根管治療は、深いむし歯や歯の神経の感染によって激しい痛みが生じた歯を残すために行われる処置です。むし歯が歯の神経(歯髄)に達すると歯髄炎と呼ばれる炎症が起こり、何もしていなくてもズキズキ痛んだり、冷たいもの、熱いものがしみるといった症状が現れます。通常、根管治療によって炎症を起こした神経や感染源を取り除けばこうした痛みは治まるはずですが、治療の途中や治療後に「熱いものがしみる」と感じることがあります。本記事では、根管治療中や根管治療後に熱いものがしみる理由、その原因と対策、考えられるほかの原因や関連症状、そして歯科医院を受診すべき目安について解説します。
根管治療で熱いものがしみる理由
冷たいものがしみることはあっても、熱いものが歯にしみることは多くないと思います。しかし、根管治療中と治療後は熱いものがしみることがあります。そこで、根幹治療で根管治療で熱いものがしみる理由について、根管治療中と治療後に分けて解説します。
根管治療中の場合
根管治療の途中段階で熱いものがしみる場合、歯の神経がまだ完全に除去しきれていないか、歯の内部に残った細菌による炎症が続いていることが主な原因です。根管治療は通常複数回の通院で行われ、最初の段階で神経を取った後も、根の先まできれいに消毒と充填し終えるまでは歯の中に炎症が残っている可能性があります。また、根管内の細菌感染がまだ治まっていない場合、温度刺激によって内部の圧力が高まり痛みが増強することがあります。これは、膿が溜まりかけているような感染状態の歯で起こりやすい現象です。
以上のように、治療中の歯で熱いものがしみるときは、歯髄の取り残しか感染が未治癒が疑われます。根管治療中の歯髄や細菌は最終的にすべて取り除く必要があるため、こうした症状がある場合は担当の歯科医師に伝えて追加の処置をしてもらうことが重要です。
根管治療後の場合
根管治療が一とおり完了した後で熱いものがしみる場合、治療がうまくいかず神経の一部が残ってしまったか、再び歯の中で感染が起きている可能性があります。根管治療後の歯は本来神経がないので温度に対する痛みは感じないはずですが、残髄炎と呼ばれる神経の取り残しによる炎症が起こることがあります。肉眼では見えにくい細い根管の奥や分岐に歯髄が残存してしまうことがあり、そこが原因で痛みが続いたり再感染することがあります。根管治療後も熱いもので痛むのは異常な状態であり、自然に治ることは期待しにくいため注意が必要です。
根管治療で熱いものがしみる場合の対処法
根管治療中あるいは治療後に歯が熱いものでしみるときの基本的な対処法を説明します。痛みが強い場合や長引く場合は根本的な治療が必要ですが、症状が治まるまでの間に自分でできる対処法もあります。
根管治療中の場合
治療途中の歯が熱い刺激で痛むときは、まず無理に熱いものを摂らないことが大切です。患歯側では極力噛まないようにし、飲食物も熱すぎるものは避けて様子を見ましょう。また、一時的に痛みを和らげるために市販の鎮痛薬を服用することも有効です。ただし、鎮痛薬で痛みが紛れても原因が治癒したわけではないので、必ず歯科医師に症状を伝えて指示を仰いでください。
加えて、治療中の歯では硬い物を噛まないことも重要です。根管治療中の歯は内部を削って神経を取った直後で刺激に敏感になっています。弱い力でも痛みが出たり、場合によっては歯自体が割れてしまうリスクもあります。処置が完了するまでは、ガムやせんべいなど硬い食品は避け、できれば反対側の歯で咀嚼するよう心がけましょう。
根管治療後の場合
根管治療が終わった歯が熱いものでしみる場合、基本的には速やかに歯科医院を再受診することが第一です。前述のとおり、根管治療後に温度刺激で痛むのは異常な状態ですので、我慢せず歯科医に相談してください。受診までの間や、治療直後で一過性の痛みが出ている場合には、鎮痛剤の服用や患部の冷却によって対症療法的に痛みを和らげることができます。鎮痛薬は用法用量を守って服用し、氷嚢や濡れタオルなどで頬の上から患部を冷やすと炎症による疼痛の緩和に役立ちます。
一方で、歯を温める行為や血行を促進するようなことは避けるようにします。具体的には、激しい運動や長湯、サウナなどは体温や血圧を上昇させ、痛みや腫れを悪化させる恐れがあります。入浴はまったくしないわけにもいきませんが、熱い湯船に浸かるのは避け、ぬるめのシャワーで短時間ですませるなど工夫しましょう。
こうした一時的な対処で痛みが和らいでも、症状が1週間以上続いたり強くなったりする場合は治癒ではなくむしろ悪化している恐れがあります。その場合には再度の根管治療や外科的な処置が必要になる可能性がありますので、できるだけ早く歯科医師の診察を受けてください。
熱いものがしみる場合の過ごし方の注意点
根管治療中および治療後に限らず、歯が何らかの刺激でしみる症状があるときは、日常生活でも次のような点に注意すると痛みの悪化を防ぐことができます。
- 刺激の強い飲食物を避ける
- 安静にして十分な休息を取る
- 歯磨きは優しく行い、知覚過敏用のケアも検討する
以上のような生活上の注意を守りつつ、症状が続く場合は自己判断で放置せず歯科医院で適切な処置を受けることが大切です。
根管治療以外の原因でしみる可能性はある?
