根管治療はむし歯が進行し、歯の神経や根の部分にまで感染が及んだ場合に行われる重要な治療です。治療中に聞こえる”ピピピ”という音は、電気的根管長測定器(EMR)によるもので、根管の長さを正確に測るために使われます。
本記事では、根管治療で使用されるEMRについて以下の点を中心にご紹介します。
- 根管治療の基礎知識とむし歯の状態
- 根管治療の具体的な流れ
- EMRの原理や使用のメリットと痛みの有無について
根管治療で使用されるEMRについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
根管治療の基礎知識
根管治療とは、むし歯が進行して歯の神経(歯髄)や根の先まで感染が及んだ場合に行われる歯科治療の一つです。
むし歯の細菌が歯髄に侵入すると、炎症や感染が起きて激しい痛みを伴うことがあります。そのまま放置すると、歯の根の周囲組織にまで炎症が広がり、最悪の場合は歯を抜かなければならなくなります。
根管治療では、まず歯の内部にある感染した神経や組織を丁寧に取り除き、根管内部を洗浄・消毒して細菌を除去します。その後、根管内を専用の薬剤や充填材で密閉し、再感染を防止します。
治療が成功すれば、歯を抜かずに長期間保存することが可能とされています。
また、根管治療は難しい治療が求められるため、精密な検査や器具を用いて治療の正確性を確保することが重要です。
近年では、根管長を測定するEMR(電気的根管長測定器)などの機器を使い、治療の精度向上と患者さんの負担の軽減が図られています。
根管治療が必要となるむし歯の状態
根管治療が必要になるむし歯の状態には主に三つあります。これらの状態を正しく理解することが、適切な治療を受けるために重要です。
歯髄炎
歯髄炎とは、むし歯の進行により歯の内部にある神経組織(歯髄)が細菌に感染し炎症を起こした状態を指します。
初期段階では冷たいものや熱いものにしみる程度の軽い症状がみられますが、炎症が悪化すると激しい痛みやズキズキとした持続的な痛みが生じることが多くなります。自然に治癒することはほとんどなく、放置すると歯髄が壊死してしまい、さらには根の先端周辺に炎症が広がる根尖性歯周炎に進行するリスクが高まります。
歯髄炎が疑われる場合は、早めに歯科医院で診断を受け、適切な治療を行うことが重要です。多くの場合、根管治療によって感染した歯髄を除去し、症状の改善を図ります。
歯髄壊死
歯髄壊死とは、歯髄炎が進行し、歯の神経組織が死んでしまった状態を指します。 この段階では神経が死んでいるため、痛みを感じにくくなることがありますが、根管内には細菌が依然として存在し、増殖を続けています。
そのため、感染は根の先端にまで広がり、周囲の骨や組織に炎症を引き起こす根尖性歯周炎を発症する恐れがあります。
歯髄壊死が起こると自然治癒はほぼ不可能であり、根管治療を行って根管内の感染物を除去し、根管を適切に密封する必要があります。適切な処置をしないと感染が拡大し、最終的には抜歯が必要となるケースもあります。
根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)
根尖性歯周炎は、歯の根の先端部分(根尖)に細菌感染が広がり、周囲の骨や歯周組織に炎症が起こっている状態です。この病態は、歯髄壊死の結果として根管内に残存した細菌が根尖から外へと侵入し、炎症を引き起こすことが多いようです。
症状としては、激しい痛みや腫れ、膿の排出などがみられ、放置すると周囲の骨が破壊されてしまいます。治療には根管内の細菌を徹底的に除去し、根管を充填・密封する根管治療が必要です。早期に適切な治療を行うことで症状は改善し、歯を抜かずに保存することが可能とされています。根尖性歯周炎は放置すると顎骨の大きな損傷につながるため、早期発見と治療が重要です。
根管治療の流れ
