これから根管治療を行う予定の人、もしくは根管治療中の人は、この治療に関してさまざまな疑問や不安が生じていることでしょう。インターネットで情報を収集すると、根管治療以外にも歯内療法(しないりょうほう)という名称も出てくるため、一般の人は混乱することかと思います。ここでは根管治療と歯内療法の違いや種類について、詳しく解説をします。根管治療に関する正しい知識を身に付けたい人は、このコラムを参考にしてみてください。
根管治療と歯内療法の違い
はじめに、根管治療と歯内療法の基本事項から確認していきましょう。
根管治療は歯内療法の一種
結論からいうと、根管治療は歯内療法の一種です。歯内療法という大きなカテゴリがあって、その中のひとつが根管治療なのです。歯内療法という言葉自体、日本ではあまり知られていないのが現状なので、根管治療との違いを知らない人が大半でも何ら不思議ではありません。
根管治療の基礎知識
根管治療は、歯の内部にある歯髄が炎症を起こしたり、感染したりした場合に行う治療法です。歯髄は歯の中を通る神経や血管が集まった組織であり、むし歯や外傷によってダメージを受けることがあります。根管治療は痛みを取り除き、歯を保存するための重要な手段です。
歯内療法や根管治療が必要となるケース
歯内療法や根管治療は、歯髄炎と根尖性歯周炎で必要となります。
【歯髄炎】
歯髄炎とは、歯の内部にある歯髄(神経や血管が集まった組織)が炎症を起こした状態です。歯髄炎には急性と慢性の2種類があり、それぞれ症状や原因が異なります。
◎急性歯髄炎
急性歯髄炎は突然の強い痛みを伴うことが多く、主な原因はむし歯や外傷です。むし歯が進行してエナメル質と象牙質を貫通し、歯髄に達することで炎症が起こります。また、事故などで歯が折れたり、強い衝撃を受けたりすることも原因となります。
急性歯髄炎の症状は、冷たいものや温かいものに対する強い痛み、噛んだ時の鋭い痛みなどです。放置すると炎症が広がり、根尖性歯周炎に進行する可能性があります。
◎慢性歯髄炎
慢性歯髄炎は急性の強い痛みがなく、鈍い痛みや違和感が続く状態です。主な原因は、慢性的なむし歯や歯の過度な摩耗です。歯髄が少しずつ炎症を起こし、長期間にわたって症状が続くことがあります。
慢性歯髄炎の症状には、鈍い痛み、冷たいものに対する過敏症状などがあります。急性歯髄炎と同様に、放置すると根尖性歯周炎に進行するリスクがあります。
【根尖性歯周炎】
根尖性歯周炎は、歯の根っこの先端(根尖部)に炎症が及んだ状態です。歯髄が死んでしまった場合や、歯髄炎が進行して根尖部に炎症が広がった場合に発生します。主な原因は感染や外傷です。
◎根尖性歯周炎の症状
根尖性歯周炎の主な症状は、持続的な痛み、腫れ、歯茎からの膿の排出などです。場合によっては痛みが広がり、隣接する歯や顎の骨にも影響を与えます。感染が進行すると、発熱やリンパ節の腫れを伴うケースもあります。
◎急性根尖性歯周炎
急性根尖性歯周炎は急速に進行する炎症であり、強い痛みや腫れを引き起こします。感染が根尖部に到達すると膿が溜まり、膿瘍を形成することがあります。急性の場合、迅速な治療が必要です。
◎慢性根尖性歯周炎
慢性根尖性歯周炎は、急性ほどの激しい痛みはないものの、長期間にわたって続く鈍い痛みや違和感が特徴です。根尖部に慢性的な感染が続き、時折症状が悪化します。慢性の場合も、根管治療が必要です。
◎根管治療の必要性
根管治療は、歯髄炎や根尖性歯周炎の治療に不可欠です。適切な処置を施さないと、感染が広がり、歯の保存が困難になるだけでなく、全身の健康問題を引き起こす可能性もあります。
歯内療法以外の治療法
歯髄炎や根尖性歯髄炎が見られるケースで、歯内療法を行わない場合は基本的に抜歯が適応されます。薬剤などで炎症反応を抑えたうえで歯を抜き、補綴治療へと移行します。補綴治療とは、失った歯を補う治療で、入れ歯やブリッジ、インプラントなどが該当します。
歯内療法の種類
歯内療法は、次の4種類に大きく分けられます。
生活歯髄療法
生活歯髄療法は、歯髄がまだ生きている(生活)状態で行われる治療法です。歯髄の一部が損傷や炎症を起こしている場合に、その歯髄を保存し、歯の機能維持を目的としています。特に、歯髄の健康な部分を保ちながら、歯の痛みや不快感を軽減するための治療です。