歯がしみる症状は必ずしも根管治療中の歯だけに起こるものではありません。ほかの原因で歯が熱いものにしみるケースとして、以下のようなものが考えられます。
むし歯
まず疑われるのはむし歯です。むし歯は口腔内の細菌が産生する酸によって歯が溶けていく病気ですが、初期段階ではエナメル質表面が溶けるだけなので痛みはありません。痛みやしみる症状が出るのは、むし歯が進行して歯の内部の象牙質に達した頃からです。さらに、むし歯が深くなり歯髄にまで達すると歯髄炎となり、冷たいものだけでなく温かいものもしみるようになります。これはむし歯の進行による不可逆的歯髄炎の典型的な症状で、ズキズキとした自発痛も伴うのが特徴です。この段階に至ると歯髄の自然回復は望めず、根管治療によって歯髄を除去する必要があります。
歯周病
歯周病(歯槽膿漏)は歯を支える歯茎や骨の病気ですが、進行すると歯がしみる原因にもなります。初期の歯周病は歯茎の腫れや出血など歯茎の症状が主体で、歯そのものがしみることはありません。しかし、重度になると歯茎の退縮によって歯の根元が露出してきます。歯の根の部分(歯根部)は普段歯茎に覆われていますが、歯冠部のようなエナメル質に守られていないため、露出すると象牙質がむき出しの状態になります。その結果、冷たい水や熱い飲食物が直接象牙質に触れて神経に伝わりやすくなり、歯がしみるようになるのです。歯周病が原因で起こるしみは一般に知覚過敏の一種と考えられ、特に冷たい刺激に敏感になりやすいですが、場合によっては温度変化全般で痛むこともあります。
知覚過敏
知覚過敏も歯が熱いものにしみる可能性があります。知覚過敏は、歯の知覚が過敏になった状態で、甘いものや冷たいもの、熱いものなどあらゆる刺激に対して歯がしみる症状を指します。主な原因は、歯茎の退縮やエナメル質の損傷により象牙質が露出することです。例えば、歯周病や加齢、不適切な歯磨き方法によって歯茎が下がったり、強い力で歯を噛み締めた結果エナメル質が欠けたりすると、本来保護されていた象牙質が外部にさらされます。露出した象牙質には無数の細かい管(象牙細管)が通っており、そこに温度や味の刺激が加わると内部の神経まで刺激が伝わりやすくなります。
歯髄炎
歯髄炎は文字どおり歯の神経の炎症で、深いむし歯が神経まで達したときに起こります。症状として冷たいものと熱いものの両方がしみるほか、進行すると何もしなくても自発痛を伴うことがあります。
歯髄炎には、適切な処置で神経を残せる可能性がある可逆性歯髄炎と、神経の回復が見込めない不可逆性歯髄炎があります。熱いものがしみるようになった場合は歯髄の損傷がかなり進んだ不可逆性歯髄炎の疑いが強く、早めに歯髄を除去する根管治療が必要です。放置すると炎症が歯の根の先の骨や歯根膜にまで波及し、歯茎が腫れる、噛むと痛い、膿が出るなど重い症状へ移行します。
歯ぎしりや食いしばり
歯ぎしりや食いしばりのクセがある方も、歯がしみる症状に悩まされることがあります。 これらの癖は、歯に過度な力を何度も加えるためさまざまな悪影響を及ぼします。代表的なものに歯根膜の炎症と歯の破折があり、いずれも歯をしみさせる原因となりえます。
歯を支える膜である歯根膜に過大な力がかかり続けると慢性的な炎症が起き、噛んだときに痛みや浮いた感じが生じます。炎症が強い場合、歯根膜が刺激を受けて温度変化にも敏感になり、熱いものがしみるように感じることもあります。