根管治療は、感染した歯髄や細菌を取り除き、歯を保存するための一連の処置です。 複数のステップに分かれており、それぞれ丁寧に行うことが成功の鍵となります。ここではその具体的な流れを段階ごとに解説します。
1. むし歯・神経の除去
根管治療の最初のステップは、局所麻酔を行ったうえでむし歯に侵された歯質や感染した歯髄(神経)を除去します。専用の器具を用いて歯の内部へ慎重に到達させ、感染部位を丁寧に取り除くことが必要です。
感染部位をを取り除く工程は治療の土台となるため、感染源をしっかり除去しなければ治療が成功しません。歯髄は痛みの原因となる組織でもあるため、除去後は多くの場合、治療中および治療後の痛みが軽減されます。 ただし、感染が進行している場合は痛みが強く出ることもあるため、適切な麻酔管理が重要となります。初期段階での丁寧な神経除去が根管治療全体の成否を左右します。
2. 根管を拡大
神経の除去が終わると、次に根管内を拡大する工程に入ります。 根管はとても細く複雑な形状をしているため、専用のファイルやリーマーと呼ばれる細い器具を使い、慎重かつ正確に内壁を削りながら広げていきます。
根管の内壁を削ったり広げたりすることで、根管の形状が整い、次に行う洗浄や薬剤の充填が効果的に行えるようになります。しかし、根管の内壁を適切に広げられなければ、洗浄液が行き届かず、細菌が残ってしまうリスクが高まります。
また、拡大の度合いは個々の歯の根管形態や感染の程度によって異なるため、歯科医師の経験と技術が求められます。
3. 根管内の清掃
拡大された根管内は、細菌や感染組織を徹底的に除去するために薬液で洗浄・消毒されます。洗浄は一度だけでなく複数回に分けて繰り返し行われ、根管内をできる限り清潔に保つことが大切です。
洗浄液が根管の細部まで届くことで、細菌の再感染を防ぎ、治療後の炎症や痛みの軽減にも役立ちます。また、洗浄作業中に患者さんが感じる不快感を軽減するために、適切な麻酔や治療技術が必要です。
4. 根管の充填
清掃が完了した根管内には、細菌の侵入や再感染を防ぐために充填材を用いて密閉します。よく使われるのはガッタパーチャというゴム状の材料で、ガッタパーチャを根管の形状に合わせて詰めていきます。充填が不十分だと細菌が再び侵入し、治療の失敗や再発につながるため、隙間なく正確に充填することが重要です。
充填の過程は高度な技術を要し、歯科医師の熟練度が治療結果に大きく影響します。適切な充填により根管内が密封され、歯の健康を長期間維持することが可能となるとされています。また、根管の形状や深さに応じて充填技術を使い分けることも求められます。
5. 土台(コア)形成・被せ物(クラウン)の装着
根管治療が終わると、歯質が薄く弱くなっていることが多いため、歯の強度を補うために土台(コア)を形成します。この土台は、被せ物(クラウン)を支える役割があり、しっかりとした支柱を作ることで被せ物の安定性を高めます。
コアには金属製や樹脂製などさまざまな素材があり、歯の状態や治療計画に応じて選択されます。その後、セラミックや金属などの被せ物を装着し、見た目や噛み合わせの機能を回復させます。これにより歯の耐久性が向上し、長期的に健康を維持しやすくなるとされています。被せ物は患者さんの審美的要望や耐久性も考慮して選定されるため、歯科医師との相談が重要です。
根管治療で使用されるEMR(電気的根管長測定器)
根管治療で使用されるEMR(電気的根管長測定器)とは、どのようなものなのでしょうか。以下で詳しく解説します。
ピピピ音の正体はEMR
根管治療中に聞こえる“ピピピ”という音は、EMR(電気的根管長測定器)が根尖に到達したことを知らせる合図です。
治療器具に装着されたセンサーが根管内の電気抵抗の変化を感知し、根尖付近で抵抗値が変わると音が鳴ります。音が鳴ることで、歯科医師は根管の正確な長さを判断し、治療器具の過剰挿入を防止できます。治療が正しく行われている証拠でもあるため、患者さんにとっては安心感へとつながり、その結果治療の質が向上します。
