私たちの歯は、いろいろなシチュエーションで痛むことがあります。安静にしている時にジンジンと痛んだり、冷たいものや熱いものを口にした時に歯がしみたりすることもあるでしょう。そうした歯が痛む原因としては、さまざまなものが考えられるため、必ず適切な検査を行う必要があります。その上で最も適した治療方法を選択しなければならないのです。ここではそんな歯が痛む原因や治療方法に関する疑問に答えます。
歯が痛む原因
- 歯が痛む原因について教えてください。
- 歯が痛む原因としては、虫歯、歯周病、象牙質知覚過敏症、歯槽粘膜の異常に加えて、歯や歯周組織以外に異常がある場合もあり、それを非歯原性歯痛(ひしげんせいしつう)といいます。つまり、“歯が痛い”と感じたとしても、それが必ずしも歯そのものにあるとは限らないのです。歯の痛みというのはそれくらい特定しにくいものだということを知っておきましょう。
- 歯が痛む原因となる部分について教えてください。
- 歯周組織には歯肉や歯槽粘膜が含まれます。なので歯が痛むと感じる原因は歯や歯周組織に原因がある可能性が高いです。
・歯が痛みの原因となる場合
◎象牙質の痛み
私たちの歯は、一番外側をエナメル質で覆われています。この部分が健全であれば、痛みを感じることはまずありません。エナメル質は人体で最も硬い組織であるだけでなく、組織が密で外部からの刺激を受けにくくなっているからです。そのエナメル質が欠けたり、摩耗したりすると、すぐ下にある象牙質がむき出しとなることで、歯の痛みが生じる場合があります。象牙質は、象牙細管(ぞうげさいかん)という細かい穴があいており、外からの冷たい風や水といった刺激を受けやすくなっています。そんな象牙質の痛みは、刺激を受けてから2〜3秒程度で消失します。◎歯髄の痛み
象牙質の内側には、歯の神経と血管から構成される歯髄(しずい)が分布しています。象牙質に穴があいて歯髄に直接、刺激が加わるようになると激しい痛みを伴います。歯髄が細菌に感染すれば、ジンジンとした慢性的な痛みも生じるようになります。・歯周組織が痛みの原因となる場合
◎歯の周囲の痛み
辺縁性歯周炎(へんえんせいししゅうえん)という歯周病では、歯の周りに痛みが生じます。歯を取り巻く歯周組織に炎症が起こることで、持続的な痛みを生じさせます。重症度の高い症例では、食べ物を噛んだ時に痛みが強くなります。病態がさらに進行すると、悪寒や発熱、倦怠感といった全身症状を伴うこともあるため注意が必要です。
◎歯根の先の痛み
根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)では、歯の根の先に強い痛みを伴います。根尖性歯周炎の多くは、進行した虫歯が原因であるため、その症状に先立って、歯髄炎の痛みに悩まされることも珍しくありません。根管内の汚染物質が歯の根の先に漏れ出て、そこで病巣を作ります。辺縁性歯周炎と同様、噛んだ時に痛みが増悪するのが根尖性歯周炎の特徴といえます。・歯肉が痛みの原因となる場合
歯と歯の間に食べ物が詰まる食片圧入(しょくへんあつにゅう)は、強い圧迫感や不快感という痛みを引き起こします。智歯周囲炎(ちししゅういえん)という親知らずの歯周病を発症していると、その周囲に強い痛みを伴うことがあります。重症例では、食べ物を飲み込むだけでも痛みが強まるため、日常生活に支障をきたします。・口腔粘膜が痛みの原因となる場合
口腔粘膜(こうくうねんまく)とは、いわゆる“歯肉”よりも広範囲な粘膜を指す言葉です。口腔粘膜に潰瘍(かいよう)やびらんなどが生じることで痛みが発生します。機械的外傷や化学的外傷、熱傷の他、ウイルスや細菌への感染が原因となって口腔粘膜が傷害され、疼痛を引き起こします。 口腔粘膜の痛みの原因として最もポピュラーなアフタ性口内炎は、自己免疫の一種とも考えられており、ストレスや疲労で症状が強くなることがあります。真菌への感染によって発症するカンジダ性口内炎は、免疫能の異常や抗真菌薬の長期投与が原因となりやすいです。
歯や歯周組織が痛みの原因の場合の治療方法
- 象牙質が痛みの原因の場合の治療方法について教えてください。
- むき出しとなっている象牙質を修復物で守る必要があります。虫歯が原因で象牙質が露出している場合は、感染した歯質を除去した上で、コンポジットレジンを充填したり、詰め物や被せ物を装着したりします。外傷などで歯が欠けて、象牙質が露出した場合は、歯の形を整えた上で、修復処置を施します。
- 歯髄が痛みの原因の場合の治療方法について教えてください。
