険があるため、氷水を口に含む・頬のうえから氷嚢で冷やすなどの対処法がおすすめです。
特に歯肉を切開する治療を行った後は歯茎が腫れやすいため、事前に氷嚢を準備しておいたほうがよいでしょう。
根管治療に伴う痛みや腫れであれば、翌日までに落ち着くことがほとんどです。
痛み止めを飲む
根管治療後に疼痛が続いて辛い場合は、痛み止めを飲むことでやわらげることができます。
処方箋なしで購入できる痛み止めもありますが、治療後の痛みが不安であればあらかじめ歯科医院で処方してもらうのがよいでしょう。
薬によって異なりますが、痛み止めの効果は数時間持続し、大事な仕事や予定の前に飲んでおくと疼痛に悩まずに済みます。
歯科医院を受診する
根管治療後に疼痛が数日以上続く場合は、迷わずに歯科医院を受診してください。
次の通院予定まで日にちが空いている場合でも、痛みが辛いようなら連絡して受診し、応急処置ができる場合もあります。
また根管治療後の痛みをきっかけに、治療が不十分であったことが判明するケースも少なくないので、早めに受診したほうがその後の治療もしやすくなるでしょう。
根管治療後に数週間以上経ってから疼痛がはじまるケースもあり、この場合だと根管内に再感染が生じているかもしれません。
歯の根管が細菌に感染すると、炎症によって歯を支える根や骨がどんどん溶かされていくので、治療しなければ抜歯しか選択肢がなくなります。
根管治療後の歯は神経を取っていくので、元の健康な歯よりは弱くなっています。歯を少しでも長持ちさせるために、痛みを放置せず歯科医院を受診するようにしてください。
根管治療後に疼く場合の注意点
根管治療後に治療した歯の疼きが続く場合は、歯科医師に診てもらうことが原則です。
しかしスケジュールなどの問題ですぐに受診ができない場合には、痛みを悪化させないために日常生活でも注意が必要になります。
治療後の歯が疼く場合に、注意すべき行動について知っておきましょう。
激しい運動・入浴を避ける
どのような原因にせよ、歯が疼くように痛い場合は患部で炎症が起こっている可能性が高いでしょう。
炎症の対処は冷やして鎮めるのが基本で、逆に温めると痛みが増すことがよくあります。
また、血行がよくなると毛細血管が拡張され、患部を圧迫して痛みが増してしまいます。
特にズキズキした疼痛の場合は血行がよくなると悪化する可能性が高いため、運動や入浴は避けてシャワーのみとしましょう。
血行がよくなる辛いものやスパイスの効いた食べものも、炎症を悪化させる可能性があります。
飲酒・喫煙を避ける
喫煙は歯周病など口腔内の病気と関連が深く、症状を悪化させる原因となります。
日常的に喫煙していると口腔粘膜の毛細血管が縮小し、歯茎が痩せている方がよく見られます。
細菌に感染した時に免疫細胞を運ぶ血管がないため、抵抗力も弱くなってしまうのです。
喫煙者の方は根管治療後の回復も遅くなっていき、再感染や炎症で痛みが続く可能性が高いといえます。
歯だけでなく全身の健康のためにも、痛みをきっかけに禁煙できれば一石二鳥となるでしょう。
飲酒はアルコールによって毛細血管を拡張するため、痛みを増す可能性があります。
また、痛み止めを飲む際に体内にアルコールが残っていると薬の作用を阻害するため、痛くても痛み止めが飲めなくなってしまいます。
痛みを抑えて治療後の回復を早めるためにも、根管治療中は飲酒・喫煙を控えるようにしましょう。
根管治療で神経を抜いた歯が痛む原因
根管治療は細菌に感染した神経を除去する治療ですので、本来であれば痛みは感じにくいはずです。
にも関わらず根管治療後に痛みを感じる場合は、神経の除去が不十分だったか、歯の神経以外に原因があるかのどちらかでしょう。
根管治療後の歯に痛みが起きた時に、考えられる原因を解説します。
むし歯の再発
根管治療を受けた後でも、日常のデンタルケアを怠っていれば再びむし歯になってしまいます。