EMRの原理と重要性
EMR(電気的根管長測定器)は、根管内部の電気抵抗やインピーダンスの変化を利用して、歯の根の長さを測定する装置です。根尖部分は周囲組織に接しているため、電気抵抗が大きく変化します。この抵抗値の変化をリアルタイムで検出し、歯の根の長さを高精度に算出します。
正確な歯の根の長さを把握することは、適切な清掃や充填を行うために不可欠です。特に複雑な根管形態や根尖病変がある場合でも安定した測定が可能とされているため、EMR(電気的根管長測定器)は、根管治療に欠かせない装置となっています。
EMRを使用するメリット
EMR(電気的根管長測定器)を使うことで、治療の正確性が向上し、患者さんの身体的・精神的な負担の軽減が期待できます。以下にEMR(電気的根管長測定器)を使用するメリットを解説します。
治療の精度向上に役立つ
EMR(電気的根管長測定器)は根管長を正確に測定し、治療器具の挿入深さを的確に調節することが可能とされています。その結果、根管内部を適切な範囲で洗浄・充填でき、過剰な器具挿入や不十分な治療を防止できます。
特に根管が複雑な場合でも高精度な測定により、治療の成功率が大きく上がります。こうした精密な治療は再感染や再治療のリスク軽減に寄与し、患者さんの歯を長期に守る効果があるとされています。
患者さんへの負担軽減に役立つ
従来の根管長測定では複数回のレントゲン撮影が必要で、被曝や治療時間延長の課題がありました。EMR(電気的根管長測定器)はリアルタイムで測定できるため、撮影回数を減らし患者さんの身体的負担を軽減します。
加えて、測定時間の短縮により治療全体の所要時間も短くなり、患者さんの精神的負担も軽減されます。痛みや不快感も抑えられ、より快適な治療環境の実現に貢献しています。
EMR(電気的根管長測定器)を使用する際に痛みはある?
根管治療において使用されるEMR(電気的根管長測定器)は、根管の長さを正確に測定するための装置であり、微弱な電気信号を利用して動作します。この電気信号はとても低い強さで、人体に影響を及ぼすことはありません。
そのため、EMR(電気的根管長測定器)の使用によって痛みを感じることはほとんどないといわれています。患者さんが治療中に感じる違和感や圧迫感は、器具が根管内に挿入される際の物理的刺激に起因するものであり、EMR(電気的根管長測定器)自体が原因であることはありません。
また、治療は局所麻酔下で行われるため、器具が根管内に挿入される際の物理的刺激による不快感や痛みは可能な限り抑えられています。
さらに、EMR(電気的根管長測定器)の導入によりレントゲン撮影の回数が減少し、患者さんの身体的負担が軽減されるメリットもあります。総じて、EMR(電気的根管長測定器)は患者さんにとって負担が少ない測定器であるといえ、精度の高い根管治療を支える重要なツールとして活用されています。
まとめ
ここまで根管治療で使用されるEMR(電気的根管長測定器)の役割やメリット、痛みの有無について詳しく解説してきました。要点をまとめると以下のとおりです。
- EMR(電気的根管長測定器)は根管長を高精度で測定し、治療の正確性を大きく向上させる
- EMR(電気的根管長測定器)の使用は患者さんの身体的負担や被曝リスクを軽減し、快適な治療環境を提供する
- EMR(電気的根管長測定器)による測定は痛みを感じにくく、安心して根管治療を受けることができる
根管治療は高度な技術と正確な測定が求められますが、EMR(電気的根管長測定器)の導入によってより安全性が高い治療が可能になりました。 これから治療を受ける方は、使用機器や治療方法について歯科医師に詳しく相談し、不安を解消したうえで臨むことが大切です。
この記事が皆さまの歯の健康維持に少しでも役立つ情報となれば幸いです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。