- 歯髄が痛みの原因となっている場合は、原則として抜髄(ばつずい)を実施します。根管内清掃した後に、根管充填を行い、土台と被せ物を装着します。歯髄への細菌感染が認められない場合は、例外的に歯の神経を保存したまま詰め物・被せ物治療を行うことがあります。
- 歯の周囲の炎症が痛みの原因の場合の治療方法について教えてください。
- 歯周炎の急性発作による痛みに対しての治療は、患部の消毒や歯周ポケットの掻把(そうは)、抗菌薬の投与などが行われます。歯肉に膿の貯留が認められるケースでは、切開による排膿(はいのう)を行うこともあります。そうした外科的な処置を実施することで、歯の周囲の痛みは24時間以内に治まります。ただし、歯周炎自体が完治したわけではないため、引き続き通常の歯周病治療を継続していく必要があります。
- 歯根の先の炎症が痛みの原因の場合の治療方法について教えてください。
- 根尖性歯周炎は、感染源となっている根管内を清掃することで、症状の改善が見込めます。根管内が無菌化されれば、歯の根の先の病巣も自然に消失し、痛みもなくなります。根尖の膿の袋が大きくなり、内圧が高まっている場合は、歯肉を切開して排膿を促す場合もあります。
歯肉や歯槽粘膜が痛みの原因の場合の治療方法
- 歯肉が痛みの原因の場合の治療方法について教えてください。
- 食片圧入による歯肉の痛みは、歯と歯の間に挟まった食べ物を歯科医師が取り除くことで消失します。智歯周囲炎による歯肉の痛みは、患部の洗浄や消毒、抗菌薬の投与などで症状を緩和できますが、最終的には親知らずを抜くなどの原因療法が必要となります。
- 歯槽粘膜が痛みの原因の場合の治療方法について教えてください。
- 入れ歯や矯正装置による機械的刺激や食事に伴う熱傷に伴う歯槽粘膜の痛みは、安静に過ごすことで徐々に改善されます。ただし、歯槽粘膜を傷つける装置は、適切な形態に調整しなければなりません。アフタ性口内炎は、ステロイド軟膏を塗布したり、患部を貼付物で機械的に覆ったりすることで対処します。カンジダ性口内炎は、抗真菌薬の投与や口腔衛生状態を良好に保つことで、症状の改善が見込めます。
歯が原因ではない歯の痛み
- 非歯原性歯痛とはどのようなものですか?
- 歯が原因ではないのに、歯に痛みを感じる症状を非歯原性歯痛と呼んでいます。患者さんは歯の痛みを主訴として歯科を受診しても、口腔内に何ら異常が見られないことから、歯科医師も混乱します。本当は歯に原因がないにもかかわらず、診断を誤って抜歯をしてしまうというミスも起こり得るため、十分な注意が必要です。
- 非歯原性歯痛の主な種類について教えてください。
- 非歯原性歯痛としては、主に次のような種類が挙げられます。
・筋肉や筋膜の痛み
食べ物を噛む時に使う咀嚼筋(そしゃくきん)は、極端に強い力で噛む習慣があったり、歯ぎしり・食いしばりなどの悪習癖があったりすると、痛みが生じます。咀嚼筋と歯はやや離れた場所にあるのですが、その位置関係上、奥歯の痛みと錯覚してしまうケースが少なくありません。実際は、咀嚼筋自体やその周りを覆う筋膜に痛みが生じているのです。・神経障害性疼痛
神経そのものが何らかの理由で刺激され、痛みが生じるものを神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)といいます。具体的には、三叉神経痛(さんさしんけいつう)、帯状疱疹による痛み、非定型性歯痛(ひていけいせいしつう)などが挙げられ、いずれも歯が痛んでいるのではありません。・神経血管性頭痛
いわゆる片頭痛(へんずつう)や群発頭痛が神経血管性頭痛に該当します。頭痛だけでなく、上の犬歯や臼歯が痛むことが多いのですが、明確な機序は解明されていません。・上顎洞疾患による痛み
上顎の歯列の直上にある上顎洞(じょうがくどう)に炎症や嚢胞ができることでも歯の痛みを伴う場合があります。専門的には、上顎洞炎や術後性上顎嚢胞(じゅつごせいじょうがくのうほう)と呼ばれる病気です。・心臓疾患による痛み
狭心症や心筋梗塞による虚血性心疾患の発作時に、歯の痛みを感じることがあります。胸の痛みと連動しているのが特徴で、迷走神経を通じた関連痛と考えられています。
編集部まとめ
このように、歯はさまざま原因で痛むことがあります。歯の痛みの原因となる部位が異なるだけでも、治療方法は大きく変わるため、必ず精密検査を受けなければなりません。そもそも歯とは関係ない病気が歯痛を誘発することもあることから、背景に潜んでいる疾患・異常のバリエーションについては正しく理解しておく必要があるでしょう。いずれにせよ歯が痛いと感じたら、まずは歯科を受診することが大切です。
参考文献