根管治療で使用される薬剤は、感染した歯髄や細菌を除去し、根管内を清潔に保つために必要不可欠です。しかし、ときどき薬の味がお口に広がることがありますよね。
本記事では根管治療で薬の味がするのはなぜなのかについて以下の点を中心にご紹介します。
- 根管治療とは
- 根管治療で使用する薬剤について
- 根管治療中や治療後に薬の味がする原因
根管治療で薬の味がするのはなぜなのかについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
根管治療とは
- 根管治療とはどのような治療ですか?
- 根管治療とは、歯の内部にある「根管」と呼ばれる部分を治療する方法で、「歯の神経治療」や「根っこの治療」とも呼ばれます。根管には歯髄(しずい)と呼ばれる神経や血管が通っており、歯に栄養や水分を供給しています。しかし、むし歯が進行して細菌が歯髄に侵入すると、強い痛みや腫れが生じ、自然治癒することはありません。根管治療には「抜髄」と「感染根管治療」の2種類があります。抜髄は、むし歯が神経に達して炎症を起こした際に神経を含む歯髄を除去する治療です。一方、感染根管治療は、すでに神経が死んでしまっている歯で細菌が根管内に入り込んでいる場合に行い、根管内を徹底的に清掃・消毒して無菌状態を保つことを目指します。
- 根管治療ではどのような検査が行われますか?
- 根管治療を始める前に、歯の状態を正確に把握するためにいくつかの検査が行われます。まず、問診を通じて痛みの特徴を確認します。痛みが一時的なのか断続的なのか、どのようなタイミングで痛むのかを詳しく聞き取り、原因を探ります。次に、自発痛の有無を調べます。何もしなくても痛みがある場合、歯の神経に炎症が生じている可能性があります。この段階で神経の状態を確認するために、冷たいものや熱いもの、あるいは電気を使った刺激で神経の反応を調べる神経検査が行われることもあります。
その後、打診検査では歯を軽く叩いて、歯の根元に炎症がある場合に強い痛みを感じるかどうかも確認します。この検査を行うことで、根管治療が必要かどうか診断されます。
- 根管治療の治療回数や治療期間を教えてください
- 根管治療の治療回数や期間は、根管の状態や感染の程度によって異なりますが、1回の治療に30分程度かかり、通院回数は平均して3〜5回程度となります。ただし、根管の形状が複雑であったり、感染が広範囲に広がっていたりする場合は、さらに治療回数が増えることもあります。治療と治療の間隔が長く空いてしまうと、根管内に細菌が再び侵入し、再感染を引き起こす可能性があるため、治療の頻度は週に1度程度のペースで通うことが理想的です。このペースで通院を続けた場合、治療が完了するまでの期間はおおよそ1〜1.5ヶ月程度が目安となります。
なお、症状や治療の進行具合によって期間は前後するため、医師としっかり相談しながら治療を進めることが大切です。
- 根管治療をしないとどうなりますか?
- 根管治療をしないと、根管内に細菌が増殖し、症状が悪化するとされています。
- 抜歯のリスクが高まる
根管治療は、歯を残すための最後の手段です。これを行わないと、細菌感染が進行して歯を保存できなくなり、最終的に抜歯が必要となります。 - 感染が周囲に広がる
根管内で繁殖した細菌が根尖を越えて周囲に広がると、根尖性歯周炎や顎骨骨髄炎、上顎洞炎、蜂窩織炎など、深刻な炎症性疾患を引き起こすリスクが高まります。これらの疾患は痛みだけでなく、顔面の腫れや全身症状を伴うため、迅速な治療が必要です。 - 血管や全身への影響
感染が血管に入り込むと、血液を通じて全身に細菌が巡り、血管内でプラークや血栓が形成され、脳梗塞や心筋梗塞といった命に関わる疾患を引き起こす可能性があります。また、感染性心内膜炎や敗血症などのリスクも増加します。
放置すると症状が悪化する恐れがあるため、根管治療を受けることが大切です。
- 抜歯のリスクが高まる
根管治療で使用する薬剤について
- 根管治療で使用する薬剤の役割を教えてください
- 根管治療で使用する薬剤には、主に以下の3つの役割があります。
- 根管内の消毒・細菌の除去
根管内に残っている細菌を徹底的に除去するために、消毒薬を使用します。根管内を無菌に近い状態に保ち、再感染のリスクを減らします。 - 創傷治癒を助ける・炎症の抑制
根管治療後に起こりえる炎症や痛みを抑えるため、抗菌作用を持つ薬剤を使用することがあります。治療後の痛みや腫れを軽減し、根の先端部での治癒を助けることが期待されます。 - 根管内の封鎖・補強
治療が完了した根管内に薬剤を充填することで、隙間をなくし細菌が再び侵入することを防ぎます。また、薬剤で根管内を密封することで、薄くなった歯根を内側から補強する効果も期待できます。
これらの薬剤は、根管治療の成功率を高めることにつながります。
- 根管内の消毒・細菌の除去
- 根管治療で薬剤を詰める流れを教えてください
