歯根嚢胞とは、歯根(歯茎のなかに埋まっている歯の部分)に袋状の腫瘍ができ液体の内容物(膿)が溜まった状態をいいます。
むし歯や外傷により、歯髄(しずい)という歯の内部にある神経が細菌感染し、歯根の先端にまで広がると根尖性歯周炎となります。炎症を起こした状態が慢性化すると歯根嚢胞となるのです。
症状があるにも関わらず放置してしまうと、細菌感染が進行し炎症の範囲が広くなり治療が困難になる場合もあるため注意が必要です。
歯根嚢胞は自然に治ることはなく、早期に発見し治療を受けることが大切になります。
この記事では、歯根嚢胞の症状・原因・治療法を解説します。気になる症状がある方や歯根嚢胞が心配な方は、ぜひ最後までご覧ください。
歯根嚢胞の症状
歯根嚢胞になると、さまざまな症状が現われます。主にみられる症状には下記の6つが挙げられます。
- 噛むと痛い
- 歯茎から膿が出る
- フィステルができる
- 歯が浮いた感じがする
- 腫れ・強い痛みがある
- 頭痛がする
歯根嚢胞を放置しておくと、感染が進行して歯の根元やその周辺の組織が損傷し壊死する可能性が高くなるため注意が必要です。
口腔内の細菌が血液中に入り込みやすいため、全身のあらゆる部分に感染が広がり炎症が起こる可能性も高まります。
敗血症・感染性心内膜炎・誤嚥性肺炎など口腔内のトラブルだけではなく全身状態に影響を及ぼす場合があります。
そのうちよくなるだろうと様子をみているうちに、症状が悪化してしまうかもしれません。
ここで挙げる症状が現われた場合は自己判断で放置するのではなく、早めに歯科医師に相談するようにしましょう。
噛むと痛い
歯根嚢胞ができると、口腔内に入った食べ物を噛む動作で痛みが生じます。歯根の先端部分にできる歯根嚢胞により、周囲の神経が圧迫されるため痛みが引き起こされるのです。
初期の段階では痛みがないため、歯根嚢胞ができていることに気付かないケースもあるでしょう。
痛みを感じるときは、感染が進行し炎症が広がっている可能性があります。
今までにない痛みを感じた場合は、歯根嚢胞の症状かもしれません。歯茎や歯根に異常をきたしている可能性があるため、歯科医師に相談するようにしましょう。
歯茎から膿が出る
歯根嚢胞は、袋状の腫瘍の中に液体が溜まる現象です。細菌感染や炎症が続くと、内容物が膿になることがあります。
膿は細菌と戦った後の白血球の死骸です。通常は黄色や緑色をしており、感染や炎症を引き起こしているサインになります。
放置しておくと量が増え、袋状の腫瘍の容量を超えたときに袋が破れて歯茎から膿が出てくる場合もあります。
膿が出ることで、口腔内に不快感や悪臭が生じるため、生活に支障を与える可能性が高まります。
歯茎から膿が出る場合は、歯根嚢胞ができている可能性があるため早めに歯科医院で受診しましょう。
フィステルができる
フィステルとは、歯茎にできるおできのようなものです。歯茎にぷくっとした白いできものとして気付く場合があるでしょう。
歯根嚢胞のなかでは膿がつくられ、炎症が進行すると徐々に量が増えてきます。そのため、袋の容量が膿によって狭くなり、内圧が高まることで膿を排出しようとする働きが強まるのです。
膿を出すための管が歯茎の外側へと形成され、その管の出口がフィステルになります。
フィステルを押すとニキビをつぶすようになかから膿が出てきます。膿が出ることで内圧が低くなるため、圧迫が解消され強い痛みや違和感が軽減されるでしょう。
膿を出して症状がよくなったからといって様子をみるのではなく、フィステルが気になった場合は早めに歯科医師に相談しましょう。
歯が浮いた感じがする
歯根嚢胞が進行すると、膿が溜まった袋が顎の骨やその周囲の組織により圧迫されます。すると、歯の周りの組織が歯や膿の袋を外に出そうとする作用が働きだします。
歯が押されるような動きをするため、人によっては歯が浮いた感じがする症状が出る場合があるのです。