むし歯が神経の近くに達すると耐え難い程の痛みとなりますが、根管治療で神経を取っていればその痛みは起こらないはずです。
しかし根管治療中に微細な根管を見落としており、わずかに残っていた神経にむし歯が近づいて強い痛みを生じるケースは少なくありません。
この場合にはX線画像診断などで歯の根元の状況をチェックし、感染が生じているようなら根管治療のやり直しとなります。
歯周病
根管治療はあくまでも歯の根っこの治療であり、歯周病になるリスクは変わりません。
歯が痛いと感じても実際に痛いのは歯ではなく、実は歯周の炎症であったケースは頻繁に見られます。
根管治療を受ける程むし歯が悪化していた歯は歯周病になる可能性も高く、日常のデンタルケアが欠かせません。
歯周病は多くの場合無症状で進行していき、痛みが出る段階ではかなり進行していることがほとんどです。
歯周病は日本人が歯を失う原因の第一位ですので、歯茎の腫れ・出血・神経を取った歯の痛みなどがある場合は、歯科医院を受診してください。
歯根破折
歯が根元から割れてしまうことを、歯根破折といいます。
根管治療は歯の神経である歯髄を除去し、歯髄が通っていた根管を充填剤で封印していきます。
その際に歯を大きく削ることもあり、根管治療を受けた歯はどうしても弱く割れやすくなってしまうのです。
歯は歯槽骨と歯肉によって支えられているため、根元が破折してもすぐに抜けたりしません。
根管治療後にしばらくして歯が痛くなり、再治療している最中に破折していたことが判明するケースもあります。
歯根破折した歯は抜歯せざるを得ないケースが多いですが、割れてから時間が経っておらず状態が良好な場合は、接着して保存できることもあります。
硬いものを噛んだことがきっかけで疼痛が生じるようになった場合などは、すみやかに歯科医院で検査を受けましょう。
根管治療をした歯が痛む場合の治療法
根管治療をした歯に慢性的な疼痛が続くケースでは、治療のやり直しとなることが少なくありません。
歯の根管は直径0.05mm以下の非常に細かい管であるため、経験豊富な歯科医師であっても見落としてしまうことは避けられないのです。
治療後に再感染が起こって再根管治療となった場合は、歯の被せ物と充填剤を除去して同じ工程を繰り返していきます。
この際にわずかな根管を見逃さないマイクロスコープや、治療中の歯に唾液が侵入するのを防ぐラバーダムを使用することで、治療の成功率を高めることができるでしょう。
ただ、根管治療後に痛みが出たからといって、必ずしも再治療が必要なわけではありません。
前回の根管治療から時間が経っていない場合、単に炎症が治まりきっていないだけの可能性もあります。
歯の痛みだと感じても、実は歯茎や神経の炎症が起きている場合もあり、原因の特定は簡単ではありません。
再根管治療を行っても疼痛が治まらない場合は、精密検査のできる大病院を紹介されて、原因の特定と治療を進めていきます。
歯の痛みが慢性的に続くことは患者さんの心身にとっても辛いですが、諦めずに検査と治療を続ければ軽快するケースがほとんどです。
まとめ
根管治療後に疼痛が続く原因や、対処法を解説しました。
根管治療後に疼くような痛みが出る原因は、不適切な根管治療・歯周病・歯根破折などです。
歯が痛いと感じても歯が原因とは限らず、歯茎や神経に異常がないかなどを注意深く検査しなければわかりません。
しかし多くの場合は根管治療が不十分・不適切だったことで痛みが起きており、再根管治療を行えば痛みも消失していきます。
細菌に感染した根管を見落とすことなくすべて治療するのは極めて難しく、100%の成功率とはいえないのが現実です。
しかし、再根管治療となっても適切に対処すれば90%以上の確率で歯を残すことができ、再び自分の歯で噛んでおいしく食事ができるようになるでしょう。
早期に対処する程治療もスムーズになるので、根管治療後に痛みが続く場合は早めに歯科医院を受診してください。
参考文献