初回根管治療
初回根管治療は、歯髄が完全に感染、または壊死した場合に行われる治療法です。根管内の感染した歯髄を除去し、根管を清掃、消毒してから充填することで、感染の再発を防ぎます。この治療法は歯を保存し、その機能を回復させることを目的としています。歯髄炎や根尖性歯周炎など、歯の内部に深刻な問題がある場合に必要となります。
再根管治療
再根管治療は、初回根管治療が成功しなかった場合や、再び感染が発生した場合に行われる治療法です。初回治療で充填された根管内の材料を除去し、再度清掃、消毒をして新しい充填材を詰めることで、感染を取り除きます。再治療は、初回治療の失敗や新たな感染の発生を防ぐために必要です。また、初回治療の技術的な問題があった場合、具体的には、治療後に痛みが続く、腫れがある、歯茎に膿が出るなどの症状が見られたら再治療を行います。
外科的歯内療法
外科的歯内療法は、通常の根管治療では対応できない場合に行われる外科的なアプローチです。特に根尖部(歯の根の先端)の感染や炎症を直接取り除くことを目的としています。この治療法は、根管内の問題に直接アプローチし、感染の再発を防ぐための効果的な手段です。
生活歯髄療法とは
生活歯髄療法の基本事項
生活歯髄療法は、歯髄がまだ生きている歯に対して行われる治療で、次のような種類があります。
・直接覆髄法
むし歯が歯髄に達する寸前で、歯髄を保護するために薬剤を直接適用します。
・間接覆髄法
むし歯が歯髄に近づいているが到達していない場合に、薬剤を適用して歯髄を刺激しないようにします。
・部分断髄法
歯髄の一部が炎症を起こしている場合、その部分のみを除去して残りの健康な歯髄を保存します。
生活歯髄療法は、特に若年者の歯や歯髄がまだ健康である場合に適しています。早期のむし歯や外傷による部分的な損傷など、歯髄の大部分が健康であると診断された場合にも効果的です。
生活歯髄療法のメリット・デメリット
生活歯髄療法には下記のようなメリット・デメリットがあります。
【メリット】
◎歯の自然な機能と構造の維持
生活歯髄療法では歯髄を保存するため、歯の自然な血液供給と神経機能が維持されます。これにより歯の感覚や栄養供給が正常に保たれ、歯の寿命が延びる可能性があります。
◎治療の侵襲が少ない
歯髄を完全に除去する根管治療と比べ、生活歯髄療法は侵襲が少なく、歯の構造を大きく削る必要がありません。これにより治療後の歯の強度が保たれます。
◎早期治療による予後の改善
早期のむし歯や部分的な歯髄炎に対して適用されるため、早期介入が可能です。歯髄の健康部分を保ちながら、感染の広がりを防げます。
【デメリット】
◎治療の適応範囲が限られる
生活歯髄療法は、歯髄がまだ健康な部分を持っている場合にのみ適用されます。進行したむし歯や歯髄が完全に感染、壊死している場合にはこの治療法は適用できず、根管治療が必要です。
◎治療後の経過観察が必要
生活歯髄療法を受けた後も歯髄の健康状態を定期的に観察する必要があります。治療後に症状が再発するリスクがあるため、経過観察を怠ると再び痛みや感染が生じる可能性があります。
◎成功率が症例に依存する
生活歯髄療法の成功率は、歯髄の損傷程度や患者さんの全身状態に依存します。完全な成功を保証できないため、場合によっては後に根管治療が必要となります。
初回・再根管治療とは
ここからは初回根管治療と再根管治療について解説します。
初回根管治療と再根管治療の違い
初回根管治療は、文字通り初めて行う根管治療です。そのため、抜髄を伴うのが一般的です。再根管治療は過去に根管治療を行った歯に適応されるもので、抜髄済みです。根管充填や土台の築造、被せ物の装着まで行われているケースでは、それらを撤去することから始めます。
根管治療の流れ
根管治療は下記のような流れで行われます。
STEP1:診断と治療計画の立案
まず、歯科医師が患者さんの口腔内を診察し、レントゲン撮影を行って歯髄の状態を確認します。これにより根管治療が必要かどうか、どの程度の治療が必要かを判断します。また、治療に関する説明と治療計画の説明が行われます。
STEP2:麻酔と隔離
