根管治療をしても、膿が出てきたりなかなか痛みがおさまらないということがあります。
なぜ根管治療後にも膿が出てきてしまうことがあるのか、本記事では根管治療後に膿が出る原因や応急処置の方法、予防方法などを詳しく解説します。
根管治療について
はじめに、根管治療の基本事項から確認していきましょう。
根管治療とは
根管治療とは、歯の中心部にある根管をきれいに清掃する治療です。むし歯菌への感染などで歯髄が汚染された際に必要となります。
根管治療の流れ
根管治療は、次のような流れで進行します。
STEP1:抜髄
細菌に感染した歯の神経を抜き取ります。
STEP2:根管の拡大・形成・消毒
根管内をリーマーやファイルなどで拡大・形成しながら、汚染物質を取り除いていきます。
STEP3:根管充填
根管内の汚染物質をすべて取り切ったら、ガッタパーチャなどの充填剤を流し込みます。
STEP4:土台の築造・被せ物の装着
根管充填が完了したら、土台を作って被せ物を装着します。
根管治療の期間
根管治療は、週に1回のペースで通院した場合、2〜4週間の期間を要します。中等度から重度のケースでは、4〜8週間程度の期間がかかります。
根管治療の費用
根管治療の費用は、保険診療で4,000〜5,000円程度、自費診療の場合は、100,000〜300,000円程度となっています。自費診療では使用する機材や薬剤によって、費用も大きく変わる点に注意が必要です。
根管治療後に膿が出る原因
根管治療での治療後に膿が出てくる場合は、原因を突き止めた上で適切な治療を受けなけれいけません。根管治療後に膿が出る原因としては、以下の5つが挙げられます。
細菌が根管内に残っている
膿は、細菌感染が起こっている部位が化膿して生じる黄白色の粘液です。その中には白血球や血清、細菌の死骸などが含まれており、悪臭を放ちます。つまり、根管治療後にも膿が出るということは、根管内に細菌が残っている可能性が極めて高いといえるのです。実際、根管治療後に膿が出る主な原因は、病変の取り残しです。根管内を無菌化できないと、細菌の活動が継続して膿を排出し続けるのです。
歯根が割れている
根管の拡大から形成、清掃に至るまでを適切に行ったとしても、歯根が割れてしまっていたら完治させるのは困難です。歯根が割れている部分では依然として細菌の活動が続くため、適切な方法で対処しなければなりません。そもそも歯根が割れている場合は、ガッタパーチャなどの薬剤を緊密に充填させることができないことから、根管治療を終えることもできないでしょう。
歯根の壁に穴が空いている
歯根の壁の一部に穴が空いている場合も根管治療後に膿が出続けることがあります。上段の歯根破折と同様、根管の壁に穴が空いていたら、病変を完全に取り除けないだけでなく、根管充填も達成できません。ちなみに、歯根の壁である根管壁(こんかんへき)は、根管内への不適切な処置によって穴が空くケースが多くなっています。専門的には「パーフォレーション」と呼ばれるトラブルで、ファイルの動かし方を誤ることで、根管壁を傷つけたり、先端が貫通したりするのです。
根尖孔外感染や真性嚢胞になっている
根管内の細菌や汚染物質が根っこの先にある根尖孔(こんせんこう)という穴から漏れ出ると、そこで膿の袋を作り出します。それがいわゆる根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)です。根尖性歯周炎は、根管治療後に膿の排出が続く原因としては、臨床でもよく見られます。
根尖性歯周炎の症状を放置して慢性化させると、最終的には、歯根肉芽腫(しこんにくげしゅ)や歯根嚢胞といった真性嚢胞へと変化することがあるため、十分な注意が必要です。ちなみに、根尖性歯周炎の段階であれば、根管内の病変を取り除くことで膿の排出も止められますが、真性嚢胞になると、外科的な摘出が必要となります。
根管への再感染が起きている
根管治療が成功したとしても、その後に何らかの理由で再感染が起こる場合もあります。例えば、根管治療後の口腔ケアが不十分であったり、被せ物に異常が生じたりした場合は、根管への再感染のリスクが大きく上昇するため注意しなければなりません。専門的には「コロナルリーケージ(辺縁漏洩)」と呼ばれる現象で、被せ物などのわずかな隙間から細菌が入り込み、むし歯を再発させます。
根管治療後に膿が出た時の応急処置
根管治療後に膿が出てきた場合は放置するのはNGです。根管内の感染は自然に治癒することがないため、放っておけばさらに深刻な病状へと進展していくからです。そこでまずは以下に挙げる方法で応急処置を試みましょう。