もう一つは歯のヒビ・欠けです。歯ぎしりや食いしばりで歯に亀裂が入ったり、エナメル質が一部欠けたりすると、その部分から象牙質が露出して知覚過敏を引き起こすことがあります。その結果、冷たい水や熱い飲み物がしみやすくなり、神経に痛みが伝わります。このように、歯ぎしりや食いしばりは、単に顎が疲れるだけでなく歯の痛み、しみる原因にもなりえます。
根管治療中や治療後に起きやすいそのほかのトラブル
根管治療中および治療後には、熱いものがしみる以外にもいくつか起こりやすい症状があります。ここでは代表的なものを取り上げて解説します。
冷たいものがしみる
根管治療中や治療後に冷たいものがしみると感じる場合もあります。基本的には熱いものがしみる場合と同様、歯髄や感染が残存していることが疑われます。治療途中で神経が一部残っていたり炎症が残っていれば、冷たい水や空気が入ったときに痛むことがあります。根管治療後であれば、考えられる原因として処置が不完全で再感染を起こしていることのほか、実は隣の歯がむし歯になっていたという場合もあります。
自発痛がある
何もしていないのに歯がズキズキと自発的に痛む症状は、歯の内部または根の先に強い炎症があるサインです。根管治療中であれば、歯髄が壊死してガスがたまり圧力が高まっている可能性や、根尖部の組織に炎症(根尖性歯周炎)が広がっている可能性があります。根管治療後であっても、治療が不十分で炎症が残っていたり再感染したりすると、安静時にも痛むことがあります。
噛むと痛い
治療中の段階では、前述のように処置中の歯根膜が敏感になっているため軽く噛んだだけでも痛むことがあります。特に、治療中は仮詰めで一時的に穴を塞いでいるだけの状態です。この仮詰めが高すぎて当たっていると常に圧力がかかり痛みの原因になりますし、歯自体も脆いので硬い物を噛むと痛いだけでなく歯を割ってしまう危険もあります。
一方で、根管治療後に噛むと痛い場合は、治療直後の一過性の歯根膜炎であることが多いです。神経を取ったとはいえ、根の先端周囲の歯根膜や骨には処置による刺激や残留炎症が残っています。そのため治療直後から数日は、歯に軽く触れるだけで響くような痛みや違和感が生じることがあります。
熱いものがしみる場合に歯科医院を受診すべき目安
根管治療中や治療後に限らず、「歯が熱いものにしみる」という症状が続く場合は早めに歯科医院を受診することが望ましいです。特に、次のような状況では我慢せず診察を受けてください。
- 根管治療後の痛み、しみる症状が1週間以上続く
- 痛みが徐々に悪化している
- 自発痛や腫れ、膿が出る
- 痛みで日常生活に支障が出ている
以上のような目安がありますが、基本的には少しでもおかしいと感じたら早めに歯科医師に相談するに越したことはありません。歯の痛みは自然に治まったように見えても、原因が残っていれば再び悪化することがあります。特に、歯髄の炎症は放置すると不可逆的になり、治療が大がかりになることがあります。熱いものがしみる症状が出たら、悪化しないうちに歯科医院を受診し、適切な処置を受けるようにしましょう。
まとめ
根管治療は歯を残す治療として重要です。適切に行われれば痛みは治まり歯は長持ちします。しかし、治療途中や治療後に違和感や痛みが残る場合は決して放置せず、遠慮なく主治医に相談してください。早期に対処することで再治療もスムーズに進み、歯の寿命を延ばすことにつながります。専門的な処置と日常のセルフケアを行うことで、熱いものでも冷たいものでも快適に味わえる健やかな口腔環境を取り戻しましょう。
参考文献