歯が浮く感覚がある場合は、歯茎の中で何かしらの異常が起きている可能性があります。
放置しておくと、症状が重症化する場合もあります。
少しでも歯の違和感がある場合は、早めに歯科医師に相談しましょう。
腫れ・強い痛みがある
歯根嚢胞は、歯根が細菌感染や炎症を起こしている状態です。そのため、感染や炎症が進行すると、歯根周囲にある組織が免疫反応で腫れます。
また、歯根嚢胞内に膿が溜まることで組織が膨らみ腫れを伴うのです。
さらに、膿が溜まった袋が大きくなるにつれ、歯根周囲の神経が圧迫されるため歯茎が腫れるのと同時に痛みが生じるのです。
何もしていないのに強い痛みを感じる場合には、歯根嚢胞が進行している可能性があります。
歯茎が腫れている・強い痛みがある場合は、早めに歯科医師に相談しましょう。
頭痛がする
歯根嚢胞が上顎の奥の方にできた場合、頭痛を伴うことがあります。副鼻腔が近い上顎洞に細菌が入り込むと、上顎洞炎や蓄膿症を引き起こします。
頭痛が継続している場合は、上顎洞炎や蓄膿症が原因かもしれません。症状が進行すると、上顎洞に膿が溜まり悪臭がする・歯や頬の痛みがあるなどの症状も伴います。
歯根嚢胞による感染が広がると、口腔内の症状だけではなく全身状態に影響が出始めます。
原因不明の頭痛がある場合、歯根嚢胞が関係している可能性があるため、早めに歯科医師に相談するようにしましょう。
歯根嚢胞の原因
歯根嚢胞は根尖性歯周炎が慢性化することが大きな原因です。歯の神経がむし歯や外傷などで細菌感染を起こし、感染による炎症が歯根の先端に達すると生じます。
また、根管治療が不十分である場合や歯が折れることも歯根嚢胞の原因です。ここでは、歯根嚢胞の原因を詳しく解説します。
むし歯
むし歯を放置すると、繁殖した細菌(むし歯菌)が歯根に入り込み神経が壊死し、神経がなくなった場所には空洞ができます。
その空洞で細菌が毒素を出すと感染や炎症が周囲の組織に広がり、歯根嚢胞となります。
歯根嚢胞内で細菌の感染がとどまればよいのですが、感染状態を放置していると血液中に細菌が侵入し全身状態を悪化させる可能性が高まるので注意が必要です。
歯の周りの骨の状態が保たれており、歯がしっかりしている場合はその歯を温存し、歯根嚢胞を摘出する治療や歯茎を切開し排膿する治療を行うのが通常です。
炎症や組織の壊死により歯が残せない場合は、抜歯を行うケースがあります。
むし歯がある場合は、細菌感染による炎症を広げないためにも早めの治療が大切です。
根管治療が不十分
根管治療とは、歯の神経を抜く治療です。歯根のなかにある感染や炎症の原因を取り除くために行われます。
歯の根本を消毒して無菌状態にし、薬を充填して細菌が繁殖しないように詰め物や被せ物をする処置を行います。
しかし、根管治療を行った症例のなかには、再治療が必要なケースも多くみられるとの報告があるのです。
その原因は、消毒が不十分で細菌が残ってしまったこと・歯根嚢胞が取り切れなかったこと・歯根の形状が複雑で歯根の先まで十分に処置が行えていなかったことなどが考えられます。
根管治療後に、歯根嚢胞になる可能性があることを理解しておきましょう。
歯を残せる場合には、再根管治療が可能です。感染や炎症がひどく、歯を支える組織や骨が壊死している状態では、抜歯を行う可能性が高まります。
歯の破折
むし歯や外からの衝撃により、歯や歯根にひびが入ったり折れたりすることがあります。これを歯の破折といいます。
割れた歯の隙間から細菌が侵入し、歯根に炎症が生じ嚢胞をつくる場合があるのです。
歯の破折があっても痛みや腫れなどの症状がない場合は気付かないため、すぐに治療を受けずに放置してしまうケースもあるでしょう。
知らないうちに細菌感染が起こり、歯根嚢胞になっている可能性もあります。
歯が折れた・ひびがはいっているなど歯の異常がある場合には、早めに歯科医師に相談し対処するようにしましょう。
根管治療で歯根嚢胞は治療できる?