殺菌効果のあるうがい薬を使う
根管治療後に膿が出てきたということは、口腔内で細菌が繁殖している証拠でもあります。その数が増えるほど、症状も悪化していくため、殺菌効果のあるうがい薬で口腔内を清潔に保つよう努めてください。もちろん、市販のうがい薬の殺菌作用はそれほど強いものではありませんが、細菌の繁殖速度を緩める程度の効果は期待できます。
患部を冷やす
膿が出ている根管に腫れや痛みが認められる場合は、急性の炎症反応が出ているため冷やすことで症状の緩和が期待できます。 ただし、患部の血流が悪くなって症状が悪化する可能性があるため、患部を氷などで直接的に冷やすのは避け、濡れたタオルを患部付近の顎に当てるなど間接的に冷やしましょう。また、間接的な冷却でも長時間行うことは避けた方が良いでしょう。
痛み止めを飲む
患部の痛みが強い場合は、市販の痛み止めを飲んで応急的に対処することができます。普段飲み慣れている痛み止めを、用法・用量を守って服用してください。 ただし、痛み止めの服用は膿が出ている原因を改善できるものではありませんので、早めに診察を受けましょう。
抗菌剤を服用する
根管治療後に膿が出ている場合は、歯科医院で抗菌剤を処方してもらい、服用することで、炎症の緩和が期待できます。
根管治療後に膿が出るのを予防する方法
根管治療後に膿が出る原因は上述したようにさまざまです。 根管治療後に膿が出るのを予防するためには、治療を始めるタイミングやクリニック選びの際に次の点を考慮しましょう。
初期治療はできるだけ早く受ける
根管治療は、始めるタイミングが遅くなるほど成功率も低くなります。例えば、むし歯が象牙質にとどまっている段階で治療を始めれば、間接覆髄法を実施することで抜髄すら不要になる場合もあるのです。もうすでに露髄していて歯髄に感染が起こっていたとしても、初期治療を早期に行うことで予後も良くなります。 また、初期治療が遅れて根部歯髄(こんぶしずい)まで感染が広がり、複雑に入り組んだ側枝(そくし)まで汚染されてしまうと、保険診療の根管治療では無菌化することが難しくなってしまう可能性もあります。 根管治療では初期治療をできるだけ早く受けることがポイントです。
マイクロスコープによる治療を受ける
根管は肉眼で把握することはできないほど小さいため、治療中の視野を肉眼の数十倍程度まで拡大できるマイクロスコープを使用することで、根管の幅や曲がり方、病変の残存状態などを視認しながら処置を進めていくことができるようになります。
ラバーダム防湿法による治療を受ける
根管治療は根管内を無菌化させるための処置なので、処置の最中に無数の細菌を含む唾液が侵入しないようにすることは大切です。そこで有用なのがラバーダム防湿法です。 ラバーダム防湿法は、ラバーダムシートと呼ばれるゴム製のカバーで治療する歯以外の部分を覆うことで無菌的な環境を作り出すことができる方法です。ラバーダム防湿法は現状、保険診療で受けることはできないため、希望する場合は自費診療となります。
根管治療後に膿が出た時の治療法
再根管治療
根管治療後に膿が出た原因が病巣の取り残しのケースでは、再根管治療を行うことになります。もうすでに根管充填を終えて被せ物や土台を設置している場合は、それらを撤去し、再び根管内の清掃を行います。 その際、前述したマイクロスコープや歯科用CT、ラバーダム防湿法を使うことで、根管治療の成功率を大きく上昇させることができます。
パーフォレーションリペア
根管の壁に穴が開いていることで膿の排出が認められる場合は、根管内の穿孔部を塞ぐためにMTAセメントを充填するパーフォレーションリペアが必要となります。パーフォレーションリペアを適切に行うためには、歯科用CTによる精密診断やマイクロスコープによる拡大視野での根管処置が欠かせません。
歯根端切除術(しこんたんせつじょじゅつ)
根の先に膿の塊ができてしまっている場合は、歯根端切除術という外科的歯内療法を実施します。歯の根の先を病巣といっしょに切除する方法で、歯茎の切開や骨の切除なども必要となります。歯根端切除術が成功すれば、歯を抜かずに残すことができます。
まとめ
根管治療後に膿が出る原因は、根管内に細菌が残っている、歯根が割れている、歯根の壁に穴が空いている、根尖孔外感染や真性嚢胞になっている、根管への再感染が起きているといったことが考えられます。 適切な方法で治療をすれば、歯を抜かずに保存できることも珍しくありません。治療後に痛みや膿が出るなどの症状がある場合は、早めに歯科医院で診察を受けましょう。
参考文献