- 根管治療では、感染した歯の内部を徹底的に清掃し、細菌の増殖を防ぐために薬剤を使用します。この過程は「貼薬」と呼ばれ、以下のステップで進められます。
- 感染組織の除去と形状の整備(機械的拡大)
初めに、専用の器具を使って感染した神経や細菌を取り除きます。この工程では、薬剤が隅々まで行き届くよう、根管の形を整えていきます。 - 徹底的な清掃(化学的洗浄)
次に、専用の薬剤を使用して根管内部を洗浄します。目に見えない細菌や汚れも薬剤によって取り除き、根管内部を清潔に保ちます。 - 薬剤の詰め込みと密閉(根管貼薬)
根管内部が清潔になった後、抗生剤や殺菌効果のある薬剤を詰めます。薬剤は、細菌の再発を防ぎ、炎症を抑える働きがあります。薬を詰めた後、数日〜数週間の間、経過を観察しながら治療が進められます。 - 専用充填材による密閉(根管充填)
治療が進み、細菌がほぼ除去された段階で、専用の充填材を根管内に入れることで、根管が密閉され、細菌や唾液が再び侵入するのを防ぎます。 - 最終的な修復(歯冠修復)
根管治療が完了した後、歯の上部に詰め物や被せ物を装着し、噛む機能を回復させることで、歯の強度が向上し、治療後の機能が再生されます。
- 感染組織の除去と形状の整備(機械的拡大)
- 根管治療で使用する薬剤の種類を教えてください
- 根管治療で使用される薬剤には、それぞれ異なる目的があります。主に使用される薬剤は以下のとおりです。
- 消毒・殺菌剤
・次亜塩素酸ナトリウム:感染した組織を化学的に分解し、根管内の細菌を除去するための洗浄液として使用されます。
・EDTA(エチレンジアミン四酢酸):無機成分を溶解し、根管内の汚れを取り除きながら壁を滑らかにすることで、充填剤の密着をサポートします。
・水酸化カルシウム:強力な殺菌作用と抗炎症作用があり、根尖周囲の組織の治癒を助けるための貼薬として使用されます。 - 根管充填剤(封鎖剤)
・MTAセメント:強いアルカリ性を持ち、殺菌効果が高く、感染源の除去と根管内の清潔を保つために使用されます。
・ガッタパーチャポイント+接着剤:柔軟性があり、根管の形状に合わせてフィットする材料です。保険適用で治療費を抑えられます。
・バイオセラミック含有ガッタパーチャ+接着剤:生体適合性が高く、膨張性があるため隙間を作りにくく、再感染のリスクを軽減できます。 - 鎮痛薬・抗生物質
根管治療後の痛みや炎症を抑えたり、感染を防ぐために処方されることがあります。
- 消毒・殺菌剤
根管治療中や治療後に薬の味がする原因
- 根管治療中に薬の味や匂いがする原因を教えてください
- 根管治療中に薬の味や匂いを感じる原因は、いくつか考えられます。まず、根管治療で使用される消毒薬は、本来歯の内部で「密封」されているため、正常な状態では味や匂いが外に漏れません。しかし、仮封(仮の蓋)に隙間ができたり、耐久期間を超えて劣化している場合、薬剤が漏れ出し、不快な味や匂いの原因になります。特に、仮封に使用される水硬性セメントは、耐久期間が2週間程度とされています。この期間を超えて治療間隔が空くと、密封が甘くなり薬液が漏れ出すことがあります。
また、仮封の厚みが3mm以上確保されていない場合も密閉性が不足し、漏れが生じやすくなります。
さらに、根の先に膿が溜まっている場合やサイナストラクト(膿の排出口)がある場合、その部分から薬剤の味や匂いを感じることもあります。
- 根管治療後に薬の味や匂いがするのはなぜですか?
- 根管治療後に薬の味や匂いがする原因として、薬液が漏れている可能性が考えられます。根管治療後にしっかりと蓋がされている状態であれば、薬の味や匂いを感じることはありませんが、歯と詰め物の間にわずかな隙間ができ、そこから薬液が漏れ出す「マイクロリーケージ」という現象が起きることがあります。マイクロリーケージとは、プラスチックなどの詰め物をした際に、歯と詰め物の間に目には見えない小さな隙間が生じ、そこから細菌が侵入したり、内部の薬液が漏れたりすることです。
根管治療で扱う薬は、根っこの先まで薬が浸透しやすいように揮発性があるものが多い傾向にあります。また、臭いや味が広がりやすいものもよくあります。個人差はあるものの、時間とともに臭いや不快感も徐々になくなります。もし薬の味や匂いが長期間続く場合は、再感染の恐れがあるため、早めに歯科医院を受診し、状態を確認してもらうことが大切です。
編集部まとめ
ここまで根管治療で薬の味がするのはなぜなのかについてお伝えしてきました。根管治療で薬の味がするのはなぜなのかについての要点をまとめると以下のとおりです。
- 根管治療は、歯の内部にある神経や血管を含む歯髄の治療を指す
- 根管治療で使用される薬剤は、歯根の内部を感染から守るため、治療の効果が期待できる
- 根管治療後に薬の味や匂いがする原因は、「マイクロリーケージ」という現象が挙げられる
最後までお読みいただき、ありがとうございました。