根管治療は歯の神経を抜き、歯の根元を掃除・洗浄する治療法です。患部の痛みや腫れが落ち着いた状態になったら行うのが一般的です。
再発を防止するために、根管部に薬を詰めてから被せ物や詰め物をし、隙間がないよう密閉します。
歯根嚢胞が小さい場合に実施され、再発しにくい治療法です。症状が進行している歯根嚢胞の場合は、感染源を完全に取り除くことができず根管治療で完治は難しくなります。
また、嚢胞が大きいと数回にわたって洗浄や消毒を行う必要があるかもしれません。
次の項目で解説しますが、根管治療で処置が難しい場合は嚢胞摘出術や抜歯を行います。
症状が軽い状態であれば、根管治療で歯根方法の治療は可能でしょう。
根管治療以外の歯根嚢胞の治療法
歯根嚢胞の治療法には、根管治療以外に2つあります。
- 嚢胞摘出術
- 抜歯
ここでは上記の治療法を解説します。
嚢胞摘出術
嚢胞摘出術は、嚢胞の近くの歯茎を切開し歯根嚢胞を摘出する治療法です。歯を温存できる場合に行います。
麻酔をした後、歯茎を切開しなかに溜まった内容物をよく洗浄し洗い流します。その後、歯肉を糸で縫合し終了となります。
歯根嚢胞が大きい場合は局所麻酔での処置は難しいため、全身麻酔をして嚢胞摘出を行うケースもあります。
全身麻酔での処置をする際には、入院が必要になる場合もあるため歯科医師の説明をよく聞き、相談するようにしましょう。
抜歯
歯根嚢胞になった原因がむし歯や歯の破折である場合は、抜歯が行われます。また、炎症がひどく根管治療や嚢胞摘出術で治療ができない場合も抜歯をします。
細菌の感染により生じた炎症で、歯を支えている骨や歯肉が壊死している場合は、歯を残しておくことができません。
抜歯は、歯根嚢胞も一緒に取り除くことになるため、ほかの歯に細菌が広がるのを防ぐこともできます。
歯を残すためには、歯根嚢胞を小さいうちに発見し早い段階での治療が大切です。
歯根嚢胞の診断方法
歯根嚢胞はレントゲンや歯科用のCTなどで診断されます。患部である歯と周りの骨や組織の状態を観察できます。
レントゲンを撮影すると歯根嚢胞ができている部分は骨の空洞として映るため、すぐに診断がつくでしょう。歯根の先端部分に円形の影として映り、エンドウ豆くらいの大きさから鶏卵大の大きさまで、症例によってさまざまです。
また、歯科用CTの3次元画像では、歯根嚢胞ができている周囲の骨の状態・病変の広がり具合・歯根の形状などをより詳細に診断できます。
視診では診断が困難な歯茎の内部の状態や骨の状態を総合的にみることで、歯根嚢胞の診断が行われます。
炎症の程度・膿の溜まり具合・周りの組織の状態から、治療方針を検討し適切な処置が選択されるでしょう。
歯根嚢胞以外で膿が溜まる症状
歯根嚢胞になると、袋状になった部分に膿が溜まることがわかりましたが、同じように膿が溜まる症状はほかにあるのでしょうか。
歯周病や根尖性歯周炎になると、歯根嚢胞と同じように歯茎のなかに膿が溜まることがあります。
ここでは、それぞれの症状を解説します。
歯周病
歯周炎とは歯周病ともいわれ、歯周病原因細菌に感染すると発症する炎症性の疾患です。炎症がひどくなると、歯茎や骨が破壊されていきます。
すると、歯根と骨をつなぎ支えている歯根膜という組織が破壊されるため、歯が抜け落ちてしまうのです。炎症を起こすため、歯茎が腫れたり痛みを伴ったりします。
また、歯垢が溜まった状態が続くと、歯茎に歯周ポケットといわれる歯と歯肉の境目に深く広がった溝ができます。そこから細菌が入り込むことで、炎症を引き起こし膿が溜まる原因にもなるのです。
歯周病は生活習慣病の一つで、毎日の歯磨きや歯間ブラシなどによるケアにより予防が可能です。
歯磨きでは取り切れない歯垢を定期的に歯科医院で取り除いてもらうことも、歯周病予防のために取り入れるようにしましょう。
根尖性歯周炎
歯根性周囲炎とは、歯根の先端に細菌感染を起こし炎症が生じて膿が溜まった状態をいいます。
むし歯や外傷により歯や歯茎に生じた隙間から、歯のなかに存在するさまざまな細菌が侵入し、歯根の先端にまで感染が広がり炎症を起こすことで発症します。
歯を支える骨の内部に膿が溜まることで、歯を支える顎の骨が溶け破壊されることで激しい痛みと歯茎や顎が腫れるケースもあるのです。
症状が進行すると歯根嚢胞になります。膿が歯茎のなかに溜まり、量が増えると歯茎から出てくることもあります。
まとめ
歯根嚢胞は、むし歯や外傷により生じた歯茎や歯の損傷部分から細菌が歯の根まで侵入すると起こる炎症性の疾患です。
炎症により歯根に病的な袋ができ、そこに膿が溜まっている状態です。
自然に治ることはなく、症状を放置しておくと歯茎のなかに膿が溜まったり、激しい痛みや腫れがみられたりします。
歯を温存できる小さな歯根嚢胞であれば、根管治療や嚢胞摘出術で治療が可能です。
しかし、症状が進行し大きな歯根嚢胞になっている場合、根管治療や嚢胞摘出術では治療が難しく抜歯をしなくてはいけないケースもあります。
歯磨きや歯垢除去などを行い口腔内を清潔に保つようにし、歯や歯茎の状態を観察することが異常の早期発見のために大切です。
口腔内の細部の異常に自分では気付けない場合もあります。定期的に歯科検診を受け、異常の早期発見につなげることも症状を悪化させないためには必要です。
食べ物を噛むと痛みがある・歯が浮く感じがある・フィステルができているなど、歯根嚢胞でみられる症状がある場合は、早めに歯科医院で受診しましょう。
参考文献