治療を行う歯の周囲に局所麻酔を施し、痛みを感じないようにします。その後、ラバーダムと呼ばれるゴムのシートを使用して、治療する歯を隔離します。これにより、治療中に唾液や細菌の侵入を防ぎます。保険診療ではラバーダムによる隔離が行えません。
STEP3:歯髄の除去
歯の冠部に小さな穴を開け、感染した歯髄を除去します。これには、特殊な器具を使用して根管内の歯髄を丁寧に取り除きます。このステップでは、感染した組織を完全に除去することが重要です。
STEP4:根管の清掃と形成
根管内を徹底的に清掃し、消毒を行います。その後、根管の形を整え、充填剤が入りやすいようにします。根管の清掃と形成は感染を完全に除去し、再感染を防ぐために重要な工程です。
STEP5:根管の充填
清掃と成形が終わった根管に、ガッタパーチャと呼ばれるゴム状の材料を詰めます。これにより根管内を密閉し、再感染を防ぎます。根管の充填は感染が再発しないようにするための重要なステップです。
STEP6:一時的な詰め物の装着
根管充填が完了した後、歯冠部に一時的な詰め物を装着します。一時的な詰め物は次の治療までの間、外部からの影響を受けないように歯を保護する役割を果たします。
STEP7:最終修復
最終的なステップでは、根管治療を行った歯の強度を保つためにクラウン(かぶせ物)を装着します。クラウンは治療した歯を保護し、再び機能するようにします。クラウンの装着により、歯の寿命を延ばし、正常な咀嚼機能を維持できます。
根管治療のメリット・デメリット
【メリット】
◎天然歯の保存
根管治療は、感染した歯髄を除去し、歯を保存するための治療法です。これにより、抜歯を避け、自然な噛み合わせや咀嚼機能を維持できます。
◎痛みの軽減
感染や炎症による痛みを取り除き、治療後は痛みや不快感が軽減されます。
◎再感染の予防
根管を清掃、消毒し、充填材で密閉することで、再感染のリスクを低減します。
【デメリット】
◎失敗するリスクがある
歯の状態や感染の程度によって成功率が異なり、場合によっては再治療が必要となります。
◎歯の脆弱化
根管治療後の歯は脆くなりやすく、クラウンなどの補強が必要となる場合があります。
外科的歯内療法とは
外科的歯内療法の基本事項
通常の根管治療では症状の改善が見込めないケースに適応される治療法で、以下のような種類があります。
・歯根端切除術
根尖部を外科的に切除し、感染した部分を取り除く方法です。
・逆根管充填
根尖切除術後、根管の先端を逆から充填する方法です。
・歯根分割術
複数の根がある歯の場合、感染した根を部分的に切除し、健康な根を保存する方法です。 外科的歯内療法は、通常の根管治療や再根管治療が失敗した場合に適用されます。また、根管内に異物が存在し、通常の方法では除去できない場合や、根尖部に大きな病変がある場合にも適用されます。具体的には、根管治療後に持続する痛みや、根尖部の慢性的な炎症、感染が見られるケースです。
外科的歯内療法のメリット・デメリット
外科的歯内療法には、下記のようなメリット・デメリットがあります。
【メリット】
◎問題の根本的な解決
根管治療や再根管治療で解決できなかった問題を、根本的に解決できます。特に根尖部の感染や病変に対して有効です。
◎保存の可能性
通常の方法では保存が難しい歯を救う手段として有効です。これにより、抜歯を避けられます。
◎即効性
外科的手法により症状の迅速な改善が期待でき、患者さんの不快感を速やかに軽減できます。
【デメリット】
◎侵襲性
外科的処置は体に対する侵襲が大きく、術後の痛みや腫れが発生する可能性があります。
◎費用と時間
手術には高い費用と複数回の通院が必要になることがあり、患者さんにとって経済的、時間的負担が大きいです。
◎リスク
手術に伴うリスク(感染、出血、周囲組織の損傷)が存在し、すべてのケースで成功が保証されるわけではありません。
編集部まとめ
今回は、根管治療と歯内療法の違いや種類、それぞれの施術に伴うメリット・デメリットなどを解説しました。根管治療は歯内療法の一種であり、広い意味では同義といっても間違いではありません。厳密には、歯内療法は歯の根っこに対する治療の総称で、生活歯髄療法、初回根管治療、再根管治療、外科的歯内療法という種類に分けられます。それぞれ適応症が異なり、得られる効果に違いが見られることも正しく理解しておく必要があります。
参考文献